3-3
「さら~新しいカップラーメン出てる!」
「まもちゃんの好きな味じゃん。美味しそう」
「5つ買って帰んべ。」
まもるとさらがコンビニでつかの間のデートを楽しんでいると、スーツ姿の男性がこちらをじっと見ているのに気がついた。まもるはさらを後ろ手に隠し、およそ表情のない男を睨む。
「さらが可愛いのはわかるけど見すぎっしょ。なんスか。だいぶ用ありげだけど。」
「いやね、僕は兼次さんを尊敬してるんですよ。あんな完璧な生物兵器を作ってしまうなんて、どんな脳ミソがその頭の悪そうな金髪に詰まってるのかなって。」
ピク、とまもるは眉をひそめる。むき出された敵意の挑発に安くのってはいけない。
「話し方もそうだ、ただの底辺と言ったところだな。生物兵器ってのはバカなガキがお遊戯で造るモノじゃない。」
「自分もう32の代なんでガキじゃねぇし。家族居っから。」
「家族ねぇ。その家族が最初に出来上がったのはいつかな?確かヒトの形を留めたのは4年前か。そこから1年で戦闘できるようになるとは。はは、素晴らしいよ。」
何故こいつはこんなに詳しく知ってるんだ?内部を知るものはごく一部のはず。
「で、最初の質問答えてくれない?あんた誰。」
「これは失礼、実験成功者に申し訳ないことをした。」
ヘラヘラと笑っているが、目は淀み、まもるを睨む悪意は緩むことがない。
「私はただのしがない研究員でね。君にとっては道端の雑草以下に見えるだろうが、これでも生物兵器を造ってたんだよ。」
「莫大な金を注ぎ込んで、寝る間もなく研究に没頭したさ。いつかくる成功の為に。世界中から引く手あまた、金が飛び交い、俺はお前の居る場所に立つはずだった。」
言葉を一つ紡ぐ度に怒りが乗る。さらはその血走った目に震えが止まらなかった。彼はもう私たちを見ていない、自分の境遇に怒っている。
「なのに、クソガキが先に人間型の生物兵器を造ったそうじゃないか。しかも感情を持って、雌の型をしてやがる。慰みものにでもするのかと思えば、あちこちでお仲間を倒してるそうじゃないか!」
矢継ぎ早に出てくる憎悪は止まることを知らない。まもるはただ、表情を変えることもなくじっと彼を見つめていた。
「それから俺が…俺がどんな仕打ちを受けたか知っているか?!研究所は解散しクビになり、家族からはとっくの昔に見放され、ただ一人放り出されたんだ!」
「お前が居なければ、俺は絶対成功してたんだ。なのに…政府め!あんなにも簡単に俺を捨てやがって!クソ、お前さえ居なければ、お前さえ居なければ、お前さえ居なければ!」
「ま、まもちゃん…」
「黙れ!お前もだ兼次さら!お前がソイツの資金繰りをしたんだろ?バカな男が悪知恵つけやがって、お前の会社は俺の研究所にも金を出してたはずだぞ!」
まもるがさらの手をきつく握りしめる。
「クソ!お前が完成させなければ資金の打ち切りもなかった!全部全部お前のせいだ!!」
口角に泡を飛ばし、男はがなる。頭をかきむしり、亡者のような姿は最初の装いとは別人のようだった。
「俺は3人を完成させてやれなかった。」
まもるは子供に言い聞かせるようにゆっくり話し始める。
「今でも後悔してる。」
「後悔だと…?偉そうなことを言うなよクソガキが。識者ぶって訓示のつもりか?」
「この世に完璧なものなんてない。チープだけど、俺はあいもあんも信人も愛してる。だからこそ向き合っていかなきゃダメなんだ。」
(やっぱりあんさんのお父様だ。変なヤツに絡まれてるけど、店員として助けに行かなきゃ行けないかな。でもなんか凄い話し込んでる…)
翔はドリンク補充棚からずっと3人を覗いていた。男は今にもまもるを殴らんとかぶりついて話している。あれは第三者から見ても異常だ。
「くはは…愛してる?向き合う?バカ言うな!!お前は研究者で、ヤツらは実験体にすぎない!反吐が出そうなセリフでごまかすなよ!?お前はヤツらを利用してるだけだ!」
翔はたまらず飛び出す。
「お客さん!これ以上迷惑かけるなら出てってもらい…」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れクソどもがああ!!みんなして俺をコケにしやがってぇ…!!」
「店員さん!こいつ危険だから下がって!」
まもるがそう叫ぶと、男は目を見開き、壊れたように笑いながら胸ポケットから注射器のようなものを取り出す。
「くくく、あははははは…でもなぁ、俺は気づいたんだよ。何も一から造る必要はない。造れないなら、してしまえばいい。」
「逃げろ!」
まもるはさらの肩を抱き走り出すと、翔もまもるの言葉で反射的に出口へと逃げる。
なにか恐ろしいことが起きる。
なのに、翔は思わず振り返ってしまう。
男は注射器を自らの左腕に突き立てる。
「おい、なんだよあれ…」
翔は自分がとんでもないものに巻き込まれたのを頭の端で確信していた。
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