第24話 週末の決定

「そういえば、今週末は空けてありますか?」


 弁当を巡る攻防が終わり、茶で一服していると、海智留みちるが聞いて来た。

 今週末、と言われて、天は曜日を思いだす。何かと立て続けに起きていたので忘れていたが、今日は金曜日だ。

 明日、明後日は学校が休み。家でのんびりできる。


「何もないよ」


 いや、答え方が違う。海智留みちるの問いは何かあるか、ではなく、何もないな? という念押しの形だった。

 もしかして、と恐る恐る視線をやると、海智留みちるはうっすらと微笑み、


「では、映画に行きましょう。典型的ですが、悪くないと思います」

「あっ、テメッ!」


 真波がすぐに反応した。ならアタシもと言い出しそうだったが、


「浜田さんは部活があるのでは?」

「うぐっ」


 確かに。陸上部は部活に熱心だ。例え雨が降ろうと、何かしらあるに違いない。


「そ、そういうお前は……」

「私は帰宅部ですので」

「ぐぐっ……」


 あっさりと真波は撃沈された。


「安心してください、浜田さん、これは抜け駆けなどではありません」

「……じゃあ、なんだってんだ?」

「綿密に寝られた計画です」

「何が違うってんだよっ!」


 綿密もなにも、海智留みちると出会って、まだ一週間も経っていないのだが。


「次は浜田さんが天さんを誘ってみてはいかがです?」

「じゃあ、天センパイ、来週空けといてください!」

「わ、分かった」


 おそらく、来週も予定はないだろう。天も帰宅部だ。


「既に映画のラインナップは調べてあります。恋愛、ホラー、アクション、文学、コメディ、ドキュメンタル。天さんの好きな物から選んでください」


 言われた中で興味があるといえば、コメディだろうか。しかし、海智留みちるが一緒となると、


「あ、ちなみに私は恋愛映画が好きというようなことはありません。基本的に雑食なので、何でも観ます」

「そうなの?」


 雑食とは意外だった。文学あたりに傾倒しているかと思ったが。


「えぇ。なので、恋愛映画で顔を赤くしたり、ホラー映画でしがみついたり、などということは期待しないでください。して欲しいなら、頑張りますが」

「いや、演技してもらうまでもないから……」


 そうなると、素直に天の好みで選ばせてもらおう。確か、最近CMをよく見かけるコメディがあったはずだ。嫌味のないストーリーらしいので楽しめるだろう。


「じゃあ、あれがいいな。この前、実写ハリウッド化されたっていうやつ」

「名探偵ナントカというやつですね」

「お前、調べたとか言いながらタイトルうろ覚えかよ……」


 真波にツッコミを食らいつつも、映画に行くことは決まった。


「では、駅で待ち合わせということで」

「くそーっ! 来週はアタシとですからね、天センパイ!」


 勝ち誇る海智留みちると、先手を打たれて悔しがる真波。なんとなくこの二人を見て、天の顔もほころんだ。

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