2-4
吹雪はやんでいるが、空間には刺すような寒さが続いている。まるで自分の悪寒が肌から出ているかと錯覚するほど、キメラが放つ憎悪が細胞まで染み込むようだった。
怒りか悲しみか、彼もまた身勝手に産み出され、支配のために大量殺戮を担い、そしてまた…有り余る力は俺たちによって身勝手に処分されようとしている。
こんなに凍った地面じゃうかつに動けないな。普通の建物じゃないから道具等も一切ない。あいもあんも…どう出るか伺っているだろう。
何より、キメラの能力が計り知れない。奴はどこまで再生可能なんだ?頭を落としても駄目なら粉々にするか…でも安易に近付けばまたどんな攻撃をされるか。
遠隔攻撃も可能なんだろう。現にあいは氷の針山に刺されるところだった。今こうして立っているのだって危ないかもしれない。3人で来たのは正解だったな、集中力が散ってるみたいだ……
「うぉ~い信人ぉ~」
張りつめた緊張感の中に、あんの間の抜けた声が響く。瞬間、キメラが伸ばした右手から氷柱が飛び出し、あんの頬をかすめる。間一髪でかわしたみたいだ。
なのに、どうしてそんなにのんきな表情をしてるんだよ。
「頭でっかちやめな」
あいも同じようなトーンでよびかける。
「考えたって無駄~手ぇ出せ~」
ひょいひょいと次から次へくる攻撃をかわしながら、あいはどこぞの熱血体育教師のようなセリフをやる気なく呟く。
「そ、そんなこと言…うわ!」
俺が喋りだすと同時に攻撃の巻き沿いを食らう。
そんなこと言ったって、まともに考えをまとめるのも難しいのに。
あいとあんは大振りにため息をつき、キメラから一定の距離を保ってやれやれ、といったポーズで信人を煽る。
「はぁ。やっぱりまだ幼い信人ちゃまに囮は任せられないね」
「いいですいいです。私たちが先陣切りますよ」
「え」
信人が状況を飲み込む前に、行くよ!とと二人は叫んだかと思えば、キメラに向かい走り出した。
「おい!なんか策は?!」
慌てて制止を促すが、あいは大きく息を吸い込みキメラの目の前に飛びかかる。
「んなもん…」
あんは対面する二人の後ろから目を光らせた。
「動きながら考えろ!!!」
ゴウ、と轟音を響かせ、あいは灼熱の吐息をキメラに浴びせかける。一瞬怯んだ隙をついて、あんは振りかぶり…
「
体内で溶かした鉄を、まるでシャワーのようにキメラの全身に振り撒く。くまなく刺し込まれた鉄は、キメラの右腕と左手首をもぎ落とした。
止まないあいの炎風に彼も抵抗を見せるが、足元には溶け出した体により水溜まりができ始めていた。動きも鈍くなってきている。
全身にはびこる鉄釘は赤く燃え、内側から蝕むように熱を叩き込まれている。キメラの声にならぬ雄叫びに、信人は後退りしてしまう。
目の前に起きることを理解する前に次の攻撃がなされる。まるで追い付けない。
「む、むちゃくちゃだ!!」
戸惑い怯む信人をあいは怒鳴り付ける。
「ボーッとしてんな!信人がトドメさすんだよ!」
信人はごくりと唾を飲み込み、四つん這いになって水溜まりに手を浸した。その動きを確認したあいとあんは俊敏にその場を離れ信人に目配せする。
パリリ、と音と共に空気が張りつめ、信人の髪が逆立つ。
「特に技名とかないけど、これでくたばってくれ!」
そう叫ぶ信人の全身がかっと光り、手から電撃が放たれる。耳をつんざくような激しい雷は、全身に鉄釘を打たれた雪男へ否応なしに体の奥まで叩き込まれているだろう。
(通電してる!このままいけ!)
あいとあんは傍観していた。弟の勝利を確信した。消え行くキメラの命を、ただ眺めていた。
その視線の中で彼は一言も発することなく、電流に飲み込まれながらゆっくりと膝から崩れ落ち…ただの雪塊となった。
信人は膝まで浸かってしまった水から足を離し、肩でため息を放って手を振り払い水を切った。荒息をしながらニヤニヤと信人を見つめる二人に対し、何故か照れ隠しをしながら腕を組む。
「な、なんだよ、アイゼンレーゲンて。めっちゃカッコいいじゃんか。ドイツ語はズルいだろ。」
あいはがしっと照れる弟の肩を強く抱き寄せ、あんはまぁまぁ、と深呼吸した。
「「「ボルシチ、食べに行きますか」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます