4‐3
キメラ討伐の地は西のラボからそう遠くないという。西がそこまで車で送ってくれるというので、3人はお言葉に甘えてロンと共に出発した。
あんの膝に頭を乗せ、ロンは目をつぶってあんの撫でる手にうっとりとしていた。が、ネコちゃんほし~と笑うのを信人は複雑な目で見ていた。
「ねぇ、ロンは最近まで戦闘不能だったんでしょ?何があったの?」
ロンは一瞬むっとした顔を信人に向けたが、あいをちらっと見て、まるで(代わりに話してくれ)と言わんばかりの目線を送る。あいはあ~、それはねぇ、といつも通りの緊張感のない声で話し始める。
「ロンが飛ぶ系キメラに咥えられて飛んでっちゃって、私がキメラにパチンコ玉機関銃したん。ロンはそこでは傷つかなかったんだけど、即死キメラがロン落っことして〜、それでロン欠けちゃったんマジつらたんでしょ。」
「…それって大元の原因あいじゃん。」
「ちょっと高すぎたんだよね~~。」
あいは信人のセリフをわざとらしく無視してロンの背中を撫でた。信人はロンをちらりと見たが、特にあいに恨みを持っている様子もないので、釈然としないが黙ることにした。
「にしても、3人は変わりなくて何よりだよ。兼次さんのことは…心配だけど。」
「ああ、そのことなら大丈夫ですよ、めっちゃピンピンしてるんで。西さんによろたの〜って病室でタピオカ飲んでて怒られてました。」
ははは、なら大丈夫だね、と西は声を上げて笑う。そして、3人には言っていなかったかもしれないけど、と続けた。
「僕はね、兼次さんのお父さん…兼次教授の弟子だったんだ。残念ながら3人が産まれる前に亡くなってしまったけど、とてもお世話になっていてね。」
信人が目を丸くして驚いていると、あいはそーだったん?てか教授て何?と無表情で声だけ上ずって答えた。
「とある研究室の、だよ。兼次教授は息子にあまり研究のことは言ってなかったみたいでね。まぁそれも…教授が知らなかっただけで、僕が教授がいない間に教えてたんだけど。」
西さんが父さんの教え親?父さんは中卒だって聞いてたけど…確かにただの中卒のパリピがあいやあんを造れるとは到底思えないと考えていた。
というか、おじいちゃんは教授だった?初耳だ。早くに亡くなったとは聞いていたけど…信人は初めて聞く父の過去に、線と線が繋がる感覚だった。
「教授は『生物兵器などあってはならない。命など人間が造り出してはならないんだ。』と口を酸っぱくして言っていたね。まさか息子がいとも簡単に…チープな小説みたいだろ。」
ふふふ、と笑う西に、信人は少し居心地が悪いような気分だった。
「心配しなくていいよ。僕はまもる君の才能を確信していたし、だからこそ教授に内緒で研究室に出入りさせていた。父であり上司である教授の目を盗んでね。」
褒められたことではないけどね。と西は気まずそうに笑いながら鼻をポリポリとかく。
「まもちってやっぱ賢いんだ。りあコしちゃうじゃ〜ん?」
ロンの写真を撮ってスタンプで画像にデコレーションしながらあんは小首を傾げる。
「そう、まもる君はとんでもなく賢い。僕が教えたことなんてほんの一部なんだよ。『どこに行っても兼次教授の名前がついて回るし、高校で学びたいことがないから学校は中学まででいい。』なんて言い出した時はビックリしたけど、むしろ僕的には都合がよかったな。」
うおお。我が父さんながらとんでもなく中2臭い発言だ。信人は赤面した。
まさか自分の父がそんな漫画みたいなキャラクターだっただなんて。いや、普通ではないとは思っていたがまさかここまでとは。
「教授は…おじいちゃんは息子が進学しないことには何も言わなかったんですか?」
「そうだね。教授もわかってたんじゃないかな。『書斎の鍵はいつも開けてあるんだ。まもるが出入りしているからな。』って言ってたっけ。研究員が苦戦しながら何日もかけて読んだ本をまもる君がニコニコ笑いながら数時間で読み終えてた所を母親が見てたんだって。そんな子を高校に行かせたら、大学生を幼稚園に通わせるようなことになるだろうしね。」
なるほど。父も変わっているが、祖父もだいぶ変わってるな。でも、そんな父さんのことを愛しく思っていたのだろうか。信人は会ったこともない祖父に想いを馳せた。
「まもる君は型にはまらないタイプの人間だから、研究室は向いてないと思ったんだろうね。でも、まもる君の"知りたい"っていう欲求は凄まじいものだったよ。」
「まもる君が知りたいと言ったものはなんでも教えてあげた。手解きした、と言った方が正しいかな。あっという間に僕が教えたその先にいるんだよ。それが楽しくて楽しくてたまらなかった。」
「そして…いつの間にか僕の見えない所まで行っていた。だけど、まもる君はずっと変わらない。ただずっと、"父が研究していた世界で世界を救いたい"って。"父が愛した世界を俺も愛したい"って。」
あなたが愛した世界を自分も愛したい。
これは兼次家の家訓であり、モットーだ。
そうか…父さんがあいとあんを産み出した理由がそこにあったのか。
誰よりも賢い父さんは、どんな風に世の中が見えていたのだろう。そして…どんな気持ちであいとあんや俺に接しているのだろうか。
今まで疑問も持たずに暮らしてきたが、初めて本当の意味で父を知ったような気がした。
信人が物思いにふけっている次の瞬間、車が急停車する。
「「お、お出ましじゃん?」」
双子の声が嬉しそうにハモる。
信人はフロントガラスの向こう側を睨み付け、これから起こる闘いに覚悟を決めていた。
最期のあいあん むーちょ摩天楼 @edomurasaki
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