3-4
「ぐ、あが、ががぁ」
男が何かの液体を注射器で自身の体に打ち込んだ途端、歯を食いしばり呻きだす。ぼたぼたと唾液が滴り苦しんでいく。
「だ、大丈夫か?」
翔は逃げるのをやめて男に話しかける。それをまもるが剣幕で止める。
「だめだ!そいつはもう人間じゃない!」
人間じゃない?
まもるの表情を見れば、さらの怯えを見ればそれは冗談ではないことがわかる。だが、にわかに信じがたい。俺は、普通に、ただ普通に生きてきただけだ。そんな言葉信じられるはずがない。
だが耳を塞ぎたくなるような絶叫を聞き、男へと振り返ると…嫌でも非日常が翔の脳内へと叩き込まれる。
白目を向き頭を大きく震わせながら、スーツはメリメリと裂けていく。膨張していく身体は天井に届き、いびつな肉塊には青く血管が浮き出ていて…あげた咆哮と共に商品棚が倒れ、落ちてくる商品を全身に浴びながらも未だに信じられなかった。
「こ、こんなんアリかよ…」
翔は腰を抜かしへたりこむ。きっと、今ここで殺されてもずっと理解できない。キャパシティからオーバーしたものは、涙となって止めどなくこぼれる。
「おい!諦めんな!殺させてたまるか!」
まもるが翔の腕を無理矢理引き、タイルの上を滑らせる。翔は震える手で必死にまもるを掴むが、力が入らず転がってしまう。
「まもちゃん!」
さらの叫び声と同時にまもるは咄嗟に翔を庇う。
「………」
「あ、あ、お父さん、ち、血が」
翔の顔が血に濡れる。強く呼吸を整えようとするまもるだが、長く伸びた爪がコメカミと肩をかすめ…コメカミの傷から血が吹き出し、一瞬で襟元を赤く染めていた。あと少しズレていたら…と翔は涙を止めることができなかった。
「お、俺に構わず逃げてください!」
「だめだ!もう絶対死なせたくない!」
「ははは、やさや優しい優しいなぁ兼次ままままもる」
二人は声の先に目を向ける。くぐもり、地下から上がってくるかのような恐怖をのせた声。
「お前だだけころこ殺せれれればいいと思っっってたががぁ。ぐが、あががぎが、ぜんぶ、ころろしたいなああ。」
「っ…、はは、脳ミソ退化してんじゃん猿見習え(笑)」
「だだだまれれれれれええ!そそのへらずぐぐちがぎいらいらするんだよあああああ!」
怒りに身を任せ身体ごと突っ込む男を、翔がまもるを強く引き間一髪で避ける。レジに突っ込み身動きが取れなくなっているところを見て、翔がまもるの肩からあふれる血を抑えながら言う。
「あんさんのお父さん、俺は大丈夫です、手当てを受けて!」
「だめだ、君こそ逃げろ、これ以上巻き込みたくない」
「でも!」
「…てかあんさんのお父さんてなに(笑)」
「あ………いやそれはあの」
轟音と共に男は起き上がり、レジに並ぶタバコがまもるたちに降り注ぐ。
「おまえころしたら、おまえのせいぶぶつへいきもももころす、あはは、みんなししね」
崩壊した顔でいやらしく笑うその姿に、翔は怒りを覚えていた。こんなヤツに、俺の大切な人の家族を殺されてたまるか!
「「ごめぴ。私らそんなに弱くないんだよね。」」
翔は突然現れたヒーローにくぎ付けになった。
~その30分前~
「あートム?あんたからかかってくるとかマジで不吉なんですけど」
まもると電話を終えたあと、あいに電話を寄越したのは情報屋のトムと呼ばれる男だった。なんでも裏社会に精通しているとかなんとか、誰に頼まれたのか細かく情報を教えてくれている。
「ご挨拶だな。悲報を知りたくないのか。」
「なによ。誰にとっての悲報よ。」
「お前等にとってだ。お前等の両親がさっきお前の妹が居たコンビニでキメラ研究員に絡まれている。ヤツは首相官邸に未完のキメラを送り込もうとしていた危険人物だ。何を仕出かすかわからんぞ。」
「は…?」
~~
「父さん!大丈夫?!」
信人はまもるに駆け寄ろうとするが、男は怒り狂うように叫び、動く者を妨害しようと物を投げつける。
「めすがきども、ころす、おおおまえらいちばんんんんんにころすす」
男はあいとあんに向かってレジスターを投げるが、二人はなに食わぬ顔で避け、肩を押さえ荒い息を繰り返すまもるを見つめていた。
「まもちケガしてる」
「信じらんない」
「ムカつく」
「「ブッ殺す」」
あいは棚から鉄筋を引きはがし、軽く素振りをする。
「うーんこれだけじゃボコれないな」
「はいはい、あいちは釘バットご所望ね」
あんは散らばった小銭をじゃらりとすくいおもむろに頬張る。
「な…?!あんさん、何やってるんですか!汚いですよ!」
「は。あんた誰。なんで一般人がここにいんの。」
あいは翔を藪睨みし、翔はその眼光の強さに怖気づく。あんははあ、と深くため息。
「あいち、こいつがその店員なんだわ。」
「あー例の玉砕くんかぁ。ちぃーす。」
「え…なに…俺の知らない話じゃん?帰ったら光の速さで教えて…」
「まもち瀕死で会話に参加しなくていいから!つーかまもち即病院だから!」
「うぐ…手当しながら教えて…」
「「ゴシップ大好きすぎだろ(笑)」」
男の呻き声にあいとあんは忘れてた(笑)と鉄筋をかざす。
「「瞬で終わらせらぁ」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます