第27話 予定は決定

 映画を観終わると、丁度昼に差し掛かるところだった。

 天と海智留みちるは、なじみのファストフード店に行き、バーガーを注文した。

 フードコートは人であふれており、個別の店も行列だらけ。消去法で、結局ここになった。


 海智留みちるは、ご満悦でポテトを食べている。

 人形は膝の上。透明な袋にこそ入っているものの、買ってからはずっと抱きかかえ、時折眺めては満足そうに撫でていた。

 よほど気に入ったらしい。何気なく選んだ映画で、ここまでキャラクターに愛着を持ってくれるとは思わなかった。


「天さん、原作では、この子はどんな役なのですか?」

「ん? 主人公が、最初に相棒として選ぶキャラクターの一つなんだ。その中でも、特にそいつは人気があって」

「なるほど。俄然、原作に興味が湧いてきました。マンガですか?」

「マンガだね。アニメにもなっているらしいけど、俺は見たことないや」

「マンガ……。後で、本屋に寄ってもいいでしょうか?」

「いいよ。でも、マンガでよければうちにあるから、貸そうか?」

「いいんですか?」


 もちろん、とうなずくと、海智留みちるの瞳が光ったような気がする。


「では、後日、天さんのおうちにうかがうということで」

「え? いや、海智留みちるさんの家に届けるけど……」

「うかがうということで」

「あっはい」


 勢いに圧されて、了承してしまった。


「楽しみです。あ、お片付けしなくてもいいですよ。私がやりますから」

「いや、自分でやっておくよ……」


 さすがにそこまでは。見られると困るものもある。


「安心してください。私は、理解がありますから」


 何に、とは聞かない。無言でコーラをすする。


「可愛いだけではなく、天さんのおうちにうかがう機会もくれるなんて。本当に良い子です」

「まあ、うちに来ても、あまり面白いものはないけど……」

「いえいえ、天さんのおうちに行くということが重要です。まだ、私は天さんのご両親とお会いしていませんから」

「え? 会うの?」

「もちろんです」


 また先日のように話を強引に進めないといいのだが。

 なんとなく心配しつつも、海智留みちるの膝の上の熊を見ていると、それもいいかと思えてきた。

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