四話 初めての仲間

 目が覚めると大きく背伸びをする。

 ベッドから足を下ろすと目をこすってあくびをした。


 昨夜はよく眠れた。

 これも昨日作った強力催眠薬のおかげだ。

 おかげで幽霊に怯えることもなく朝まで熟睡だ。


 部屋の中を見回してみるがあの女の姿はない。


 どうやらいつも姿を見せるわけではないようだ。

 夕方から朝にかけて活発化するようで、日が出ている内はあまり動かないようだ。

 ただ、相変わらず肌寒いのは変わらない。


 俺は外に出る準備をして宿の食堂へと行く。

 そこではすでに食事をするエレインの姿があった。


「おはよう」

「おはようございます」


 席に着くと宿の店主である老人が朝食を運んでくれる。

 今日もパンとサラダとスープか。

 異世界三日目だが、もうすでに日本食が恋しくなっている。

 骨の髄まで刻まれた味の記憶はそう簡単に消えるものではないようだ。


「今日はどうします? また薬草採取とラビット狩りですか?」

「あれはあまり金にならないからなぁ。薬の材料も十分確保しているし……ちなみに他の冒険者はどんな依頼をやっているんだ」

「昨日退治した歩きキノコとかハウリングウルフ退治ですかね。あとはこの辺りで一番の大物、赤毛大猪の討伐といったところでしょうか」


 なんだあの猪そんなに強かったのか。

 とは言ってもこの辺りは弱い魔獣が生息する地域らしいし、あの猪も魔獣全体で見れば下から数える方が早い。


「では草原のヌシを倒すというのは?」

「ヌシ?」


 聞けばあの草原にはヌシと呼ばれる強力な魔獣が生息しているそうだ。

 ただし、目撃情報は少なくどこにいるのかは不明なのだとか。

 唯一確実なのは巨大な赤毛大猪ということくらい。


「そいつを倒せばいくらもらえる?」

「100万ブロスはくだらないと思います。私もうろ覚えなのでギルドで確認してみないとはっきりした数字は分かりませんが」


 へぇ、百万ブロスか。

 高いような安いような微妙な報酬だな。

 いや、実際安いんだろうな。化け物とまで呼ばれている上位冒険者達が動かないと言うことは、労力の割に大した値段じゃないと考えることができる。

 運良く出会えて狩れたらもうけものといったところか。


「じゃあハウリングウルフってやつを狩りに行くか」

「その前に武器屋に寄りませんか。今の義彦の装備では心許ないです。解体用のナイフも袋も持ってませんし、その剣だってぜんぜん研いでいませんよね。他にも着替えの服とかとか持っているようにも見えませんし」

「う……」


 指摘されて気が付く。

 そう言えば確かにそうだ。自分の装備なのにまったく関心がなかった。

 ゲームだったら逐一買い換えたりするのに、現実となるとひどく大雑把になるのが俺の悪い癖だ。

 これからは改めないといけないよな。


「武器屋に行って装備を整えるよ」

「はい」






 ――てなわけでさっそく来たのだが、所詮は小さな町の武器屋だろうなどと内心で舐めていたのを反省している。


 多種多様な武器が所狭しと並んでいて目が回りそうだった。

 おまけにナイフだけでも数十種類もあって、どれがどのような目的で使われるのかさっぱりだ。

 他にも別コーナーに防具が飾られており、革鎧や金属防具など目をひく。


「金属製の防具は……一式500万!? 高っ!」


 高すぎるだろ。これじゃあ手が出せない。

 しかもこれ一番安い奴だからな。


「金属製になるとそれくらいしますよ。これでもまだ安価な方ですし」

「あれ? じゃあエレインが付けている装備ってかなり高額なんじゃ……」

「向こうに良さそうなナイフがありましたよ! さぁ行きましょ!」


 ぐいぐいと背中を押されて防具コーナーから遠ざけられる。

 明らかな話題逸らしだが、ナイフも気になるので今は気にしないことにした。


「これいいな。切れ味も良さそうだし」


 紹介されたナイフは解体用としても戦闘用としても使いやすそうな代物だった。

 デザインも落ち着いた感じで長く使えそうな印象を受ける。

 柄には制作者だろう名前が刻まれていた。


「これを造ったルンバさんは有名な鍛冶職人なんです。実は私も彼の造ったナイフを愛用しているんですよ」

「うん、気に入ったよ。これを買わせてもらう」

「本当ですか!? なんだかおそろいみたいで嬉しいです!」


 俺はナイフと解体した素材を入れる袋を購入する。

 一応、剣も見てみたがどれも高いので今回は見送ることにした。






 武器屋を離れた後は服屋に行って数枚の着替えを購入。

 その後、俺達はギルドに行ってハウリングウルフの依頼を引き受け、町の外の草原へとやってきた。


「今のうちにこれを飲んでおけ」

「ううう、苦いの苦手なんですよねぇ」

「お前、本当に強くなる気があるのか」

「飲みます! 飲ませてください!」


 爆UPの薬を二人そろって飲み込む。

 相変わらず舌が痺れるほどの苦さだが最初の頃よりはマシに感じられた。

 元々カフェイン中毒者だったし、苦いのは慣れている方だ。

 だが、エレインは耐性がないのか地面を転がって苦みにもだえる。


「にがぁぁああああいっ! なんでこんなに苦いの!?」


 そんなこと俺に言われても困る。

 おおかた材料であるプロンかレムのどちらかが原因だろう。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:2025→3025

 防:2023→3023

 速:2021→3021

 魔:2030→3030

 耐性:2028→3028

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv60・薬術Lv60・付与術Lv60・鍛冶術Lv60・魔道具作成Lv60・????・????

 称号:センスゼロ



 【ステータス】

 名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:555→1555

 防:553→1553

 速:558→1558

 魔:542→1542

 耐性:546→1546

 ジョブ:姫騎士

 スキル:細剣術Lv12・弓術Lv9・調理術Lv8・裁縫Lv19・栽培Lv18・カリスマLv15

 称号:-



 それぞれ千ずつ上がっている。

 この調子で一万を目指したいところだ。


「ふふふ……私がこんなに強く……」


 エレインは自身のステータスを見ながらにやついていた。

 いつも可愛い彼女だが、今だけは気持ち悪い。


「で、そのハウリングウルフというのはどこにいるんだ?」

「えーっとですね、確か草原の東の方だったと思います」


 俺達はのんびり道を辿りながら東へと進む。


「あ、あの、もしよければ私と正式にパーティーを組んでいただけないでしょうか」


 エレインの突然の申し出に俺はきょとんとしてしまった。

 まぁ、ちゃんとした仲間とは言い難い状況だよな。

 でもどうして急にそんなことを言い出したのだろう。


「義彦は身知らずの私に親身になって話を聞いてくれましたし、助けてくれるとも約束してくれました。それに一緒に依頼をやってみて分かったんです。この人は私のことをちゃんと考えてくださる方なんだと」

「そりゃあ仲間だしな」

「いえ、貴方にとって私は足手まといのはずでした。ですが、私に合わせて依頼を受けてくださり、戦いの前には必ず私にできるかどうかを聞いてくださりました。昨日までなら仲間になるのもおこがましい存在だったでしょう、ですが今の私ならきっと貴方のお役に立てると思います。どうか本当の仲間にしていただけないでしょうか」


 頭を下げる彼女に俺は呆れる。

 この子はずいぶんと自分の価値を低く見積もっているんだな。


 足手まといだったのは事実かも知れないが、その分俺は彼女の提供してくれた情報に助けられている。

 それに育てる計算も入れた上で仲間として受け入れているんだ。

 まぁ、美味しいところだけ啜って逃げられる危険もあったわけだが、それだって俺は覚悟していた。そう考えるとちゃんと仲間になりたいって言い出してくれた彼女は、やっぱり素直で良い子なのだろう。


 ただ、彼女に合わせて依頼を受けたというところは間違いだ。

 だって俺、冒険者になったの初めてだし。

 たぶんその辺りのことを彼女は忘れている。


「俺の方こそお願いするよ。正式な仲間になって欲しい」

「義彦さん……」

「さん付けはなしだろ」

「あ、そうでしたね」


 エレインは恥ずかしそうに微笑んだ。






 東の草原に到着した俺達は、さっそく周囲を見渡す。


「この辺りにいるんだよな」

「ええ、聞いた話では」


 狼らしき姿は見えない。

 鑑定スキルで索敵してみるが反応はなかった。


「焦らなくてもその内出てくるだろう。それよりここの植物は知らない物が多いな」

「こっちの花はなんて名前ですか?」


 二人でしゃがみ込んで植物を採取する。

 エレインも薬のことがあってから素材に興味を持つようになったようだ。


「私も義彦のように薬が作れたらいいのですが」

「できないこともないだろうがレシピが――エレインが作る?」


 ハッとした。

 そうだよ、彼女が作ればレシピ通りの物ができるじゃないか。

 作り方は俺が教えればいいだけだし問題ないはず。


 さっそく採取した草を素材に作れる薬を検索する。


「中級ポーション! これだ!」


 すり鉢をリュックから取り出してエレインに渡す。


「いいか、俺の言う通りに作るんだぞ」

「わ、わかりました。やってみます」


 すり鉢に採取した草を入れてすりつぶす。

 それに少しの水を加え、クリッコの実を一つ加えてすりつぶす。

 さらにプカプカの花びらを二枚入れて鍋で煮て、冷ましたところでザルでこして液だけを取り出す。

 この液体こそが中級ポーションだ。



 【鑑定結果】

 飲み薬:中級ポーション

 解説:初級ポーションより回復量が上がってるよー。深い刺し傷でも飲めば元通りー。病気には効かないから注意してねー。



 よし! 狙い通り!

 やはり称号は俺にしか効果を及ぼさないようだ。

 これで回復薬の調達はクリアーしたようなもの。

 一安心だ。


「わ、私にも薬が作れましたよ!?」

「そりゃあ指示通りに作ればできるさ。悪いけど中級ポーションはエレインに作ってもらうことになるから」

「私がですか!?」

「事情があって俺にはまともに作れないんだよ」


 そう、センスゼロとか言う称号さえなければな。

 正直俺はこの称号さえなければ普通のセンスの持ち主だと思っている。

 だってさ、俺が良いって言うものはだいたい皆良いって言うんだよ。

 これっておかしいと思わないか。つまり俺はこの称号があるからそう呼ばれてるだけで、創作センスが皆無なんてことは事実ではないんだ。


「じゃあその代わり私の欲しいものを作ってくれますか?」

「交換条件か。いいだろう」


 するとエレインは指をモジモジさせて顔を赤らめる。


「……ように良い物を」

「なんだって?」

「美容に良い物を作ってください!」


 ああ、美容ね。

 女の子だし欲しがって当然だよな。


 けど、俺の手でそんな物が作れるだろうか。

 それすらも彼女に作らせたら交換条件にならないし。

 作るしかないんだろうなぁ。


 一応美容関係でレシピを調べてみると、数十種類ヒットした。


 傷薬でステータスUPの薬ができるくらいだからなぁ。

 これも別物ができる可能性が高い。

 救いなのは今のところ飲み薬には飲み薬しかできていないところだな。

 薬から武器なんて物理法則を超えた物ができた日にはもうお手上げだ。


「あの……そんなに悩まないでください。石鹸とかでいいですから」

「うん? ああ、分かってるさ。とりあず楽しみにしていてくれ」

「は、はい!」


 発動している鑑定スキルに反応があった。

 視界にハウリングウルフの文字が表示されたのだ。

 しかも相手はまっすぐこちらへ向かってきている。


 ……あれ? もう一種類表示されてる?


 狼の後方に『赤毛大猪(長寿成体)』などと出ている。

 これってもしかしてヌシか。


 茶色い毛をした狼達は俺達などに見向きをもせず通り過ぎていった。

 そして、俺達の前で足を止めたのは体高三メートルにもなる巨大な猪。


「ぶぎぃいいいいいいいいっ!」



 【ステータス】

 名前:ヌシ

 年齢:164

 性別:雄

 種族:赤毛大猪(長寿成体)

 力:4146(5146)

 防:4367(5367)

 速:4668(5668)

 魔:3180(4180)

 耐性:3047(4047)

 ジョブ:-

 スキル:脚力強化Lv26

 称号:草原のヌシ



 あ、うん。

 ヤバいぞこれ。


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