八話 エレインの聖水
剣が完成した後、俺はルンバに特別な木材をもらって杖を作成した。
もちろんこれはリリア用である。
俺達としてはやはり魔法使いとしての彼女の力に期待しているのだ。
いかに本人が前衛を希望していてもだ。
【鑑定結果】
武器:パラサイトステッキ
解説:宿主から栄養をもらって成長する魔法用の杖だよー。魔法効率がすごく良いんだけど、成長限界に達すると枯れちゃうから気をつけてねー。
スロット:[魔法操作UP][魔法操作UP][強度UP]
――結果、できたのは予想と違った代物だった。
剣のこともあるしこうなるだろうなとは予想していたので、それほど驚きはなかった。
解説を見る限り危険もなさそうなので、これはこれで良しとしたのだ。
ちなみにスロットはリリアと話し合って決めた物だ。
どうも細かい操作が苦手らしい。若干不安である。
さらに俺が杖を制作している間、エレインには中級ポーションの作成をしてもらっていた。
薬草を指定して採ってきてもらったのもその為だ。
それと俺は杖を作成後、強力睡眠薬を作成した。
使い方次第でかなり役立つ薬だからだ。
加えてエレインの細剣にスロットが二つあることに気が付き、俺は付与術でさらなる強化をした。
【鑑定結果】
武器:鋼の細剣
解説:腕の良い職人が作った上等な細剣みたい。これと言って特徴はないかなー。
スロット:[伸縮自在][操作性UP]
十メートルまで伸ばすことができる伸縮自在を付与したことで、細剣は鞭のようにしなる剣へと変化した。さらに操作性UPでエレインの思うがままに操ることができるようになったのだ。
「やぁっ!」
草原を走っていたホーンラビットの首が一瞬にして飛んだ。
しなる細剣は瞬時に元の長さへと戻る。
正直、俺のスタンブレイドより強力だ。
「なぁ義彦。アタシにもああ言うの作ってくれよ」
「お前には杖があるだろ。いずれ格闘用ガントレットを作ってやるから今回は我慢しろ」
「へーい」
そう言ってふてくされるリリア。
一方のエレインは細剣の新能力にはしゃいでいた。
「見ましたか義彦! 離れた位置にいたラビットが一瞬でしたよ!」
「ああ、驚いたよ」
「やっぱり義彦はすごいです! こんな武器をあっさり創り出してしまうなんて!」
「うんうん、ちょっと落ち着こうな。嬉しいのは分かるから」
全身で喜びを表現する彼女は、子供のように目をキラキラさせている。
よほど付与した能力にご満悦なのだろう。
ふと、彼女のステータスを覗いてみると、上がっていないことに気が付く。
おかしいな。今日の草団子を渡したと思ったのだが。
「ところでステータスが上がっていないみたいなんだが?」
「あ……」
露骨に俺から目をそらした。
さてはコイツ、苦いから後回しにしたな。
俺は自分の草団子を取り出して、水筒の水で流し込む。
【ステータス】
名前:西村義彦
年齢:18
性別:男
種族:ヒューマン
力:3025→4025
防:3023→4023
速:3021→4021
魔:3030→4030
耐性:3028→4028
ジョブ:錬金術師
スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv60・薬術Lv60・付与術Lv60・鍛冶術Lv60・魔道具作成Lv60・????・????
称号:センスゼロ
よし、これであの猪に一歩近づいた。
俺は水筒をエレインに差し出す。
その意味は、ここで今すぐ飲めということ。
「うううううっ、やっぱり飲まなきゃダメですよね?」
「当然だろ。苦いだけで強くなれるんだからもっと率先して飲んでくれ」
彼女は草団子を口に入れて水で流し込んだ。
「にがぁぁああああいっ! にがいよおおおおおおお!!」
地面を叩いて苦しみを表す。
いつまでも舌の上で転がすから苦いのだ。
早く飲み込めばいいものを。
【ステータス】
名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)
年齢:18
性別:女
種族:ヒューマン
力:1555→2555
防:1553→2553
速:1558→2558
魔:1542→2542
耐性:1546→2546
ジョブ:姫騎士
スキル:細剣術Lv12・弓術Lv9・調理術Lv8・裁縫Lv19・栽培Lv18・カリスマLv15
称号:-
これでエレインも2000クラスか。
順調だな。この調子で明日は3000だ。
「さて、せっかく草原に来たんだし色々と狩るとするか」
「では前回狩り損ねたハウリングウルフでもどうでしょうか」
「悪くないな。その辺りを今回は狙うとしよう」
先ほど狩ったウサギを革袋に入れて出発する。
草むらで身を潜める。
臭いを察知されないように風下だ。
「四匹でしょうか」
「いや、もう一匹隠れているみたいだ」
「狼かぁ。楽しみだなぁ」
視線の先には四匹の茶色い毛をした狼がいる。
近くの草むらにもう一匹隠れているので計五匹だな。
鑑定スキルの識別能力は本当にありがたい。
「なぁ、三匹はアタシのものだからな」
「好きにしろ。一応言っておくが油断はするなよ」
リリアは一刻も早く戦いたいのかうずうずした様子だ。
戦闘大好きの賢者って賢者たりえるのだろうか。
賢さよりも圧倒的愚かさが先を行っている気がするぞ。
「よーし、早く戦おうぜ狼!」
我慢しきれなくなった彼女は草むらから飛び出した。
あのバカ、まだ戦闘開始の指示も出してないだろうが。
俺とエレインも遅れて草むらを出た。
「ぐるるるるるっ!」
狼達はうなり声を上げて姿勢を低くする。
向こうも戦闘態勢に入ったようだ。
二匹が牙をむき出しにしてリリアに飛びかかる。
「はぁぁぁ、ふっ!」
目にも留まらぬ拳で狼を地面に弾き落とした。
しかも重要な器官をあの一瞬で的確に潰したらしい。
二匹の狼が再び立ち上がることなかった。
「えいっ!」
鞭のようにしなる細剣が狼の心臓を一突きにする。
あの武器の最も力を発揮する時は一対一の戦いである。
多彩な攻撃方法で無類の強さを発揮するのだ。
一方、俺は地味に狼を仕留めていた。
今のステータスで手こずるような相手ではないからな。
しかし、俺にもちょっとした技や奥の手のようなものは欲しいところだ。
「これで全部か?」
「いや、もう一匹いたはずだ」
周囲を探すと、リリアの後方の草むらに一匹隠れていた。
狼が彼女に飛びかかろうとすると、俺は咄嗟に剣の特殊能力を使った。
「スタンフラッシュ!」
「がうっ!?」
狼は刀身から発した強烈な光に両目が麻痺した。
地面を転がったところですかさずリリアが蹴り殺す。
「助かったよ。ありがとう義彦」
「油断するなって言っただろ。でも怪我がなくて良かった」
意外に使えるなスタンブレイド。
我ながら良い武器を造ったものだ。
俺は仕留めた狼を集めて解体作業に移る。
ナイフで皮を剥いで肉をブロック状に切り分ける。
素材用の革袋に入れるには量が多すぎるみたいだ。
せっかくだしここで軽い食事をするか。
枯れ草と狼の脂を燃料に火を付ける。
その間にエレインが先にとったウサギの肉を食べられるサイズに切り分け、ついでに狼の肉も叩いて柔らかくしてから切り分けていた。
さすが調理術スキルを保有しているだけあって手際が良い。
センスがあるというのはこう言うことを言うのだろうな。
ゲロマズ料理しか作れない俺には羨ましい限りだ。
「できました! リリアさんも一緒に食べましょ!」
リリアは俺の横に座ってエレインから器を受け取った。
俺もさっそく料理に口を付ける。
短時間で作られたスープだが、これがなかなかいける。
ウサギの肉はジューシーでよく出汁が出ており、狼の肉は硬くなりすぎずほどほどに食べられる。
加えて香草が入っているのか臭みが上手く消されていた。
「うめぇ! エレインの作る飯って最高だな!」
リリアは盛大にスープを飲み干す。
コイツはきっと食って、寝て、戦ってれば幸せなんだろうな。
ジョブこそ賢者だが中身はほど遠い存在だ。
「むぅ、なんかひでぇこと考えてないか?」
「気のせいだ」
しかも獣並みに勘が鋭い。
あまり変なことは考えない方が良さそうだな。
そうだ、狼の皮で何か作れないか調べて見るか。
俺は魔道具作成スキルを発動させる。
素材的にこっち向きだと思ったからだ。
「……やっぱ少ないな」
検索をかけてレシピを表示するが数は少ない。
せいぜい十個だ。
そもそも魔道具とは魔力で作動する特殊な道具のことを指す。
その際に使用するのは所有者の魔力や、空中を漂っている魔力、あとは魔力が結晶となった魔石などがそうだ。
で、魔道具が具体的にどのような物かと言えば、オイルの不要なランプやライター、電気を必要としない扇風機、他にも攻撃を軽減する外套や、奴隷契約のスクロールなどがそうだ。
この世界には多種多様な道具が山ほど存在している。
とまぁ、魔道具とはそんな感じの物なのだが。
狼の素材ではあまり良い物は作れそうになかった。
「よく見るとリュックの底が破れかけてますよ」
「あはははっ。さては義彦、攻撃を避けそこなったな」
見ればリュックの底の辺りに傷ができていた。
幼女神に与えられたとは言え安物の初期装備だ、いつかは使えなくなる日も来るとは思っていたが……こんなに早いとは予想外だ。
エレインは自身のリュックから針と糸を取り出して傷を縫い始めた。
「これで町までは保つと思いますよ」
「上手いものだな。そう言えばお前には裁縫のスキルがあったか」
「はい。これでも服や鞄など色々と作れるんですよ」
へー、意外な才能だな。
騎士って剣ばかり振ってるかと思ってたよ。
いや、そう言えばコイツ姫騎士だっけ。
そう考えると納得できなくもない。
ふと、一つのレシピに目が留まる。
それは素材用のリュックだった。
なんでも中に入れた物の鮮度を長期間保持できるというのだ。
これがあれば肉が腐ったりする心配もなくなる。
「エレイン。町に戻ったらリュックを一つ作ってもらってもいいか?」
「はい。構いませんよ」
よし、これで素材用のリュックはできそうだ。
俺がやるのはせいぜい魔法陣を編み込むくらいだからな。
それに下手に最初から作ると別物になる可能性が高い。
俺にはセンスがないのだ。センスが。
「そろそろ宿に戻りましょうか」
「ま、待ってくれ。まだ集めたい素材があるんだよ」
「またですかぁ? 本当は帰りたくないだけですよね?」
うっ、バレてる。
だってあの宿には幽霊がいるんだよ。
一応睡眠薬は作ったけど、できれば使いたくないし避けて通りたい。
「てか、錬金術師ならアレが作れるんじゃないのか。いちいち宿泊に怯える必要もないと思うけどな」
不意にリリアがそう言った。
アレってなんだ?
「聖水だよ。もしくは除霊液とかさ」
「そうか、自分で作れば良かったんだ!」
実は町で聖水を探したのだが、それらしい物は見つからなかった。
辺境の田舎町だし、こればかりは仕方がないと諦めていたのだが、リリアの言葉に俺はハッとさせられた。
その通りだ。ないのなら自分で作ればいい。
急いでレシピを調べて見ると確かにそれはあった。
【聖水】
効果:聖なる力の込められた水で、邪なる存在を退ける効果があるよー。
まさに俺の探していた物はこれだった。
「材料は……汚れなき乙女の魔力が込められた水とシリアンの花びら?」
俺はエレインとリリアに目を向ける。
汚れなき……乙女?
「なんですかその目は! 私はちゃんと汚れなき乙女ですよ!」
「どう言う意味かは分からねぇけど。アタシもそうなんじゃないかな。毎日ちゃんと水浴びしてるし」
エレインから睨まれる。
リリアはあれだな意味を理解してない感じだ。
まぁ、どっちも条件は満たしていると思う。
と言うわけで俺は水を小鍋に入れてエレインに差し出した。
「では魔力を込めます」
鍋の水に彼女が魔力を注入する。
どれほど込めるのか不明なので、しばらく続けてもらった。
すると、水が次第に青白く発光し始めるではないか。
「いつまで続ければいいのでしょうか」
「もういいんじゃないか。後は小瓶に移してシリアンの花びらを一枚入れるらしい」
エレインが水を小瓶に入れている間に、俺は鑑定スキルで周囲からシリアンの花を探す。
あまり数の多い花ではないようで、この辺りでは一輪しか見つけられなかった。
花びらを一枚ちぎって元の場所に戻ると、彼女の持つ小瓶の中に一枚入れる。
「これで聖水の完成ですね」
「ありがとう。これであの宿でも安心して過ごせそうだよ」
一応鑑定スキルで確認してみたが、間違いなくできたのは聖水だった。
心強いアイテムができたことで、いつしか俺は晴れやかな気持ちになっていた。
これで安らかな夜を送ることができる。
ありがとうエレイン。
ありがとう聖水。
俺、今夜は最高に熟睡するよ。
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