3-2



「ねぇプリンのクリーム溶けてるんですけど」


ただいまぁと力なく呟き、買い物袋を乱雑に投げたあんに、信人は開口一番文句をつける。

「ちょっと、プリンの上にカラアゲちゃん乗ってたからクリーム温かくなってるんですけど!」

徹底的に無視される信人の抗議。あんは脱力しながらカラアゲをほいと口に放り込んだ。

「マジ気まずい、いつも行くコンビニの店員に告られた」

「「マジか!!」」

溶けかけたアイスを急いで食べるあいと、文句を言いつつもちょっと嬉しそうにプリンを食べる信人がかぶりつきで返事をする。

「もう行けなくなったじゃんけ~うざ~近くてお気に入りのコンビニだったのに~」

あんはそう言いながら袋菓子を大量に開封し、パーティー仕様に並べていく。あいが開けた袋からポテトチップを一枚取ると、あーそう言えばと続ける。

「この前あいちもコクられたわ。近所のファミレスの店員に」

「そうなの!?へえー…あいとあんってモテるんだ…」

チョコスナックを噛み締めながら信人は目を泳がせる。自分のキョウダイがモテる云々なんて考えたこともない。もちろん俺は告白されたことなどない。いやまだ15の代だし卍…とあいあん風に心の中で言い訳する。


「私たち人造人間じゃん?18号はクリリンと結婚したけど、私たちは恋愛感情ないんだよね」

「生殖器ついてないからね」


あいの言葉にズシン、と心臓に重みがのしかかる感覚。それは俺もそうだ。排泄器官として男性器はついているが、生殖機能はない。

「恋して、結婚してベイビーに恵まれたりってのは神様が作った生き物しかできないんだよ」

「あいら興味ないもんね」

「その方が絶対いいんだけどね」


あんに恋しても無駄だよ。

あんは誰かを好きになることなんてない。

たくさんの同胞をこの手で始末してきた。

君と私じゃ生きてる世界が違う。


決死の覚悟の告白に対してそんな言葉が喉に突っかかり、言えなかった。多分理解されないだろうし、私自身が恋愛感情を理解していないから。

理解の及ばぬものは怖い。キメラのように倒すことができないから。


「俺が父さんや母さんとか、あいとあんが好きなのと何が違うの?」

信人はつまんだポップコーンを見つめながら呟く。

「好きって、種類がたくさんあるの?」

「わかんね。あいちも好きなものはたくさんあるよ。まもちさらち、姉弟、ギャルメイク、金髪の自分、キラキラしたもの、さらちの作るご飯。それとは違うって意味わかんないよね」

あんはスマホでまつ毛の角度を確認しながらケタケタと笑った。



昔家族で観に行ったアクション映画で、主人公が拐われたヒロインを助けに行った。 ヒロインは涙を流しながら礼を何度も口にし、礼と同じ数愛してると告げ、何度もキスをした。

悪から助けられたものが恋愛感情を抱くのか。そう思ったけど、二人は随分前から恋仲だったらしい。ますます3人はわからなかった。



「信人は恋してみたいの?」

あんは珍しく儚げに問う。

「よく…わかんない。俺は感情豊かな父さんから造られて、たくさんの感情に触れてきたけど…」

「「きたけど?」」

「俺が思うより恋愛って複雑みたいだし、手出していいもんじゃない気がする」

「「それな」」

3人はパックのミルクティーをストローで三口、同時に飲んだ。

「で、あんは告白されてその後どうしたの?」

「どう、とかなくない?普通に帰ってきたけど(笑)」

信人は会ったこともないあんに惚れた人間を少し哀れんだ。するとあいのスマホが震える。まもるから着信だ。

「乙ぴよまもちーどしたん?」

「マジ早めしごおわテン上げからのコンビニでさらと運命の出会いかましたわけよ!リア恋ブッ飛びっしょ。」

翻訳すると、”仕事が早くおわり、テンションが上がってコンビニに行ったところ偶然さらと会った。とてもうれしかった。”と言ったところだろう。

「激アツじゃん?」

「なんかほしいもんある?今ならなんでも買ったるわ」

「あー…」

テーブルの上に乱雑に敷き詰められたお菓子の山を見て、あいは言いよどむ。

「今はいいかな?デートしてくれば?」

「おま…マジいい子だな。せんきゅす!早く帰るかんな?」

電話を切り、二人が帰るまでに食べ終えねば、とあいはスナック菓子をほおばった。


再び、あいのスマホが震える。

何故だかあいは嫌な予感がした。







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