センス皆無の最強錬金術師 ~のんびり旅をしながら異世界を存分に楽しみます~
徳川レモン
一章 始まりの町クラッセル
プロローグ
カタカタカタカタ。薄暗い部屋の中でキーを打つ音だけが木霊する。
俺の目に見えているのはPC画面。
最強クラスの装備を携えたキャラクター達が巨大な敵と戦っていた。
「回復頼む! HPヤバい!」
仲間の賢者から回復魔法がかけられ、俺の操っているキャラクターは一命を取り留める。そこから錬金術師に支援アイテムを与えられ全能力が二倍に上昇、さらに攻撃と防御を上げるアイテムが与えられた。
すでに敵のHPも残すところあと僅か、勝負に出るなら今しかない。
聖騎士である俺は最大の技を発動。
輝く聖剣で竜の力を解き放つ。
強大なモンスターは一刀両断され消滅した。
「終わったー!! やっとラスボスを倒した!」
椅子の背もたれに体重を預けて背伸びする。
本当に長い戦いだった。
五時間もかかるとは思ってなかったからな。
部屋の窓を見るともう朝だ。
チュンチュンと雀が鳴いている。
チャットで仲間に挨拶をしてからログアウトした。
「よし、祝杯を挙げよう。コンビニでなんか買ってくるか」
俺は近所のコンビニへと行く。
「いらっしゃいませ!」
コンビニの中へと入ると、聞き覚えのあるメロディーが流れた。
店員は出勤前の客を待ち構えていて陽のオーラ全開だ。
陰のオーラを漂わせている俺にはひどく眩しい。
さっさと買って帰るとするか。
冷蔵庫からコーラを抜き取ってスナック菓子を籠の中へ。
他にもおにぎりやデザートを手当たり次第に入れた。
会計を済ませ店を出る。
コンビニ前の歩道では、ランドセルを背負った子供達が集団で登校していた。
いつもと変わらぬ光景に思わずあくびをしてしまう。
「なんだよ! 文句あるのか!」
「うわっ!?」
子供同士のいざこざだろうか。
気弱そうな男の子が突き飛ばされて道路で尻餅をつく。
車道では一台のトラックが向かっていた。
しかも車体はふらふらしながらも結構なスピードを出している。
居眠り運転だと思う。車に速度を落とす気配はない。
俺は袋を放り出して走り出した。
なぜそうしようかと思ったのかは分からない。
ただ、身体が勝手に動いたのだ。
道路に飛び出た俺は、男の子の服を掴んで歩道側に放り投げる。
間に合った。
これであの子は助かったはずだ。
「危ない!」
誰かの声が聞こえて、俺はすぐ目の前にトラックがあることに気が付く。
今からでは逃げられない。確実に直撃する。
そして、恐らく俺は死ぬ。妙な確信があった。
ああ、まさか今日死ぬことになるなんて。
ネトゲ廃人なんて言われながらも、トッププレイヤーとして名を馳せたこの俺が。誰にも倒せなかったラスボスを仲間達と共に討伐し、自他共に認める最強の剣士となったこの俺が。
次の瞬間、視界は真っ白になった。
ハッとする。
「どこだここ?」
周囲を見渡せば真っ白な光景が飛び込む。
床も天井も真っ白。
だが、壁はなくどこまでも果てしなく広がっていた。
まさかここは天国?
「こんにちはー」
振り返るといつの間にかデスクがあって、そこにはツインテール幼女がいた。
しかもめちゃくちゃ可愛い幼女。
「お前は……何者だ?」
「神様だよー?」
神様だと? おいおいマジかよ。
てことは俺はやっぱり死んだのか。
じゃあここは天国、もしくはその手前の霊界ってやつか。
「一応確認するけど、君は西村
「ど、童貞ちゃうわい!」
「そうなの? こっちの情報には童貞ってあるけど……ま、いっかー」
そう、俺は童貞ではない。
他は全て真実だとしてもそこだけは認められない。
誰がなんと言おうとだ。
「あのね、君に謝りたいことがあるんだー」
……謝りたいこと?
俺は顔を上げて幼女を見た。
「実は殺す予定になかった男の子を間違って殺すところだったんだー」
「ど、どういうことだよ」
「神様って地球で言うところの死神の仕事もやっててー、本来なら死ぬ運命の人をそれとなく自然に殺すんだー。でね、アタシうっかり死ぬはずのない子をリストに入れちゃってたんだ」
「俺はどうなんだよ。そのリストに入ってたのか」
「えーとね、義彦の場合は勝手に死んじゃったパターンかな」
のぉおおおおおおお! 勝手にSINNDA!
もっと言い方ってものがあるだろ! そっちのミスで俺は身を挺して子供を助け、失わずに済んだ命を失ったんだぞ!
「殺しちゃってごめんねー」
幼女はエヘヘへと笑みを浮かべる。
いやいやいや、可愛く言ってもダメだからな!?
絶対に許さないぞ!
「でね、お詫びとして転生してあげようかなー、なんて思ってるの」
「転生!? それはまさかチート付きで!?」
「うん、チートあげるー」
これはまさか小説で見る神様チート転生なのか。
だとすればこれは人生をやり直せるチャンスじゃないか。
上手くいけば最高の第二の人生を歩むことだってできる。
ならば早速交渉だ。
「赤ん坊から始めるのは嫌だから18歳くらいから頼む」
「いいよー」
「それと転生先はゲームファンタジー系異世界で」
「うんうん」
「それとチートはゲームで使っていた聖騎士の能力をくれ」
「だめー」
よーし、これで異世界で最高の冒険が……今だめって言わなかったか?
「なんでだよ!? もしかしてスキル系のチート!?」
「ちがうよー。チートはもう決まってるのー」
は? もう決まってる?
「あのね、義彦になってもらいたいのは錬金術師なの」
「生産職!? それだけは絶対ダメだ! 断る!」
「えー、なんでなんで!? 錬金術師カッコいいよ!?」
チートを格好良さで決めるなよ。
それに俺が生産職を拒絶するのにはちゃんとした理由がある。
気が付いたのは小学校の頃にあった家庭科の授業だったか。
初めて作った料理はゲロマズで俺を含めた班のメンバーが嘔吐でぶっ倒れた。
そして、高校に上がる頃には自覚していた。
どうやら俺にはあらゆる創作センスが欠片もないことに。
センスのなさは驚くことにゲームにも如実に表れた。
生産職になった俺はポーションを作ることにした。
だがなぜか別の物になってしまうのだ。
他の薬にしてもハイポーションができたり猛毒ができたりと、バグでもあるのかと思うようなことが次々に起きてしまった。ここまでくるともはや呪いだ。運命が何も作るなと言っているように思えた。
だからもっと格好良くて創作センスなんて関係のない剣士を目指したのだ。
おかげで俺は仲間と共に最強のパーティーとなり、まだ誰も倒していなかった最強のラスボス討伐を果たしたのである。
そう、俺がなるべきは剣士。決して生産職ではない。
「だいたいなんで錬金術師なんだ」
「昨日読み終わった小説が錬金術師の作品だからー」
「ざけんなよ! 完全にお前の趣味じゃねぇか!」
俺はチート剣士で成り上がるんだ。
もうそう決めている。
ここだけは絶対に折ることができない条件だ。
「どうしてもダメ?」
「ダメだ」
「本当に?」
「うるうるしてもダメなものはダメ」
しょんぼりする幼女に少しばかりの最悪感を抱く。
なんでこんな小さな子に神様やらせてんだよ。
もっとちゃんとした神様っていないのか。
「しょうがないか、じゃあ聖騎士の能力を付けとくねー」
そうそうそれでいいんだ。
転生に神様の私情なんて挟まなくていい。
これは巻き込んで殺したことへの謝罪なんだからさ。
幼女の神――面倒なので今後は幼女神と呼ぶことにする――は、空中に現れた半透明なウィンドウをピコピコ押してなにやら設定する。
「これで義彦は異世界に転生っと」
すると身体が薄くなり始めた。
じきに転生するらしい。
「殺されたことにはちょっとムッとしたけど、こうしてチート付きで転生してもらえることには感謝している。ありがとう」
「気にしなくていいよー、またねー! バイバイ!」
俺は消える寸前、幼女神にサムズアップした。
◇
ドッスン。
尻が割れるかと思うほどの衝撃で俺は目が覚めた。
「いっつうううううっ!!?」
俺は尻を押さえたまま地面を転がる。
十分ほどしてようやく痛みが治まり立ち上がった。
くそっ、あの幼女俺に恨みでもあるのかよ。
扱いが雑すぎるだろ。
「それでここが異世界なのか――」
尻をさすりつつ目に飛び込んできた光景に口を閉ざす。
鮮やかな緑が広がる草原。空は眼が痛くなるほどに青く、太陽は気持ちの良い光で地上を照らす。頬を撫でるのは爽やかな香りの風だ。草原では角の生えたウサギが走っており、他にも見たことのない植物や動物がちらほらと視界に入る。
間違いなく俺の知らない世界だ。
「やっった! 俺は異世界に転生したぞ!」
これからチートを使って異世界を満喫するんだ。
もうヒキニート乙なんて誰にも言わせない。
早速「ステータス」と唱える。
ゲームファンタジーならステータスが見られるはずだ。
目の前に突如として出現した半透明なウィンドウ。
そこには俺のデータが記されていた。
【ステータス】
名前:西村義彦
年齢:18
性別:男
種族:ヒューマン
力:25
防:23
速:21
魔:30
耐性:28
ジョブ:錬金術師
スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv60・薬術Lv60・付与術Lv60・鍛冶術Lv60・魔道具作成Lv60・????・????
称号:センスゼロ
ステータスが……低い!?
この世界での平均は分からないが、とても高いとは思えなかった。
試しに岩を見つけて殴ってみたがびくともしなかった。
やはり低いと見てよさそうだ。
それよりも問題はジョブである。
あの幼女神め。
俺を騙しやがったな。
「おい、これは何かの間違いか!?」
空に向けて叫んだが返事はなかった。
ちくしょー! 騙されたー!!
俺は地面に両手を突いてうなだれた。
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