第5話 星に願いを。

ちょっと番外編みたいな感じです。



「本日、7月7日は曇りのち雨でしょう」


なんとなくつけていたテレビからアナウンサーの声が聴こえる。今日は七夕、1年に一回しか会わない遠距離リア充をお祝いする日だ。そろそろ彦星も浮気の一つや2つしてそうなものだ、なんてくだらないことを考えながら俺こと高橋奏多はお気に入りのマイソファに寝そべっていた。


我らが山川双葉高等学校は夏休みが7月初旬から8月中旬までなため、夏休みに入ってから七夕が来るのだ。


「これじゃあ彦星さんと織姫ちゃん会えないかもね」


合宿から帰ってきた彩音先輩が俺の部屋に入りながらつぶやいた。


「先輩、そのチラシなんですか?」


「うん、これは山川七夕フェスティバルのやつだよ。行こうと思ってたんだけど雨降るならどうしようかな……」


「ちょっと見せてもらってもいいですか?」


先輩から受け取ったチラシには大きく『君の心に秘めた願い、七夜の星で叶えちゃおう』となんとも軽いノリで書かれていた。


「……あのさ、よかったらタカナタくん一緒に行かない?」

先輩はなぜか頬を少し赤く染めながら、言った。


「そうですね。どうせひまだし、俺の願いも叶えてもらおうかな」


「ホント!?やった!!」

想像以上の喜びっぷりにちょっと戸惑ったが、先輩の純粋な笑顔を見ていると、どうでもよくなってきた。


「じゃあ六時半に出発ね!!」

そう言い残し、先輩は俺の部屋から出て行った。少ししてから叫び声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。




時刻は六時二十五分。外は生憎の大雨だ。これでは七夕フェスティバルには行けそうはない。

先輩と話すために103号室に行ったが先輩の姿はなかった。


「あれ?おかしいな」


「彩音ならさっき出かけたわよ~」


夕食前から既に酔っている修羅子先生が教えてくれた。しかしこの大雨の中出かけるのは少しおかしい。

まさかとは思ったが、次の瞬間俺は玄関を飛び出していた。



やはり祭りが行われる山本神社には出店が一個もなく、雨が土をたたきつける音だけがこだましている。


「さすがに来るわけないか……」

でもなぜかずっと胸の真ん中くらいがウズウズしている。ありえないはずなのにここに先輩がいる気がしてならない。


「……一応境内のほうも探してみるか」


境内近くにある大きな木には短冊をつるす予定だったようだが、雨でとてもそんなことできる状態ではない。しかし、よく見ると一つだけ短冊がつるされていた。


『どうか迎えに来てくれますように』


雨でグショグショになっていたが何とか読めた。まさか織姫が彦星にあてて書いたってか。ハハハ。


相変わらずの俺の妄想力に脱力しながら、さらに奥に進むと、境内でうずくまって震えている浴衣姿の女の子を見つけた。



「風邪、引きますよ」


持ってる傘を突き出したが、先輩は反応をせず、震えていた。



「……もしかして、泣いてます?」



「……雨で彦星と織姫は会えないのに……。私のお願いはホントに叶っちゃった……」



「え?なんか言いました?」



俺がそういった瞬間に先輩は立ち上がり、歩き出した。


「あ~あ、お祭り楽しみだったのになぁ~」



「また別のお祭り一緒に行きましょうよ。それよりさっきなんていったんすか~?」


追いかけながら再度聞くと、先輩はモデルのようにくるっとターンしてこれまでで最高の笑顔で言った。





「なーんもないっ!!」

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