2-1 ロシア編




「信人ぉ、ロシアってどれくらい寒い?なにげ初めてなんだけど」


あいはクローゼットに掛けられたコートを一着ずつ全身鏡の前で当ててこれじゃ寒いかなぁ?と、姉の部屋で漫画を読む弟に質問を投げかけた。信人は訝しげに手の中の異世界バトルからあいへと目線を移す。

「えーわかんないけどめっちゃ寒いでしょ。つか絶対貸してくれるよ、向こうの人が」

VIPだもん、あいは。サラリと告げ、また異世界へと戻る。確かに、この姉弟と同世代の者は御用達のセスナなどない。政界のトップに直々に頭を下げられることもないだろう。だがあいはえーー?と不満の声をあげる。

「だってオジサンたちが用意するの可愛くないし!お気に入り着たいじゃん!」

なに言ってんだか、と信人はため息をついた。ちょうど最後のページを読み終え、パンと音をたてて漫画を閉じる。

「死んじゃうくらい寒いのに、可愛いどうのとか言ってたらオシャレが聞いて笑っちゃうよ。」

「は?いみふ」

「意味はわかるだろ!」

姉とは理不尽な生き物だ。基本取り合ってもらえない。それは最強の生物兵器でも一緒である。

「つか、あい死なないし。」

ガクッと信人は頭を垂らす。もっと言いたいことがあったのに、あいの間の抜けた返事になんだかどうでも良くなってしまった。

「確かに寒いくらいじゃあいは死なないよ。前、雪の降るロンドンで生足出してたんだもんね。でも父さんがめちゃめちゃしんぱ…」

遮るようにあいはぽん、と手を叩いた。

「確かに!まもちに心配かけたくないなぁ~よし!オジサンに頼んで可愛い防寒着作ってもらお、しあさって迎えにくるって言ってたし」

「あんのぶん、色ちにしてもらって~その方が映えるべ?」

いつの間にかいたあんが、信人と似た動きで漫画からひょい、と顔を覗かせてリクエストをする。

「やば、まだ現物見てないのにちょー可愛くね?イマジナリーキュート防寒着やば」

「「信人もついでになんかいる?」」

信人は本棚から次の巻を取る手を止め、

「いや…なんもないっす…」

と、やる気のない声で会話に終止符を打ち、鼓膜をシャットアウトした。


そんな返事を聞いているかいないのか、インナーとかって寒いの関係ないよね?と双子はまたファッションショーを始めながら二人の世界に入っていった。信人は漫画を再び読み始めようとするが…


「弟が居るときに裸になるなよ!」


何故こうも世の中の弟という存在はないがしろにされるのか、と信人は眉間にシワを寄せた。そんな弟の心を読むように、あんは嘲笑気味に言い放つ。

「つか、ここ私らの部屋だから(笑)」

信人は数秒間静止したあと、失礼しました、と姉の部屋をあとにした。



(ロシアかぁ…)

信人はぼんやりとボルシチに思いを馳せていた。

「はは、なんだかんだ俺も二人の弟だな」

キメラのことなど思い出すこともなく、郷土料理のことを考えるだなんて。

「まぁ、あいとあんがいるからこんなに呑気でいられるんだろうな」



あと3日の間に、ロシアの美味しいものを調べておこう。あいとあんにも相談しなきゃ。


結局いつもの3人なのであった。


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