2-3




「てかキメラどこ!!」

「え??!?!!」

あいが轟くような吹雪の中で叫ぶ。が、後ろを歩くあんには届かないようだ。

「だから!!キメラ!どこ!!!」

「なに!??!」

風向きが悪いんじゃないかな…と信人は二人の会話(というか一方的な絶叫)を聞きながら白く霞む周辺に目をこらした。


そもそも室内なのだから風などが起こる筈がない。キメラがいるのなら、きっと風上で自分たちを待ち構えているのだろう。

雪が濃くなってきている。

そこにいる、という感覚。


「ーーあい、あん!前!!」

思わず信人が叫んだ先を2人は見据えた。

「は…?」

「ターザンじゃん」

凍てつく世界に堂々たる姿で立ち尽くして居たのは…この寒さにそぐわぬ粗雑な布を腰に巻いただけの男性だった。色素を失ったその姿や視線は凍ってしまいそうな程冷たく、その目は確実にこちらを見、試しているのか、何もせずに3人を待っているように伺える。


「ホワイトターザンじゃん」

「アイスエイジターザンじゃん」

「ターザンインザ吹雪じゃん」

「アナと雪のターザンじゃん」


「やめろよ!気の抜けた大喜利すな!」


信人が制止を入れなければ永遠に続いていた二人のボケをあーもう!と頭をかきむしって打ち消す。

お決まりの聞く耳持たず姉妹は、こきりと指を鳴らし臨戦態勢に入った。


「人間型(ヒューマンタイプ)のキメラ」

「久しぶりに見たなぁ」

あんの目が赤く揺らぐ。

「イケメンキメラだろうがなんだろうが関係ないし」

「あいちとあんちの好きなタイプは」

「「優しい人なんで!」」

シッというかけ声と共に、あんは体内に溜めていた鉄を刃に変えた物をキメラに投げ込む。

ザクリ、と音をたて貫通した刃は首から上の頭部を確実に落とした。あまりに呆気なく地面に転がる頭部にあんは違和感を覚える。特A級がこんなにも容易くくたばるはずなどない。吹雪は止んだが、信人たちに向けられた殺気は以前にも増して3人を包んでいる。


「あん!」

あいが叫ぶコンマ前にあんは身をよじらせ後退った。

あんが立っていたところに突然現れた氷の剣山が、ゴリリとゆっくりキメラに戻っていく。あいはその様子を見て不敵に笑う。

「あら?イケメン復活じゃん?」

氷はキメラに戻り…落とされた首もまた氷に運ばれて頭部に帰ってきていた。ゴキンと鳴らしたキメラの首を、瞬く間にキメラの後ろについていたあいが慣れた脚つきで蹴り飛ばす。

キメラは避ける様子もなく。まるで雪合戦の雪玉が当たり弾けるように…頭は粉々に崩壊した。


(まだだ!)

信人がそう思った瞬間、体だけのキメラは着地しようとするあいの脚を掴み、無造作に放り投げた。

「!!」

あいが見えたのは投げられた先にある氷の針山。今にもあいに刺さらんと伸びていく。

「いくぞエモ技!」

あいは大きく息を吸い込み、ゴウと体内の煮えたぎる吐息を針山に浴びせる。氷は真っ赤に燃え盛る炎に勝てるわけもなく、轟音を響かせながら一瞬にして爆発的に蒸気へと変換された。

ダン!と炎によって露出した壁を蹴り上げ華麗に一回転し、無事に着地したあいは自慢気にキメラにビシッと指を差す。

「見たか!この技の名前なんにしようかな、炎龍の吐息ドラゴン・ブレスとかどう?…な!カッコいいだろ!」


「あい、決めてるとこ悪いけど。つーか名前厨ニくさいな。それでキメラに直接攻撃すればよかったんじゃないの?」

信人氏、少し言いにくそうに進言。

あい氏、あちゃーと言った表情で返事。


この手のキレる標的には二度同じ手は使えない。それは戦闘において至極当然の話であって…目前で披露されたら尚のことこの攻撃は使えないだろう。


「で、どうしますかお二人」

信人はジリ、と凍った地面を踏み込む。キメラが無傷なうちは、凍てついたこの部屋も足場が悪すぎる。あいとあんは場数で乗り切ってはいるが、どう出るかはまだ決定打を探しているはずだ。


「え?そりゃもちろん」

「「信人が囮だよねーーー」」



「俺ッスか!!」





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