第6話 ユレル “モノ”

目を開けると友人がいた。

 暗い部屋の中、たくさんの蠟燭(ろうそく)が灯(とも)っていた。灯(ひ)に照らされてできた影がゆらゆらと蠢(うごめ)き、まるで動物のようだった。

 そして友人は意味のわからないことをずっと、ずっと話していた。

 意味が分からない。

 怖い。寒い。助けて。誰か。助けて。

 涙を流しても無駄。

 首を振っても無駄。

 友人なのに友人ではない誰かが苦しめてくる。

 言葉を発したいのに許してくれない。

 どうしようもなかった。

 悔しかった。辛かった。

 自由を奪われ、ただ。ただ、恐怖の中で怯(おび)えるしかなかった。

 友人の後ろでは悍(おぞ)ましいものが揺れていた。

 古いにおいも、新しいにおいもした。

 ゆらゆら揺れる“モノ”からぽたり、と、きらめく何かが滴った。

 残念そうに友人は言った。

 「あれは昨晩、理解者になれなかった“モノ”だ。」

 と。

 「でも、君は最高の理解者になってくれるよね。」

と。

ゆらゆらと揺れる蠟燭(ろうそく)の灯に照らされた友人の顔は恍惚としていた。

顔にできる影が恐ろしかった。壁に移る影が恐ろしかった。

「父も、母も、妹も、兄も、見知らぬ誰かも。運命の人にも。誰にもなれなかった存在に。最高の理解者に君はなってくれるよね?」

 期待の表情。いつもと違う彼の表情。笑っているのに笑っていない目。紅潮した頬。その全てが恐ろしかった。怖かった。忌まわしかった。悍(おぞ)ましかった。気持ち悪いと思った。


狂っていると思った。



思った。それだけなのに…。

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