2-5




ロシア大使の元に、一本の電話が入る。

「もしもし。ああ。やはりね。」

話を聞きながら、大使はどんどん口角を上げていく。

「ほう、あの少年が…ありがとう。すぐ戻るように伝えてくれ。」

受話器を置いた大使は時計を見て、それみたことか!と手を叩いた。


「生物兵器の件でしょうか?」

参事官は喜ぶ大使に問いかけた。

「ああ。一番年下の彼がトドメをさしたようだよ。」

「[人間発電所]の彼ですね。[人間製鉄所]の双子は?」

「彼女らが手解きしたんだろう。なあ?問題ないと言ったろ。しかもこんな短時間でだぞ。いや、凄いなぁ。」

天晴れ天晴れ、と大使は恵比寿顔で椅子に座り直す。

「お見逸れしました。特A級も、彼女らには関係ないようですね。まさに最強といったところでしょうか。」

「可哀想なことにな。」


皮肉ではない。彼女らは確実に最強の生物兵器だ。だからこそ、使命の重みはどんどん増えるだろう。

あの小さな肩に、これ以上の負担はかけさせてはいけない。我々人間が、少しでも減らせるものは減らしておかねばならない。

「最強の生物兵器、か」

大使はパソコンを立ちあげた。








「えーー?大使館行かなきゃ行けないの?」

「ボルシチ屋連れてってよーーー」

運転手が告げた連絡事項に納得のいかない二人。信人はあわあわとあいとあんをたしなめる。

「こら、運転手さんになんて言い方するんだよ。つーかボルシチ屋さんてどこだよ」

「知らないよぉ、それくらい運転手なんだから知ってるでしょ?」

あいがぶーたれながらコートを脱ぐ。

「タクシーじゃないんだぞ?異国に来たら大使館の言うことは絶対なんだから…」

あんは信人の話を聞き終える前にスマホをいじりだす。ぱたぱたと文字を打ち終え、ほいと座席にスマホを投げた瞬間にあいと信人のスマホが震える。


キメラ討伐おわぴ(ハート)

ボルシチ食べて帰るよ~

お土産マトリョーシカでいい?


「…って人が喋ってる時に家族のグループラインに連絡すな!つーかまだボルシチ食べる話になってないだろ!」

ピコン、とあんのコメントに即座に返事が来る。


乙カレー風味!

さらと俺の分で

めおとマトリョーシカ希望!


「ほら話がどんどん逸れるだろ!」

「ピロシキでも可~~」

「あんちーーそれ全然違う料理だから(笑)」

うっそマジ?音似てるからほぼ一緒と思ってた(笑)と二人はのんきに大笑いして見せる。先ほどまでのキメラ戦の緊張感が嘘のようだ。すると信人の腹がSEのように鳴る。あいとあんはかちりと目を合わせる。

「お腹すくよね、能力使うと」

「燃やすのってめっちゃエネルギー消費するんだよね~」

「「発電ごくろうさま。」」

ギャルというものは正直な生き物で、褒める時もストレートである。だからこそ、信人は余計に照れてしまう。

「ほ、ホントはあのまま二人で倒せただろ。俺に華持たせてくれて…」

「ないない、あんらそうゆー優しさは持ってないから」

「そーそー。」

しれっとグサッと来ることを言うな。

「単純に疲れたからバトンタッチしただけだよ~」

「信人のMP満タンだったべ?」

「だってロシアまで来てなんもしないで帰るとか超ぶいあいぴーじゃね?(笑)」

「「闘って疲れて食べるボルシチマジうまいから」」

二人ともスマホに目を向けていたが、言いたいことは真摯に伝わった。要するに、場数を踏めという意味だろう。信人は姉たちの優しさをかみしめた。


確かに俺はまだ未熟だ。キメラと対峙した数も少ない。自分の能力の幅も限界値も知らない。あいとあんの負担を考えれば早く自立したいのはやまやまだが、二人があまりにも強すぎるのだ。

だけど、その強く優しい姉に少しでもいいから役に立ちたい。

俺も、そのために生まれてきたから。




あいとあんと、マトリョーシカを買って、ボルシチ食べて早く帰ろう。







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