4-2





「でもよかったね、北陸に行く用事がいっぺんで済んで。」

信人は着替えながら二人に呼びかけた。あいとあんはは?と頭にクエスチョンマークを浮かべながら壁を見つめる。

「あれ?福井って北陸?」

「金沢って福井?」

双子はメイクポーチをかき混ぜながら、何やら意味のわからないことを言っている。

「? どういうこと?西さんは福井県にいるよ。金沢は石川県の市でしょ。」

「「へぇ~そーなんだ~~」」

「二人の頭の中の地図どうなってるの?」

信人ばり生意気じゃん(笑)とせせら笑いながらカバンのチャックを閉める。心なしか嬉しそうに見える二人も、久しぶりの再会に喜んでいるのだろう。

僕は西さんとまだ会ったことがない。チャットはするけど、会いに行ったことがないのだ。

なので、西さんが造った生物兵器を見たことがない。

あいたち曰く、恥ずかしがりやで言葉を話せないため、西さんと二人にしかなついていないとか。まぁ、そもそも極秘で造られたから、誰も知らないというのはあるけれど。

二人に聞いても、どんな見た目をしているかとか、どんな能力があるとかも教えてくれないので…今回初めて会えるとなって、実はすごくどきどきしている。

「よしゃ、まもちに一言言って、新幹線の時間調べて、いきますか。」





新幹線からタクシーに乗り継ぎ、人里離れた山間部に西のラボがある。見た目はただの倉庫だが、まさか近所の住人もここで生物兵器を製造しているなどは夢にも思わないだろう。タクシー代ウケるくらい高かったんですが(笑)とあいは財布をカバンにしまった。その中で、信人は一人不安に思っていた。

「その子は俺が会いに来て大丈夫かなぁ。人見知りなんでしょ?」

あんはだいじょぶっしょ、てかここ電波悪すぎ謙信じゃん?(笑)とまったくもって取り合ってくれないが、きっとそこまで気にしなくても平気だということなのだろう。…だと思いたい。

三人は入口らしきドアの前に立つが、インターホン的なものが見当たらない。信人はきょろきょろとあたりを見渡す。なぜか二人は黙りこくっている。

「これ、どうやって中に…」

と言いかけると、ドアらしき壁ははピー、と電子音を鳴らしゆっくりと上に開く。あいとあんは何事もなかったかのように中に入る。

「…知ってるなら行ってよ。」

二人に続き、思春期男児っぽくちょっとだけ恥ずかしがりながら速足で中へ入る。


ラボは外観からは想像がつかないほど新しく、暖かな白で統一されていた。信人が上に下にと視線を巡らせていると、あいは歯医者みたいだよね(笑)と茶化した。


すると、前に物影らしきものが遠くにたたずんでいるのが見えた。

ゆっくり近づけば、それは大きな黒猫のように見えた。信人はゴクリ、と生唾を飲み込み、双子をじっくりと見据える猫を見て、あいとあんは優しく微笑んだ。

「「おかえり、ロン。」」

隣を歩くあいがそう呟き、目前から消えたと思ったら…

甲高い鉱物がぶつかり合う音と共に、猫の首筋にあいが自家製ナイフで一太刀入れているのが見えた。

「!!」

信人が慌てて駆け寄ると、猫の首筋はナイフを通すこともなく…まるで、突き立てられたナイフを拒絶していた。

「あい、もしかしてこの子が…。」

「やぁ、いらっしゃい。信人くんは初めましてなんだよね。」

3人が振り向くと、気の良さそうな男性がにこやかにあいが切りつけた黒い猫を撫でる。あいは刃を離し、ロンと呼ばれた猫の首筋はキリキリと音を立て、通常の毛並みへと戻る。

「ロンズデイライト。あいとあんが名前をつけてくれたんだ。」

「長いからロンね。久しぶり、西さん。」

そうそう、ロンだったね。と西はあんの言葉で柔和に笑い、信人に嬉しそうに話した。

「この子ができる少し前、既にあいとあんは第一線で闘っていた。僕は微力ながら"この二人を手伝いたい"って思ったんだ。」

「でもね、どうしても人間の形って難しくてさ。いやほんと、兼次さんはスゴいよ。」

西は曇りのない瞳で3人を見つめた。

「それで、僕から兼次さんにコンタクトを取った。そしたら二人が是非会いたいって言ってくれてね。」

「「生物兵器ネコちゃんとか絶対めっかわじゃん?」」

西の思惑とは少し違うだろう、と心でズッコケた信人だが、二人も全ての科学者が敵に回っていた最中の出会いで相当嬉しかっただろう、と思っていた。

「ロン、めっちゃ硬くなれるんだよ。ダイヤモンドより硬いんだって。」

「だから、二人で調べて、名前つけさせてほしいって言ったの。」


ロンズデイライト…とある学者が発見し、その硬度と名前を世界中に知らしめた。


「僕にはネーミングセンスがないから、とても素敵な名前だって快諾したよ。」

ロンは少し照れたように首を傾げた。

「ロンはダイヤモンドよりも硬くて、本物のロンズデイライトより宝石みたいできれいなの。控えめに言って最強でしょ。」

「最強の双子にそう言ってもらえて、僕もロンも嬉しいよ。」

西さんはいまいちを理解していないが、互いに信頼があってこういう関係を築けるのは素晴らしいことだと思う。特に、自分たちのような世界中に敵がいるような者たちは、仲間という存在がとてつもなく重要になってくる。


「「とゆーことで西さん、ロンと一緒にキメラ退治してくるわ。」」


信人は、あいとあんはもう少し人の気持ちを理解するべきだな、と少し頭が痛くなった。




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