第26話 名探偵ナントカ

 映画館は二つ先の駅にある。映画館とはいっても、いわゆる複合商業施設というやつだ。

 休日ということもあり、当然のように人が多い。


「中は涼しいですし、はぐれてもいけないので手をつなぎましょう」


 妙に理屈を並べて、海智留みちるが手を出してくる。まだ、先ほどの言葉に戸惑っているようだ。

 天は、覚悟を決めて、小さな手を握る。母以外の女性と手をつなぐなど、初めてのことではないだろうか。

 恥ずかしい。しかし、我慢する。拒むのは失礼だろう。


 それにしても、と隣の海智留みちるを見る。

 背が高い天とは、かなり差がある。歳の差が二年あるとはいえ、海智留みちるはかなり小さい方だろう。

 出会ってからは、ずっとグイグイと圧され気味だったので、些細なことにも気を配れなかった。

 

 なるべく、人ごみをさけて、上階の映画館まで行く。手は、しっかりと握って離さない。

 映画館も、たくさんの人で賑わっていた。ポップコーンやらドリンクやらの匂いが充満しており、いかにもといった雰囲気である。

 運よく、すぐ始まる回のチケットを買えた。開始まで、十分とちょっと。


「えっと、海智留みちるさんは、映画館でポップコーンとか食べる方?」

「いえ、私は食べません。ドリンクも飲みません」

「そっか、俺もだ」


 確認し合って、早速シアターに入る。すでに、かなりの観客がいるようだ。


「有名タイトルだからかな?」

「私は原作を知りませんが、人気ランキングではトップでしたね」


 ちょうど二人が席に着くあたりで、場内が暗くなる。CM、注意と進み、本編が始まった。


 父親を亡くした少年が、形見であるメモを元に、犯人を追うストーリー。

 相方は、元・父の相棒。人間ではなく、人語をしゃべる熊の人形らしい。

 謎解きがあり、アクションがあり、ところどころに交ぜてくるコミカルな仕草やセリフ。


 劇場内は、特にコメディのあたりで笑いが起きていた。天も、つられて笑ってしまう。

 最後にホロリと感じさせる演出があり、映画は幕を閉じた。


 天はのめり込んでしまい、存分に満足できた。

 海智留みちるはどうだろうか。天が横を向くと、


「天さん」

「うん? どうしたの?」

「この映画、なんですけど……」

「……うん、もしかして」


 つまらなかったろうか。海智留みちるは原作を知らないとも言っていた。

 しくじったかな、と思っていると、海智留みちるは、


「相棒、可愛かったですね。グッズ見ていっても、いいですか?」

「え? も、もちろん」

「ありがとうございます!」


 今度は海智留みちるに腕を引かれて、天は付いていった。

 グッズ売り場は、映画を観終わった客で混んでいたが、海智留みちるは構わず突撃していく。


「み、海智留みちるさん?」

「パンフレットは当然として、あの人形も欲しいですね。……う、手が届かない」

「あ、取ってあげるよ」

「た、助かります」


 棚の上の方にあった人形を取ると、海智留みちるは嬉しそうに会計に並んだ。

 意外とハマってくれたようだ。

 海智留みちると手を繋いだまま、天もなんとなく嬉しい気持ちになった。

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