第37話 書記のお手伝い

「助かりますー、天センパイー!」


 半ば涙声で、真波は喜んでいた。


「いや、最近、色々世話になったから……」


 天としては、恩返しの意味が強い。

 二人は、書類の入った箱を抱えながら、コンピューター室に向かっていた。

 議事録を改めてまとめるためだ。こういう時は、文明の利器を使うに限る。

 はじめに天がパソコンを使おうと言った時、真波は引きつった顔で、


「すんません、アタシ、パソコンて使えないです……」


 そう言ったが、天は人並み程度にはパソコンが使える。文字入力程度ならば、何の問題もない。

 真波には、書類の整頓やプリントアウトしたものをまとめてもらうことにした。分担作業をすれば、効率も上がるだろう。


「スマホは使えるんですけど、パソコンってあんまり触ったことなくて……。天センパイが使えて、よかったっす」

「俺も詳しいわけじゃないけどね。ネット見たりとか、作文とかに使えるくらいで」

「充分助かりますって! アタシじゃ全然できませんもん」


 あはは、と苦笑いする真波。申し出て良かったと、天は思う。


「今日は運ぶだけでいいかな。たぶん、まとめるには何日もかかるし」

「そうっすねー」

「真波ちゃん、部活とかは、大丈夫?」

「ちゃんと朝練には出てますんで。それに、天センパイに任せっきりじゃ、申し訳ないっすもん」

「無理はしなくていいからね。俺は帰宅部だから時間あるけど」

「大丈夫ですって。まだ大会も先ですし」


 紙束の入った荷物を軽々と抱えながら、真波は言う。


「でも、本当に無理はしないでね。テストもあるしさ」

「それも心配いりません。平均点くらいは、取れてるんで」

「そっか。なら、なるべく早く終わらせよう。締め切りもあるしね」


 期限は、六月の半ば。もう五月も終盤に差し掛かっている。テストのことも考えれば、実際に動ける時間はかなり少ないはずだ。

 さらに、書記の仕事が終われば、天には会長としての仕事もあるらしい。そちらは副会長と打ち合わせながらやるそうだ。


「早くかー。できればのんびりやりたかったなー」

「ん? なんで?」

「だって、ほら、この仕事があれば、その、天センパイを、独占できるじゃないですか」


 照れながら言われ、天は思わず顔が熱くなる。


「ああ、すんません。今の、忘れてください!」

「う、うん」


 真波も相当恥ずかしかったらしく、誤魔化すように笑っていた。

 コンピューター室までの数分が、長く感じられた。

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