3-1 ♡?編



「うぃーーー小腹空いたおやつ食べた~~~い!!!」

あんが居間のソファーで絶叫する。

「うるせーな(笑)食べろし(笑)コンビニでも行ってこいし(笑)」

あいはノールックであんにツッコミを入れる。信人はあい!アイテム使って!このままだと負ける!と、あんを完全に無視している。二人の目線の先は家庭用ゲーム機に夢中だ。

「冷たくね?いいけどさ!行くけどさ!」

あんはいじけながらスックと立ち上がる。二人はゲームに夢中なので、もちろんその視線があんに移ることはない…が、その背中があんに話しかける。

「あいガリガリ君チョコミント」

「俺クリーム乗ったプリン食べたい」

「……」






「別にいいけどさ、さすがにパシるのは違くね?信人とか姉をなんだと思ってるんだっつー」

最寄りのコンビニで、あんはブツブツと独り言をつぶやきながらプリンをかごに入れる。

「ムカつくから爆買いしよ。中国人も真っ青にしたるわ。しかも全部ひとりで食べちゃうもんね卍マジワルだわあん卍」

バサバサとスナック菓子を手の内に放り込む。でもどうせ家に着くころにはどうしてこんなに買い込んだのか疑問に思いつつ家族で食べるだろう。

「こちらのレジどうぞ」

奥の若い男性店員がレジが開け、あんは山盛りのかごを台に置いた。

「あー、あとアメリカンドッグひとつとぉ、カラアゲちゃんの…」

「チーズ味ですよね。」

突然の店員の言葉に、あんは固まる。店員はハッとしまった、といった表情であんを見つめた。

「あ…すみません、えと、いっつもこれ買ってくんで覚えちゃって…」

「そーなん?めっちゃホスピタリティーじゃん?あざーす、プリンと一緒の袋でいいすよー」

あんは半ば投げやりに返事をしてカバンから財布を取り出す。いや、いつもこんな感じなのだが、店員には少しそっけなく感じた。

「あ、と、あの、この辺にお住まいなんですか?」

「えーー教えるわけなくてウケる(笑)」

「あっ…で、ですよね、すみません…」

「?」

明らかに不自然な態度に、あんはどう反応していいのかわからないでいた。絶対に目を合わせまいと決めているかのように、視線を泳がせまくっている店員はすみません…と壊れたように言い続け、なんとなく気まずくなったあんは店員の顔を覗き込む。

「なんか知んないけどだいじょぶっすか」

「え?!あ、いや、あのその…!だだだ、だいじょぶ、です」

どうしてこんなにどもっているのか。見る限りチャラそうだが、陰キャ要素でもあるのか。顔を赤くして俯く店員をあんはただキョトンとして見ていた。明らかにヤバイ(あん的に見れば)のだが、何が大丈夫なんだろうか。まぁ本人がいいならいいのだろう。

「すみません!お会計3464円です!!」

「…カラアゲちゃん忘れてるけど」

「はぅあ!!すみません!」

私も決して静かなタイプではないが、なんという慌ただしさだろう。接客業は向いてないのではないだろうか。あんはこのレジに並んだことを少し後悔し始めた。現に後ろはつまり、並んだ人々は隣のレジに流れていく。

「あのほんとマジすみません緊張しちゃってて」

「あー、新人さん?それだったらいーよ、あんちの心釧路湿原より広いから」

あんは鼻先をポリポリと掻き、興味なさげに手をひらひらとさせる。

「いえ、ここでバイトし始めて2年です」

「あーーー…そうなん?」

いきなりマジトーンで話し始める。なんて言ってほしいんだこいつは。ここはコンビニだ。店員と楽しく会話をするところではない。なのにこの会話量。はっきり言って迷惑の域だ。あんは困惑の色を隠せない。

「ずっとあなたを見てました」


「好きです。初めて見た時から。」


「そうなん?」

あん氏、今日イチ、興味のなさそうな声色。

「えっ、は、はい。最初から可愛いなって思ってて、家族と仲がいいこととか、いつもカラアゲちゃんのチーズ味買うなとか。ずっと目で追ってて。」

「ちょいきも~~~(笑)」

「ええ?!す、すみません…」

いや、確かにキモいですよね、と店員は謝る。

「でも、この気持ちに変わりはありません。俺平野翔って言います。良かったら友達からお願いします。」

「何を?」

「”何を”って!?えと…あんさんが良ければ付き合ってほしいなって」

「なんで名前知ってんの~?」

あんの顔はどんどんあきれた表情へとゆがむ。

「あ、すみません、前弟さんが呼んでたんで…」

「さっきから謝りすぎじゃね?(笑)支払いカードで」

あんはレジに貼られた「対象のドリンクを購入するともれなくポイント2倍!」と書かれたポップをつまんなさそうに眺め、カードを渡す。翔はたどたどしくカードをスライドさせて読み込む。あんはあざした~~と何事もなかったように帰ろうとするのを、翔は必死に止めた。

「あの、返事いつでもいいんで!」

「なんの?」

「こ、告白のです。」

「あー、ごめん、あんちそういうのよくわかんない。あざすーー」

呆ける翔を置き去りにし、あんはコンビニを後にした。










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