4-1 君が呼ぶなら編
あいとあんに年齢と呼ばれるものはない。
互いに17歳くらい、と思い込んで生活している。
信人も15歳くらいじゃない?と姉に言われたのでそういう風にしているだけだ。実際はあいとあんが実戦に入る少し前に完成した。だが本人たちは気に留めることもなく、本物の2歳離れた姉弟のように接している。
二人が産み出された時には既に現在の背格好をしていたし(ヘアカラーは戦闘態勢に入る前に自分たちで染めたが)、俗にいう”試験管ベビー”時からの記憶もある。
信人は生まれる前からあいとあんを知っているらしい。
曰く、”自分は概念の具象化であり、父さんやあいとあんが思った世界を叶えるために産まれてきた”という。
だからこそ誰より真面目だし、勉強熱心だし、少し考えすぎてしまうところもある。あいとあんは真面目な信人を心から愛しいと思っている。彼は絶対に人を裏切らない。
信人という名前は、兼次家全員で彼の信念のもとつけた名前だ。
世界中のキメラを探しても、実験体として以外に名前を付けてもらったものなどいない。
およそのキメラは一個体でなく、大量生産されるための試作段階に過ぎないからだ。
だが、唯一開発者以外に名前をもらったキメラが一体いる。
「北陸の山間部で秘密基地(笑)からキメラが逃げ出したってさ」
あんは半目でスマホに届いたメールを読む。あいはうつぶせになり、ふぁー、と返事ともとれぬ鳴き声を発する。
「いんじゃねそのままで。都市伝説とかになって語り継がれればいんじゃね?」
あいとあんは異常なまでにやる気を削がれていた。現に部屋のベットで複雑に脚を絡ませながら寝転がり、何をするでもなくただただぼーっとしていた。
まもるはあの事件で大量に血は出たものの、傷自体はそんなに深くなく、軽く縫うだけで済んだ。1週間ほど入院することになったため、兼次家は稀にみる静けさが広がっていた。
「良くないだろ。そんな都市伝説の原因がキメラなんて笑い話にならんから。」
信人はぴしゃりと姉たちを叱る。
「そもそも都市伝説笑い話じゃねーし(笑)」
「じゃあなおさらダメだろ。」
あいが枕に突っ伏しながら信人と漫才をしていると、あんは大きくため息をついて上体を起こす。
「行くかぁ鬼めんどいけど。まもちの退院祝いにノドグロでも買ってくるべ。」
百理あるわそれ、とあいも上半身を起こしあいに抱きつく。そして二人でそのまま静止し、ぼーっと虚空を眺める。
「もう、どうしちゃったんだよ二人とも。いつもは頼まれなくても死ぬほどテンション高いのに。」
信人はノートパソコンを閉じ、いつになく元気のないあいとあんを心配のまなざしで見つめる。あんははぁと短くため息をつき、目の前にあるあいの髪の毛を手櫛でとかしながらダルそうに話す。
「今まで遠い土地でキメラ倒してきたじゃん?いろんな人が協力してくれてさ。でも今回まもちがやられちゃって…なんかすごい無力感ヤバくて。」
「私らがキメラを倒すスピードと産み出されるスピードが全然違うんだもん。無力オブ無力。」
「だからやーめた、とはならないけど、今のままでいいのかなって。」
あいは目をつぶってあんの肩に顔をうずめる。
確かに、キメラ討伐要請は世界中からひっきりなしに来る。倒しても倒しても、次から次へ手を変え品を変えキメラを産み出す人間に嫌気がさすことも少なくない。
だが、諦めてしまえば自分たちの存在意義が失われてしまう。まもるが命を張って助けたことも意味がなくなってしまう。
どうにか手法を変えたいのは山々だが、こればかりは地道に倒していくしか方法がない。姉たちの気持ちは痛いほどわかる。だからこそ信人はなんと声をかけていいか迷っていた。
すると先ほどまで信人が触っていた3人の共同パソコンにキャッチが入る。信人が画面を開き、あい!あん!と画面を見るように誘う。双子はいそいそと覗き込むと、パソコン画面は久しぶり、と3人に声をかける。
「西さん!お久しぶりです。」
信人は画面に映る男性に嬉しそうに返事をする。元気そうだね信人くん、と西と呼ばれる男はニッコリと笑う。
「あいとあんも久しぶり。今日もメイク決まってるね。」
「あざ~。いきなり連絡よこすなんてどうかしたの?」
お世辞の返事もそこそこに、さっくりと本題に入ろうとするあい。西はそうなんだ、聞いてくれよと嬉しそうに答えた。
「あの子が目を覚ましたんだ。それからだいぶ調子がいいみたいでね。」
「「マ?!やりじゃん!」」
ぱぁ、と数分前のうだつの上がらない顔とは別人になったように目を輝かせる。
「あの子が君たちに会いたがってね。忙しいのは重々承知してるんだが、会いにきてやってくれないかい?」
「もち!全然行く~。どれくらい元気になった?」
西はそうだね、と画面の外を確認するような動作をし、笑顔で画面内に戻ってくる。
「もしかして、戦闘態勢をお望みかい?」
ニヤリと笑う西に、3人も顔を合わせニヤリと笑う。
「もちろん。そのために生まれてきた者同士だもん。」
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