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「思ったより寒くないじゃん!信人の嘘つき!」

「つーかみんな普通のコートじゃん!」

「つーかロシア大使から"現在そんなに寒くないのでこちらで充分かと"って普通に可愛いコートもらっただけじゃん!」

あいとあんがキャンキャンと噛みつく。二人はロシア政府に作ってもらったピンクと紫のお揃いの防寒着を身を包み、不満げな信人と共に大使館をあとにする。

「だから知らないって言っただろ!俺だって初めて来るんだからさぁ!」

カーンとゴングが鳴り、3人(1人対2人)のキャットファイトが始まる。


だいたい時期見ればわかるだろそんなに寒くないのなんて!

わかんないじゃんだってオーストラリアとか季節真逆だし!

ていうか自分で調べろよ俺に頼らないで!

なんでよ信人のが賢いじゃん!

そんなの言い訳にならないだろ!



「仲がいいんだろうなぁ。私はあんな風に兄弟と口ゲンカしたことなんてないよ。」

大使が窓から3人を眺め、歯を見せて笑いながら呟いた。

「大使、今回のキメラですとあの防寒着では…いくら生物兵器とはいえ些か可哀想なのでは?」

後ろから、屈強そうな参事官が少し不安げに問いかけた。まるで大使は子供の遠足を見送るように、余りにもヘラリとした態度を取っているからだ。

「ん?君はあの子たちの資料映像を見てないのか」

「失礼ながら……」

大使はニカッと満面の笑みで参事官の肩を叩いた。

「大丈夫だよ。だってあの子たちは……」



「最強☆姉妹だもーーん」


重厚な黒塗りの車から3人は鉄壁で作られた巨大な倉庫らしき建物の前に降り立つ。大使館から車でおよそ3時間ほど走っただろうか。灰色の空の下、要塞のようにそびえる建物は、不気味なオーラを放つばかりでまるで信人たちを迎え入れる様子などない。

「だからって"30分で終わらせる"は甘く見すぎだろ。どんなキメラかまだよくわかってないんだ…」


「"特A級危険因子"でしょ?」


「"A級はその能力・危険度から自治体が設定した区域に制限・隔離され、その区域の中でのみの戦闘を許可されたものとする。"」

「"特A級はその能力・危険度から自治体が設定した区域に制限・隔離されたのち、その危険が及ばぬ区域まで要塞を作り、一切の立ち入りは禁止とする。例外はないものとする。"」

「「私ら以外はね」」

二人を纏う空気がピリリ、と張りつめる感覚。

「大丈夫」

「もう誰も苦しむことはさせない」

「「私らが終わらせる」」

信人は二人の覚悟をいつも見逃す。

その目は優しく、揺らぐことなく、前以外を見ることはない。

俺は二人のこの瞳が好きだ。鋭さの奥に、安心感が満ちている。それは確かな"自信"であるから。



巨大なキメラの城には小さく…その大きさには似つかない程厳重な扉がついている。あいは何重にもかけられたロックを一つずつ解き、軋む扉を放つように開けた。


「うし!あいあん&信人出動!」



扉に突入した瞬間、全身を刺し尽くすような吹雪が3人を猛烈に包み込んだ。目の前はホワイトアウトして、目を開けることすら難しい。どうやらこの吹雪は、。ギィ、と音をたたせ、扉は外側から閉められた。と、言うより閉じ込められた。



「は……」

「なにこれ……」

「コート云々つーか……」

「「「激寒げきさむなんですけど?!!?」」」





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