第2話 真実と罠。
「今日はミナハクちゃんの歓迎会をするよ~ん!!!」
相変わらず彩音先輩にはネーミングセンスというものがないな……。
テーブル上には肉やら魚やらの豪勢な料理が並べられている。
歓迎会のある日は基本的に豪華な夜食が振る舞われる。かくいう俺が入荘した時も麗華さんによる料理をご馳走になったことだ。それで一目惚れしてしまったわけだが……。
「やっぱり母上の料理は絶品っスねえ。曲のアイディアがバンバン湧き出てくるっスぅ~」
武蔵は麗華さんを母上と呼ぶ。よくわからんが人を名前で呼ぶことを好まないらしい。
クラスとか先生に対してはなんて呼んでいるのだろうか。一瞬疑問に思ったが、あいつに関することは興味が無いためすぐに疑問は消えた。
せっかくの自分のための歓迎会なのに水瀬は一言もしゃべらず、黙々とモグモグと料理を食べるだけでパーティーはお開きとなってしまった。
「ミナハクちゃん、コミュニケーションとるの苦手なのかなあ、どう思う?武蔵殿」
「うぇっ!?えっとそれは自分もそう思うッスけど……。でも自分から校長に虹色荘に行くって言いに行った猛者らしいっスよ……」
なにいきなり話しかけられて赤くなってんだよ、みてるこっちが恥ずかしいわ。
「でも自分からここに来るってやばくねえか?よっぽどの事情でもあるのかねえ」
もしくはよっぽどの変人か。しかしこのときの俺はあいつの奇人っぷりがよっぽどなんかじゃあ済まないことを知らなかった。
「奏多くぅ~ん。白亜ちゃんの荷物整理てつだってあげてぇ~」
麗華先輩の頼みじゃ断れない。いや、それどころか荷物整理の手伝いは一瞬で俺にとって最重要項目となった。麗華さんになら利用されても本望だ、なんて本気で考える今日この頃。
「手伝いに来たぞ~。って誰もおらん」
やけに段ボールがおおいな。ふと俺は段ボールの中身をのぞいてしまった。
そこにはプロのプログラマーもびっくりなほどの最新機材がそろっていた。
いや正しくは彼女、水瀬白亜こそがプロのプログラマーだったわけだが。
「見てしまいましたか、私の正体を」
「うわおっ!?急に声かけんなよ、びびったぜ」
いつしかドアのそばに座っていた水瀬が声をかけてきた。
「TEMPURA,だれでも一度は聞いたことがあるはずです。それが私の活動名です」
「テンプラッ!!??あの超有名ゲームクリエイターか!?」
テンプラといえば「パチットモンスター」略して「パチモン」をはじめ超絶人気ゲームをほぼ一人で配信していることで人気急上昇中のゲームクリエイターだ。
「そいつぁビックリすねぇ。俺もたまにBGMの提供してましたけどこんなカワイ娘ちゃんだったなんてねぇ」
これまたいつの間にか話を聞きに来ていた武蔵が言った。いまや世界を又にかけるクリエイター。そりゃ一般の生徒寮じゃ活動もできないか。水瀬がこの荘にきた理由がわかった気がする。
「そういえば奏多君。明日から白亜ちゃんとの登下校頼んでいい?」
寝巻きに着替えて歯磨きをしていた俺に酒を飲んでいない修羅子先生が話しかけてきた。
「え、でもいくら転校してから間もないからってこの荘学校からめちゃ近いじゃないですか」
そう、さすがある意味問題児が集められるこの荘、学校から徒歩二分程度で着く場所に設けられているため、普通に窓から学校がみえるのだ。
「それはそうなんだけど……ちょっとあの子世間知らず過ぎて……お願いするわね」
「はぁ、任されました……」
先生からの頼みはしぶしぶ了承したが空はまるで俺の心をうつすかのようにどんよりと曇っていた。
「やっぱ降り始めたか~。ほら、急げ水瀬」
遅刻寸前な上に雨が降ってきたことで俺は靴を履いている水瀬を急かした。
「でもあんま学校いきたくないんだよなあ。誤解解くのめんどくさいし……」
なんて気持ちを正義の心で押し殺し戸締りをし、玄関を出た。
「って何やってんだ!?」
そこには傘も差さずにネコと戯れる水瀬の姿があった。
「制服が濡れたら学校で困るし、風邪引くぞ!!」
そこからは散々だった……。
目を少し離した隙にブランコをこぎ始め、少し歩いたら急にブロック塀に上りだして……。
やっと学校に着いた時には三時限目が開始していた。
「どう育ったらあんな天然お嬢様が生まれるんですか……?」
先生に当たり散らす気力も既になく、崩れ落ちるように尋ねた。
「あの子は……次元が違い過ぎるの。思考回路も五感もなにもかも。君となら合わせられるとおもったんだけど……」
「このままじゃ毎日遅刻っすよ……。どうする気ですか?」
先生は少し考えるそぶりを見せたあとふいに立ち上がり、頭を下げた。
「おねがいっ!!!あとちょっとだけ面倒みてあげて!!それでも無理なら私が責任を持つわ!!」
普段は酔ってる癖にこうゆう時だけ調子いいよなあ。
「わかりました。じゃあ今日から一週間俺ががんばってみます……」
先生は「ありがとう!!」と再度頭を下げた後、少し笑った気がした……がまぁいいか。
「夕食持ってきたんだけど!!両手塞がってるから開けてくれ!!」
しかし応答はなく、俺は203号室の前で佇んだ。
「ったく、しょうがねぇな。はいるぞ~」
俺は料理の乗ったトレイを床に置き、ドアを開けた。
ゴクッ……。
その瞬間俺は思わず息をのんだ。
大きな機械に囲まれた小さな少女はあり得ないほどの集中力、スピードで指をキーボード上で躍らせていた。その眼光は獲物を狙う肉食獣よりも鋭く、俺はしばらく水瀬から、ゲームクリエイターTEMPURAから目を離せなかった。
「先生、俺決めました」
「どうしたの?」
先生はまるで用意していたかのようなスピードで聞いてきた。
「俺があいつを、水瀬白亜を面倒見ます!!」
ありがとう、とほほ笑む先生の笑顔には複数の意味が込められているような気がした。
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