第25幕 St. John's wort

 マウスホイールが転がる音。

 数時間前に届いた一通のメールを、何度も往復して黙読する。

 その文章の意味を処理しきれず、思わず不快感を露わにしてしまう。うっすらと画面に反射した自分の顔の眉間には、深く皺が寄っていた。

あららぎ

 反射的にマウスカーソルを右上のバツ印に合わせ、無機質な青いデスクトップを表示させてから、蘭はようやく声の主の方へと振り返った。

松嵜まつざきさん、お疲れ様です」

「おう」

 松嵜が、右手に持っていた無糖の缶コーヒーを蘭のデスクに置いた。

 松嵜の身長は日本人男性の平均をわずかに上回る程度だが、その体格には圧倒される。背後に立たれると、巨木のような存在感があった。その一方、厳つい雰囲気とは裏腹に、相手の感情の動きの機微を読むことに長けた、まめで器用な人間でもあった。

 家父長制というのか、体育会系というのか、体制が古く融通の利かないこの警察組織において、松嵜は絶滅危惧種とも言える人格の持ち主だった。体力、知力、精神力すべてを持ち合わせている上、他人の状況を慮る余裕と想像力がある。

 優れた人間を疎ましく思う野暮な輩がいるのも事実だが、柔道黒帯の称号が、この男を鎧のように包み、そういった輩を追い払っていた。

 もし、警察組織に、松嵜のような人間が多ければ、この国はもっとましになるのではないかと、度々蘭は考えていた。

「青山のことは残念だったな」

 ぐっと、眼球の回りの筋肉に力が入る。

 どうにも、この男の前では嘘をつくことも誤魔化すこともできない。

 蘭は松嵜の顔から目を逸らし、小さく頷いた。

「どんな病気だったのやら。まあ、でも本当に、命だけでも助かって良かったよ」

「やっぱり、病気なんですか」

「上はそう言ってる」

 松嵜が自分用に買った同じ缶コーヒーを開けると、僅かな白い湯気と、ほろ苦い匂いが漂った。

 窓が結露し、白く曇っている。そういえば、今日は雪が降っていた。

 寒い。底冷えする。しかし、この悪寒とも呼べる不快感の原因は、恐らく気温によるものではない。

 後輩の傷病、面識のない人物からの告発。脳裏にちらつく、大庭という名の胡散臭い男の存在。

 何なんだ、何が起ころうとしている。

「最近、何人も刺すような通り魔とか、事件が増えてる。ここ数十年では類を見ないような、凶悪な事件が。なにか、よくないことが起きている気がするよ」

 蘭の心情を察したのだろう、松嵜はそう言った。

「お前が、何かに関わってしまったことはなんとなく想像がつく。挙動不審すぎたからな」

 返す言葉が思い付かず、蘭は小さくため息をついた。

 一人で抱え込むにはあまりに重い。一刻も早く、この重荷を肩から降ろしたいというのが、正直な気持ちだった。

 だが今は、一体誰を信じるべきか、努々よく考えねばならない。

「松嵜さん、貴方を信頼してもいいですか」

「そりゃ、お前が決めることだよ、蘭」

「俺は貴方を信じますよ」

 蘭は躊躇いながらも、口を開いた。

「今まさに、よくないものが届いてまして」

「ほう」

 それは、とある秘密結社の元幹部の告白だった。そこには、青山が一体何に巻き込まれてしまったのかが、克明に記されていた。

「どう思います」

「到底信じられない。サスペンスドラマじゃあるまいし」

「俺も、正直迷惑メールの一種かと思ったんですけど」

「気になるのは、厳重に暗号化されてる上に、アドレスもランダムに生成されているように見えることだ。信頼できる情報が少なさすぎる。─ただ、差出人は知ってる。東海林豊しょうじゆたか。刑法概論の研究で結構有名な大学教授だ。青山もこの人の講義を受けたことがあると聞いた」

「あの大学の法学部、刑法の研究者となると、まあ、最初に思い当たるのはこの人ですよね」

 ブラウザの検索ボックスに、『東海林豊』の文字を入力する。表示されたページには、東海林が執筆したコラムやSNSのページ、学生向けの講義用のホームページが羅列された。

 蘭は、コラムのリンク先をクリックし、文章を斜め読みする。末尾に表示された東海林の顔写真と、目が合った。

「…こんなメールがなんで俺のところに」

「お前の地位がさほど高くないからじゃないか?」

 蘭は眉間に皺を寄せた。

「地位が上であればあるほどこの『カナリア』のボスの息がかかった奴がたくさんいるってことだよ。だから俺やお前みたいな微妙な中間管理職にこんなメールが届いた。……まあ、それと、実際に消された人間を目の当たりにしてるからだろうな」

「消されたって」

「蘭。俺は、青山以外にも何人か、こういう奇妙なタイミングで病気になった奴を見てる」

 松嵜が声を落とす。

「今まで健康診断にも引っかからず、風邪にすらめったにならないような人間が、ある日突然何らかの病気になって消えていくんだ。その病気というのが、心臓発作、下半身麻痺、失明、性的機能不全とまあ、それはそれは多岐に渡る。だが、一つ共通しているのは、言語障害を併発していることが多いんだよ」

「……それじゃあまるで、誰かが意図的に」

「そう、まさに口封じ」

 松嵜の言わんとしていることが、徐々にはっきりと輪郭を帯びてくる。

「今回青山は脳の損傷による言語障害と、両足の麻痺らしいが、これに誰かの意図を感じないほうがおかしい」

「でも、万が一事故って可能性は……」

「考えてもみろ、どうやったら足と頭だけを同時に損傷するんだ。俺は少なくともそんなに転び方が下手な奴にお目にかかったことがない。もし仮に、事故だったとしたら、そこには本人以外の誰かがいないと、足と脳を同時に損傷することはほとんど有り得ない。それはもはや事故ではなく事件だ」

 肩に、何かが伸し掛かっている。

 何も見なかったふりをしてしまえたら、どれだけ楽か。

「ところで。なんでこの集団の名前が『カナリア』なんですかね?カナリアってあれでしょう。黄色い、小鳥」

「『炭鉱のカナリア』だろ、多分」

 松嵜が、近くにあったホワイトボードを引き寄せた。

 水性インクが滑る音が鳴る。

「昔、炭鉱で鉱石を採掘する時は、必ずカナリアを連れていったらしい。そういう場所は、たまに毒ガスが出るからな。小鳥、特にカナリアはそういう毒素に敏感で、ガスが少しでも出始めると真っ先に苦しんで死ぬんだと。それを見て、人間はその場所から避難するって寸法だ」

 籠に入った小鳥の上に、水性マジック製の天使の輪が浮かぶ。そして棒人間たちには、古い漫画で見るような、駆け足を表現する渦巻がぐるぐると書き足された。

「どうやらボスは言葉遊びが好きらしい。それが組織や自分の首を締めるとわかっていても、メッセージを残すのがやめられないんだろう。多分、奴は詩人なんだよ」

「炭鉱のカナリア……それが、自分たちだと。彼らは多分、自分らが被害者だと言いたいんでしょうね」

「怖いもんだな、被害者意識ってのは」

 松嵜が、声を絞り出すように呟いた。

「ここからは俺の妄想にすぎないけどな。多分、この組織は、自分で自分を追い詰めてしまった人間の集まりなんだろう。そりゃあ、ろくでもない人間はいるかもしれないが、世の中、そこまで捨てたもんじゃないよ。心に余裕がある人間はそうそう人を敵視しない。他人に攻撃的になるのは、やっぱり被害者意識や不安が根底にあるんだと、俺は思う」

「……我々は、どうすればいいんですかね」

「地道に、いつも通り情報を集めるしかないだろ。これだけ巨大な組織による大犯罪となれば、証拠なんていくらでも出そうなものなのに、それが無い。何故か?相手が手練れであること、誰かが意図的にこの状況を隠していること─考えられる要因は沢山あるが、一番問題なのは、多分、この犯罪には。青山のような、組織の邪魔になる人間は物理的に口封じをされる。そして、自殺志願者は、自殺幇助犯を糾弾したりしない。だから、この犯罪には。」

 松嵜の声音は諦めに近い響きだった。

「我々にできるのは常に対処療法だ。実害が出て、それが上に認められてからじゃないと動けない。仮に諭すことはできても根本の解決になんかならん。できることは最大限するつもりだけどな」

「長い闘いになりそうですね」

 蘭はこめかみを押さえた。

 今まで何度か、錯乱した人間だとか、アルコール中毒の相手だとか、自殺未遂をした少女の相手をしたことはある。

 思い出しただけでも、気が遠くなるような時間だった。

 警察官は、刑事は、カウンセラーではない。松嵜の言う通り、抜本的な解決ができることはまれだ。思いもよらぬところで相手の逆鱗に触れることもある。

「こんなこと、考えたくもないが、正直、誰が敵でもおかしくない。気をつけろよ、蘭。俺もお前も、一歩間違えば青山と同じ目に遭うことになる」

「肝に銘じておきます」

 想い指先で、コンピュータにシャットダウンを命じる。お馴染みのデスクトップが表示されてから、画面は真っ暗になった。

 暗い表情の男が二人、黒い画面の中で俯いていた。


「手向けの花を届けに来たんだ」

 東海林は息をゆっくりと吐きだした。

 窓の外で降り積もる雪が音を吸収するからだろうか、静まり返った空間では、自分の拍動が相手に聞こえるのではないかと錯覚してしまう。

弟切草オトギリソウか。なるほど、確かに裏切り者に相応しい花というわけだ」

 足の先まで冷える季節でも、黒田の手にある花束は生き生きと咲いている。これも、黒田が─否、花屋敷家が培った技術の一つだった。

 本来その季節には咲かない花を開かせ、開花した状態を維持する。その美しさの代償として、その花はある日突然、ぼとりと首から落ちて枯れるのだ。

 黒田の目が弧を描く。

「なんだ、裏切り者だという自覚があったのか。よかったよ、それなら反省を促す甲斐がある」

 こめかみに汗が伝う。

「君は、マックス・ブロートを、裏切り者だと思うか?」

 東海林は声を絞り出した。

 黒田が首を傾げる。

「それは、カフカに聞くべきことじゃないかな」

「私は君の意見を知りたいだけだ」

 自分の命乞いをするつもりでも、その寿命を引き延ばそうとしているわけでもない。そう、ただ聞いてみたかったのだ。

 ここに黒田本人がいるのなら、もう逃れられはしない。その前に、ただ疑問をぶつけ、彼の心理を探ってみたくなった。

 黒田の肩が上がる。

「決まってるよ。"自分の死後、すべての原稿を燃やしてほしい。"カフカのその願いとは反対に、ブロートは原稿を公開し、出版してしまったのだから」

「しかし、そのブロートの裏切りが無ければ、私達はカフカの言葉を識ることはできなかった。本当に価値のあるものを、みすみす無に帰すなど、できるわけがない」

「確かに。だが、それは少し論点がずれているよ。カフカにとってブロートの行動が裏切りであったかどうか、その一点のみが命題だ。改めて言うよ。ブロートはカフカを裏切ったんだ。友人が託した思いを、不意にした」

 静まり返った部屋で、空調が、ぶおお、と喘鳴を上げる。断末魔のようだと、ぼんやりした頭の片隅で思った。

「なら、君は、深谷君が書いた小説を、彼自身が燃やしてくれと頼んだら、どうする」

 黒田の左側の目元が、ぴくりと動いた。

 ふと、沸いた疑問だった。

「それでも君は、彼の原稿を燃やすのか?」

 暫しの沈黙の後、黒田が口を開いた。

「そもそも、彼は自分が気に入らない作品を人に燃やしてくれと頼むような人間じゃないんだよ」

「…屁理屈だな」

「父親にもよく言われたよ。お前は口ばかりよく回って小賢しいってね」

 自分の専門分野が、法律でなければ。そう、仮に、心理学や脳科学だったなら、この哀れな青年の傷を癒すことができただろうか。

 時折思う。法律は人を救える訳ではない。

 法律の存在が無意味であるとは微塵にも思わない。人間という、悲しい生き物には罰という抑止力が必要だ。それは、あらゆる歴史や、物語が証明している。

 しかし、この青年のような人間と相対する時、法律という文字列の脆さを理解させられる。罰するだけでは何も解決しないのだと、思い知らされる。

「私は、君を裏切ってでも、こうしなければならなかったんだよ。私には、この方法しかなかった」

「だから、マダムを殺した?」

 黒田が低く問う。

「次の女王蜂が生まれるまでにタイムラグが生まれる。それが俺の計画を無に帰すことができると考えたんだろう。けれど、何もかも遅いよ。こっちだって、彼女たちの活動が鈍くなる冬に、何かしら仕掛けてくることくらい想定済みだ。必要なものはすべて揃ってる。……疑いたくなんてなかったけれどね」

 黒田の瞳が陰る。

「たかが数日のためにマダムを殺さないでほしかったな。あの個体は俺にとっては大切な戦友だったんだから」

 足音が近づく。

 しかし、全身に力が入らなかった。

「相変わらず、君はやることが中途半端だよ。そうやって君は、迷い、また無意味に時間を、命の残量を減らしていくのだろうね。いつだか君の口から聞いた後悔は、嘘だったのかな」

 返す言葉もなかった。

 本当に、一体自分はなにがしたかったのだろう。

 仮に黒田を裏切ることになっても、彼にとって本当にいい道を選んだつもりだった。

 今までとは比較にならないほど大きな罪を犯そうとしている友人を、ただ黙って見て見ぬふりをすることなど、できるわけがなかった。

 彼が、どうにか思いとどまってくれるように働きかけたつもりだったのに、心のどこかで、もう一人の自分が、自分を糾弾していた。

 今更お前がどの面を下げて。

 彼の信頼を溝に捨てるのか。

 恩を仇で返すのか。

 そうして悩んでいるうちに、袋小路で立ち竦んでいた。

 東海林に、もはや逃げる気力は残っていなかった。

 だらん、と垂れた両腕を、黒田が縛り上げた。

「俺は、君のことを信頼していたのに」

 黒田は、東海林の口にハンカチを詰め込んだ。そして、執務机に収納されていたカッターナイフを手にした。

 かち、かち、と音が鳴る。

「ねえ、豊。俺は君の目が好きだった。”わなから放されたばかりの動物”のように、悲し気な君の瞳が好きだった」

 黒田は刃を東海林の目に当て─真横に引いた。

 鮮血が噴き出し、東海林の獣じみた悲鳴は黒いハンカチに吸い込まれた。

「”爪のない猫!こんな、頼りない、哀れな心持ちのものがあるだろうか!空想を失った詩人、早発性痴呆に陥った天才にも似ている!”」

 黒田の言葉を遮り、東海林はくぐもった声を上げた。

 殺してくれ、そう言葉を発そうとしたのに、全身が震え、意味のないうめき声が口から洩れ続ける。

 ただこの痛みを取り除いてほしかった。意地も自尊心もかなぐり捨て、黒田の足元に縋った。

「例えば、頭痛の痛みを伝えるのに、その人の骨を折っても痛みは伝えられない。やはり同じ場所に痛みを与えなければ分かってもらえない。けれど、精神の痛みって、一体どこから来るものだと思う?」

 黒田が問いかける。

 返答は無く、あるのは呻き声だけだった。

「ずっと考えていた。俺たちが享受した痛みは、どこからやってきたものなのか。精神とは一体何を指すのか?俺は『魂』という言葉の美しさが好きだけれど、君の専門分野で精神を表すならば、この言葉は適切とは言い難い。だとすれば、やはり精神とは脳に宿ると考えるのが、自然なんじゃないかな」

 ひゅー、ひゅー、と東海林の喉が鳴る。

「仮に『精神』が『脳』にあるとして、『精神』がある人の言葉によって傷ついたのなら、それは『脳』への障害と言うべきだと俺は思うよ。『精神の病』、『心の風邪』─そんな曖昧な言葉で表されるべきことではない。出血して血液を失うように、脳を損傷して、尊い感情を、空想を、或いは安心を失った。それなのに、僕らは悲鳴を上げることすら赦されなかった」

 黒田は、研究室に置いてあった救急箱を取り出すと、東海林の両目の止血に取り掛かった。慣れた手つきで応急処置を施し、手にこびりついた赤黒い血をガーゼで拭き取る。

「僕は、どうすればよかった?」

 黒田は答えを聞くつもりなどないのだろう。演説でもするように、ゆっくりと、一つ一つの言葉を吐き出した。

「君はあの日、やはり歩み寄るべきだと言ったけれど、僕らは十分譲歩しているつもりだよ。それとも、僕らはやはり局外者アウトサイダーで、仲間を求めて荒野を彷徨うしかないのかな。僕らはそうやって、出会ったはずなのに」

 廊下を誰かが歩く音がした。

 黒田は床で蹲る東海林に背を向けた。

「いいよ、君がそのつもりなら。自分の語った言葉もなかったことにして、羊たちの世界に帰るといい。代償として君の目を貰い受けよう。あそこへ還る君にはもう必要ないものだからね。─さようなら」

 そう言い残し、黒田は扉の先へと姿を消した。

 東海林はただ、懺悔するように、地に身を伏せていた。


「東海林君から連絡があってね。いろいろと教えてくれたよ。やはりあの狂犬は彼にも手に負えなかったらしい。最初からこうしていればよかったものを」

「しかし、彼が本当にになるとは。血は争えんな。やること為すこと父親とそっくりだ」

「とにかく、パンドラの箱の中身が歩き回ってるんだ。首輪くらいつけておかなければ」

「なに、民間人が数人死ぬくらいなら別にいい。我々にとっても、彼の能力はやはりどうしても必要だ。多少のじゃじゃ馬には目を瞑ろう」

「あれは無理やり従わせようとすると手を噛むぞ。反抗期の子供と同じだ。おやつでも投げてやれ。そのほうが早い」

「何を吊るせばいい?彼はものでは釣れないんだろう」

「そういえば、末慎一郎が木偶にされたそうだが」

「末君は彼の役目を果たしたよ。彼の分も、我々は背負っていく。それだけのことだ」

「それで?彼が出した条件というのは」

「一つが、今生きているこの日本国民のすべてを不妊にすることだそうだ」

「ははは、なるほど。無理心中がしたいのか」

「笑いごとじゃないぞ。結局、大量虐殺を行うことと同じじゃないか」

「この国に生まれる子供は幸運な方だと思うがね。そりゃあ、数年前に比べれば国の勢いは衰えているものの、治安もいい、教育も受けられる。表現の自由もある。衣食住に困ることもそうそうない。これほど恵まれた国はそうないぞ」

「それに彼はこの国の中でも屈指のご令息だったじゃないか。本人の努力次第では如何様にもなれるはずだ」

「君達は、一体何が不満なのかね」

男は、写真の中の、青紫色の瞳をした少年に問いかけた。


 ****************


※注1─『St. John's wort』

セント・ジョンズワート。和名はオトギリソウ。弟切草と書く。平安時代、鷹匠の晴頼が、秘伝の鷹の生薬に使うこの薬草を、弟が他人に漏らしたことに腹を立て切り殺した伝説に由来する。

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