一話 俺にセンスがないのは初めから知っていた

 異世界に転生した俺はひとまず現状確認を行う。

 一応この世界に合わせて服を与えてくれているようだ。

 それに革製の防具と腰には鉄の剣。

 背中のリュックには毛布や水筒の他に、銀貨と金貨が数枚入った革袋があった。


 ジョブに関しては騙されたが、ちゃんと最低限の物資は与えてくれていたようだ。

 それにスキルのおかげで言葉の方も問題なさそうだ。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:25

 防:23

 速:21

 魔:30

 耐性:28

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv60・薬術Lv60・付与術Lv60・鍛冶術Lv60・魔道具作成Lv60・????・????

 称号:センスゼロ



「でもどうしてほとんどのスキルがLv60なんだ?」


 俺は首をかしげる。

 異世界言語を見れば60がMAXでないことは明らか。

 どうせなら全てのスキルを上限まで上げていて欲しかったな。

 あと????ってスキルはなんだろうか。


 そのほかにも気になるのは称号。


 センスゼロという文字が俺を苛立たせた。

 分かっちゃいるがわざわざ称号に付けなくてもいいだろうに。

 まさかあの幼女の嫌がらせか。だとしたら大成功だ。


 ……待てよ。

 よく考えてみれば称号には特殊な能力が設定されている場合が多い。

 このセンスゼロもその類いかもしれない。


 鑑定スキルで称号を確認すると念じてみた。



 【鑑定結果】

 称号:センスゼロ

 解説:この称号を持ってる人は、あらゆる創作物を別の物に変化させるよー。一応規則性はあるみたいだけど、それを見定めるのは難しいと思うかなー。ちなみにこの称号は義彦が日本で生きていた時にもあったみたいー。



 お、おお……幼女神が解説してくれるのか……。

 しかし地球にいた時もこの称号があったと言うのは気にかかる。

 実は見えないだけでこの世界と似たようなシステムが存在しているのかもしれないな。

 だとすれば俺が異常なほどセンスがないことにも納得できる。


 俺は鉄の剣を抜いて軽く振ってみた。


「重いな。やっぱりステータスは低いみたいだ」


 これは予想だが、あの幼女神は三十歳の俺の身体能力を、新しい身体にそのまま反映させたのではないだろうか。まぁ、後方で支援する錬金術師なら低くても問題ないという判断なのかもしれないが、これはいくらなんでも低すぎる気がする。


 を目指すんだからもっとステータスを上げないとダメだな。

 と言うわけでさっそくモンスター退治を開始する。


 見つけた道を辿りながら、草原を歩いている敵を経験値に変えることにした。


「でりゃぁ!」


 角ウサギに剣で斬りかかる。

 だが、相手は素早く回避し、俺の太ももに頭突きを食らわせた。


「いでぇぇええええっ!!?」


 やばい。めちゃくちゃ痛いぞ。

 しかもたった一回の攻撃で深い傷ができている。

 ウサギだと侮っていたけど、ぜんぜん強いじゃないか。


 どうする。ここはひとまず逃げるか。

 それとも戦うか。


 迷っている間にウサギは逃げ出した。


 ダメだ。剣士としてやっていける自信がなくなってきた。

 ゲームなら痛みはないし危機感もなかったけど、ここは当たり所が悪ければ一発で死ぬ。正真正銘のリアルだ。甘く考えすぎてたかもしれない。


「やべ、血が止まらないぞ」


 太ももから血液が流れ続けている。

 早く止血しないと。

 リュックから毛布を取り出して剣で切り裂く。

 それを包帯のように巻いてひとまず血は止まった。


 けど、痛みでまともに動けない状態だ。


 ここから人の住んでいる場所まで向かうにはかなり歩くことになるだろう。

 と言うのも道の先には地平線だけが続いていたからだ。

 迂闊だった。

 もっと慎重に動くべきだったな。

 転生で浮かれていた先ほどまでの自分を呪う。


 ふと、脳裏に己のジョブがなんであるかがよぎる。


「そうだよ! 俺は錬金術師なんだから傷薬くらい作れるはずだ!」


 薬術スキルを発動させると、視界にウィンドウが出現する。

 そこにはいくつもの薬のレシピが連なっていた。


 俺は下へスクロールして傷薬を探す。


 どこだ。どこにある。

 つーか、作れる薬の数が半端ないな。

 五百以上レシピがあるんだが。


「あった! えーと、必要な素材は……プロン草とレム草か」


 鑑定スキルで周囲を探せば一発で見つかる。

 どちらもそこら辺に生えている素材みたいだ。


 俺は痛みを我慢しつつ草を採取。

 比較的綺麗な石を集めて、草をその上ですりつぶす。

 そこから二つの草を混ぜ合わせて団子状にした。


 これで完成みたいだが、飲み込むには勇気がいるな。

 そうだ、念の為に鑑定で確認しておくか。



 【鑑定結果】

 飲み薬:ステータス爆UPの薬

 解説:反則的な薬だよー。すっごく苦いから覚悟してねー。ちなみに一日一個推奨。三個飲むと死んじゃうよー?



 あれ? 俺、傷薬を作ったよな?

 なんでステータスがUPする薬ができあがるんだ?

 首をひねりつつやっぱり俺にはセンスがないのだなと再確認する。

 悲しいがこれが俺の背負っている運命だ。今に始まったことじゃない。


 とりあえずステータスが上がれば傷も塞がるかもしれない。

 俺は一瞬迷ってから草団子を口に入れた。


「ん゛ん゛~~~~~!?」


 クソ苦い。もだえ苦しむほどに激苦だ。

 なんとか飲み込むと、直後に俺の腹部が熱くなった。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:25→1025

 防:23→1023

 速:21→1021

 魔:30→1030

 耐性:28→1028

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv60・薬術Lv60・付与術Lv60・鍛冶術Lv60・魔道具作成Lv60・????・????

 称号:センスゼロ



 はぁぁああああっ!?


 俺は自分のステータスを何度も見直す。

 目をこすって数字を確かめた。

 やっぱりどの項目もプラス千になってる。

 目の錯覚じゃない。現実だ。


 太ももを見ると傷が塞がっていた。

 恐らく再生能力が格段に上がって治癒したのだろう。

 自分で言うのもなんだが、この薬はヤバい。

 うっかり作っていいレベルの薬じゃないぞコレ。


 試しに岩を殴ってみると、木っ端微塵に粉砕した。


「うそだろ……」


 堅めの発泡スチロールを殴ったような感触。

 自分のことだけどドン引きした。


 剣を抜いてみればまるで羽のように軽い。

 あれだけ重く感じていたのが嘘のようだった。

 本気で振るえば風が巻き起こって土煙が上がる。

 うん、化け物だな俺。


 結果的に経験値集めしなくても強くなったので、俺は人の住んでいるところを目指して歩き始めた。






「これは薬に使えそうだな。こっちは道具向きの素材みたいだ」


 時々立ち止まりながら素材を集める。

 こういうのっていいよな。

 ちまちま収拾していざという時に活用する。

 生産職の醍醐味だと思う。


 俺もまともに作れたら、もっと別の方向性でゲームを楽しめたんだろうな……。


「きゃぁぁあああああっ!」


 女性の悲鳴が耳に届く。

 俺は声のした方へと向かった。


「こ、こないで! 来たら斬りますよっ!?」

「ぶぎぃいいいっ!」


 そこでは牛ほどもある大きな猪が鼻息を荒くしていた。

 睨まれる女性は細剣を獣に向けつつも、地面に腰が抜けたように座り込んでいる。


 猪は姿勢を低くして突進の予備動作に入っていた。


 まずい、このままだと女性が殺されてしまう。

 俺は咄嗟に女性と猪の間に割って入ると猪の突進を全身で受け止めた。

 受ける衝撃。だが痛みはない。


「やっぱステータスがあがるとこうも違うものなんだな」


 猪は俺に掴まれて逃げることも進むこともできなくなっていた。

 今の俺にとっては可愛い物だ。

 いくら噛みつかれても痛くもかゆくもない。


「怪我はないか?」

「は、はい! だいじょうぶでしゅ!」


 ここからでは顔はよく見えないが、どうやら若い女の子のようだ。

 よほど怖かったのか噛んでいた。

 よしよし、お兄さんが今すぐにコイツを片づけてやるからな。


 俺は掴んだ猪を一気に持ち上げて近くの樹に投げる。


 勢いよく叩きつけられた猪は悲鳴をあげた。

 直後、メキメキと樹が倒れる。

 そこからさらに俺は剣を抜いてぐったりとした猪の首に切っ先を差し込んだ。


「ふぅ、仕留めたみたいだな」


 初めての戦いとしては上出来じゃないだろうか。

 生き物を殺す罪悪感もなかったし、戦いで食っていける可能性が見えたな。


 あ、そうだ。女の子。


 振り返って助けた子を見る。

 次の瞬間、俺はギョッとした。


 絹のような艶のある長い銀髪に深紅の瞳。

 シミ一つ見当たらない白い肌と恐ろしく整った美しい容姿。

 その身体には白銀の防具が着けられていた。

 見た目は完全に女騎士だ。


「あの! 助けていただきありがとうございます!」


 立ち上がって深々と頭を下げる少女。

 見た目だけで言えば歳は十七、八くらいか?


「私はエレイン。駆け出しの冒険者をしています」

「西村義彦だ。仕事は……まだ就いていない」


 俺はさらに、この辺りに来るのは初めてで、町がどこにあるのかも知らないのだと説明する。


「義彦さんはもしかして国外から来た方ですか?」

「そうそう、旅をしててさ。この国へ来たのは初めてなんだ」

「でしたら助けていただいたお礼もかねて色々と案内いたしますよ。この近くにクラッセルという町があるのですが、私もそこで暮らしているんです」

「そうなのか。じゃあ案内してもらおうかな」


 話はまとまり俺はエレインに町まで案内してもらうことにした。



 ◇



 辺境の町クラッセル。

 周囲を分厚く高い外壁に囲まれているこの町は、豊かな土地と、凶暴な魔獣の生息数が少ないこともあって駆け出し冒険者の町として栄えているそうだ。


 町に入った俺は異国情緒溢れる景色に興奮していた。


「おおっ! あれはなんていう料理だ!?」

「ラパですね。薄く切った肉に衣を付けて油で揚げます。オヤツにするには最適ですよ」

「じゃああの人を乗せているラプトルみたいな生き物は!?」

「騎乗竜です。あれはクワン種と呼ばれる比較的安価で手に入るリトルダイナーですね」


 ヤバいヤバい。何を見てもワクワクが止まらない。

 俺の知的好奇心がうずきまくってるよ。


「義彦さんは変わった人ですね。いくら国外から来たと言ってもそこまで変わらないと思うのですが」

「え? ああ、そうだよな! でもほら、もしかしたら俺の知っているものとは違うかもって思うじゃないか! なんてたって外国だからさ!」

「そう……なのですか? 私にはよく分からない感覚ですね」


 あぶねー、危うく異世界人だってバレるところだった。

 もちろんバレたからと言って何かあるわけじゃないが、念の為に俺が元地球人だってことは伏せることにしている。

 説明を求められても困るしさ。


 エレインは適当な食堂へ俺を案内した。

 どうやら食事をおごってくれるそうなのだ。


「大したお礼ではないですが、ぜひ好きなもの好きなだけ頼んでください」


 マジかよ。この女騎士太っ腹だな。

 じゃあ遠慮なく。


 俺は店員に大皿料理を十品注文した。


「そ、そんなに食べるのですか!?」

「腹一杯食べようと思うとこれくらいはないとさ。いやぁ、本当にありがたいよ。ここ最近、ひもじい思いをしてたからさ」


 彼女は慌てて革袋の口を解いて中を覗く。


「ギリギリ……今月分のお金が……」

「いただきま~す!」


 運ばれてきた料理を俺はさっそくぱくつく。

 それもちょっと癖のある味付けだが十分に美味い。

 いやぁ人助けっていいものだな。

 タダ飯が食えるなんてさ。


「食べながらでいいので、私の頼みを聞いてもらえないですか」

「頼み?」


 俺は食事の手を止めてエレインを見る。

 彼女はいきなりテーブルに額が付きそうなほど頭を下げた。



「私を調教してください!!」


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