第3話 夏休みと決心。
「お~い学校行くぞ~」
水瀬が荘に来てから約二週間がたった。先輩たちの協力もあって、今はほとんど寄り道がなくなり、遅刻することもなくなった。しかし、毎日一緒に登下校してるもんだから学校での噂はより一層強くなっている。
多分俺たちがどうこうできるレベルじゃない。
水瀬はクラスの連中には自分がゲームクリエイターであることを特に話していないらしい。
まぁあの性格のおかげで友達も出来てないっぽいが……。
「ま~た仲良く登校かよっ!!彼女に振られたばっかの俺に見せつけやがって、このこのっ!!」
こいつは
マジで俺の高校生活灰色だなぁ。と今頃つくづく思わされる。そもそも虹色荘の入居者ってだけでほとんどの生徒からは敬遠されてしまうのだ。
学校からの帰り道。俺も水瀬も帰宅部なため下校も毎日一緒だ。
「奏多さんはどうして虹色荘にいるんですか?特に毎日なにもしてませんけれど」
グサッ。こいつのこうゆうストレートなとこカッコいいけどやっぱ傷つくわ。
この二週間弱で俺と水瀬は結構喋る仲にはなっていた。まぁ一緒にいる時間が一番長いだけだが。
「俺は全然大したことないよ。特別な事情があるわけでもなくて、ただ入学から一度も宿題を提出しなかったら高1の秋にここに引越しさせられたんだ」
そうホントにしょぼい理由。双高はそこそこの進学校なため宿題をしないとゆうのはあり得ないことなのだ。それを高1からずっと続けていたらそりゃこうなるってのは赤ん坊でもわかる。むしろ退学になっていないだけすごいのだ。俺は宿題を一度もやっていないが、成績はそんな悪くない。そこも悪くなったら多分ホントにおしまいだと思う。
「でも、全く後悔はしてないんだよな。むしろそれまでの人生がつまらなすぎてさ、虹色荘にこれてマジで良かったと今は思える」
「そう、その目です」
「うわおっ!!」
急に水瀬が鼻先くらいまで顔を近づけてきた。息がほんのり顔にかかって甘い香りがする。少し勇気を出せば手が届く距離……ってダメダメっ!!俺には麗華さんという人が……。
「奏多さんはその目をしている時が一番輝いています」
「あ、ありがと。お前やけに目をきにするよな。なんか意味でもあんのか?」
「自分は喋るのが得意ではないので人の目を伺って生きてきたんです。汚い大人の目や純粋な子供の目、色々見てきましたが先輩のあのなんとも言えない儚げな目は初めて見ました……」
なるほど。自分の短所を理解し、それをカバーするために相手の目を見てここまで来たということか。
確かに人間というのは嘘をつくときや、緊張しているときは目が泳いでしまうなど目は心理状態と深くリンクしているのだ。
「まぁお前のそんな無責任な一言でもともと灰色だった俺の高校生活が真っ黒に染まったんだけどな……」
そんなこんなで長かった一学期が終わりを告げ、夏休みという引きこもり救済イベントが開始した。
やっぱり夏休みはいい。憂鬱な学校もなく、なにも考えずにゴロゴロとできる。特に興味もないニュースをただ眺めながら俺はソファーでくつろいでいた。だが、そんな俺の平穏はすぐに終末を迎えた。
「あの……ちょっといいですか?お願いがあるんですけど……」
申し訳なさそうに水瀬が俺の部屋に入ってきた。そういえばこいつが俺の部屋入るの初めてか。彩音先輩はよく入ってくるけど、同級生の女子が入るのは新鮮だな。
「んで、お願いというのを聞かせてもらおうか」
「はい。パソコンが一台調子悪くて……。買いに行きたいんですけど場所もわからないし、人の多いところはちょっと……」
なるほど。つまりおつかいクエスト発生というわけですか……。嫌というわけではないが一応聞いてみた。
「なんで俺なの?女子同士とかのが頼みやすいじゃねえの?」
「私もそう思ったんですが、今誰もいないので……先輩以外」
忘れてた。彩音先輩はバレー部の合宿で麗華さんは帰省中だった。一応だが武蔵は休みの日はほとんどネカフェにいる。
「分かった、買いに行ってやる。ただし条件が一つある」
「条件?ああ、お金ならもちろん――」
「お前も一緒に来ることだ。俺はお前の性格を改善するということに決めたっ!!!」
俺は初夏の日差しの下で高々と宣言をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます