第7話 映画へ行こう。
突然だがみんなは映画をみるだろうか。
映画とひとくくりにいっても様々なジャンルがある。恋愛、ホラー、ミステリーなど。
でも映画と聞くとやはり一番に出てくるのは『デートスポット』ではないだろうか。
若い男女が一緒に恋愛映画を見て気づいたら手と手が触れ合っていたり、ホラー映画を見て思わず抱きついてしまったり。
かくいう俺もなぜか委員長と水瀬の三人で映画館に来ていた。両手に花とはこのことだが、どうにも周りからの視線が痛い。なぜこんなことになってしまったのだ。
時は昨日の夜にさかのぼる。
「奏多君、明日暇でしょ」
なんだその決めつけたような言い方。俺だって予定の一つや二つあるに決まってるだろ。
と、言いたいところだが、俺の部屋にかかっているカレンダーは相変わらず真っ白だった。
「非常に頼みづらいんだけど……。明日一緒に映画に行ってほしいの」
「うえおっ!?それはまさかのデートのお誘いですか?」
「ある意味そうなんだけど……」
話によると委員長が通ってる教習所の演技の課題で『恋愛』がでたがどうすればいいのかわからないので恋愛映画を参考にしたいらしい。でも、映画はチケット代が高いため諦めようとしていたが友達から『カップル割引』なるなんともいえない恋愛映画特有の割引があると聞き、相手役、つまり彼氏役に俺を選んだらしい。
「どうして俺?委員長モテそうなのに」
「はぁ!?バカにしないでよね。私は恋愛なんて微塵も興味ないだけなんだから。あなたとは同じ屋根の下で暮らしてるんだし頼みやすいってだけなんだからっ!!」
さっき「非常に頼みにくい」とか言ってたくせに。まぁ俺も将来本物のデートするときの参考になるかもしれないし行ってやってもいいけど。参考にならない可能性のほうが高いが……。
「それなら私も参加したいです」
いつからかドアの側に立っている水瀬が俺をジト目でにらみながら言った。
「恋愛映画なるものを見てみたいと思っていたのでちょうどいい機会ですし。いいですよね、委員長さん?」
「ええ、まぁいいけど……。」
―― そして現在に至る。――
「そろそろ時間だし行こうぜ。でもその前に……」
近い。近すぎる。水瀬が俺の腕に抱きついてきてその……見た目より大きいお胸が当たってその……。
「水瀬、少し離れてくれ。そうしてくれないと俺が映画館に着く前に警察官に捕まっちまう」
「ですが、こうしてないと奏多さんは迷子になってしまいます」
どっちかというと迷いそうなのはお前のほうだけどな。とは思ったが口に出さない俺は本当にいい子だ。
「ちょっと、離れなさいよ。こんな公共の場でハレンチな。それにそれじゃ私と奏多君じゃなくて白亜ちゃんと奏多君がカップルみたいじゃない!!」
「あれ、でも委員長さんだって割引のための偽カップルですよね?まだ関係ないんじゃないですか」
「んぐぐ……」
なんか水瀬って委員長にあたり強いな。論破された委員長はほっぺたを膨らませ目には薄く涙を浮かばせている。
「こんなとこで喧嘩なんてそれこそみっともないぞ。もう映画も始まるし、行こうぜ」
そう俺がなだめても二人はまだバチバチにらみあっている。男より女のほうが喧嘩っぱやいとは聞くがここまでとは……。大変な一日になりそうだ。
館内の照明が消え、某映画泥棒の映像が始まった。どうやらあと2,3分で本編が始まりそうだ。
そう思い姿勢を正したとき肩に何かがもたれかかってきた。
「本編前から寝てやがる」
それは眠ってもたれてきた水瀬の頭だった。隣で幸せそうに寝息を立てている。恋愛映画見てみたいんじゃなかったのかよ。起こそうか迷ったが昼寝をしてる猫みたいに幸せそうだったのでやめることにした。
「んっ!?」
まさか。今度は反対側からも頭がもたれかかってきた。言わずもがな委員長である。
委員長まで寝ちまうとはな。
こっちは芝居の参考にって言ってたから起こしてやろうかな……。
俺は委員長の肩へと出しかけた手を引っ込めた。
「でも、このままならまた三人で来られるかもな……」
モテない男の苦肉の策だが今日は素直に楽しかったしな。また来たいな、なんて思ってしまうのも仕方のないことだと自分に言い聞かせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます