第10話 恋と妹のW進路。
「ようこそいらっしゃいました~」
「うげげ……」
結局澪は一日虹色荘に泊まることになった。しかし、あたたかく迎えてくれる麗華さんに対しこの態度だ。人見知りは俺がいなかった期間に悪化しているかもしれない。今もみんなで食卓を囲んでいるにもかかわらず俺にぴったりくっついてうつむいている。
テーブルには澪歓迎会ということで無駄に豪華すぎる料理が並んでいた。
俺が澪を引きはがそうとしていたら耳元で怪しい声が聴こえてきた。
「ハアハア、兄貴!!いや、お兄さん!おいら妹さんに一目惚れッス!」
気持ちわる。こいつは本当に危ないやつだ。これだから澪を泊めるのは嫌だったんだ。
てかお前は彩音先輩が好きだったんじゃねえのか、と俺がいうのは野暮ってもんだ。かくいう彩音先輩はいつもより元気がなく箸が進んでいないように思えた。
「でも、もう部屋が全部埋まってるわよね?澪ちゃんどこで寝る?」
「是非おいらの部屋に――」
「俺が物置で寝るから、澪が俺の部屋で寝ろよ」
「ダメッ!!一緒に寝る!」
その発言はこの状況ではかなりまずいです。麗華さんは頬を赤らめ微笑んでいる。武蔵は顔を真っ赤にしてふんぞり返っている。そして先輩は目を丸くして茫然とこっちを見ている。
「こいつ俺の前ではこんな冗談言うんすよ、ハッハッハ」
そう誤魔化しながら俺は澪にアイコンタクトを送った。
『とりあえず話を合わせてくれ』
するとこう返ってきた。
『お兄ちゃん大好き』
……話にならん。俺はその場から逃げるように澪を連れて部屋に行った。
「明日朝早くの電車で帰るんだろ?もう9時だし寝ろよ」
「お兄ちゃんも寝ようよ」
「お前が寝るまでは居てやるよ」
澪から返事は無かった。とりあえず電気を消しその場に座った。
「お兄ちゃん、なんで今日澪が来たか分かる?」
「そりゃ気恥ずかしいけど俺に会いに、だろ」
「えへへ、それが9割なんだけどね。あと1割は相談があったんだ」
「そういうのは早く言えよ。何だ?相談って」
澪は少しためらったように咳払いをし、口を開いた。
「進路のこと。……まだはっきり決めれてないんだよね」
「なんだ、そんなことか。でも成績で決めるしか無いんじゃないか?」
「それはそうなんだけど……」
沈黙が続く。
……今日ははしゃいでたしな。寝てしまったらしい。
「でも、本当に決まらなかったら双校に来れば俺がいるからな」
聞いてるはずもないのにキザなことを言ってしまった。いや、聞かれていないからか。
ガチャ。俺は部屋を出て物置へと向かった。
「うふふ。進路決まっちゃった」
その日は久しぶりに夢を見た。澪が大けがをしたあの日の夢。
あの時から澪の中の時計は止まったままだ。だから俺にしかすがれないし、だからあんなに俺の前では元気に振る舞っているのだろう。
目が覚めたとき、頬を涙がつたっていた。
「じゃあね、お兄ちゃん。また会いに来るよ」
「ああ、俺の方も近々帰るって伝えとってくれ」
電車が出発の時間となった。澪が電車に乗り込み、振り向きざまに言った。
「進路の話だけど、私決めたっ!」
「そうか。やっぱりお前は一人で決めれるやつだと思ってたよ。で、どこ高にするんだ?」
澪はモジモジしながらうつむいている。
プシュー。ドアが閉まり始めた。
「澪は、澪はやっぱりお兄ちゃんのお嫁さんになる!!!!!」
バタンッ!!
何一つ解決しない答えだった。しかしやっぱり血がつながった兄妹だな、と実感させられた。
変なところで頑固でそのくせ意気地なしでコミュ障。
なんだかんだあわただしくて疲れたけれど、楽しい夏休みだったな。
涼しい北風が秋の匂いを連れてきている。夏が去り、秋が夢を持ってくる。
楽しかった思い出が君の香りを連れてくる。
「彩音先輩!!」
「えっ!?」
「俺はあんな意味があるなんて知らないでその……関節キスを強要してしまいました。責任というのは難しいですけど、とりあえずすいませんでした!!」
「いいよ……!どうせ分かってたし……」
「先輩……?」
その表情を忘れることは一生できないだろう。脳裏に焼き付いて離れない。
笑顔と涙が混ざり、どこか諦めてしまったような、でもスッキリしたような、そんな顔。
「また……ゼロからってだけだよね、諦めてなんかないからっ!」
そういうと先輩は走り去ってしまった。
そんなこんなで真っ白い少女に出会い、一生懸命になれるものを見つけた季節。
長いようで一瞬で。楽しいようで胸が痛いような、そんな俺の夏が終わった……。
美少女転校生に美人先輩、真面目委員長まで俺のことが好きになってしまった件。 爆裂☆流星 @okadakai031127
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