第23話 さん、と、ちゃん

 昼食は、外で食べることになった。中庭にあるベンチに、三人横並びで座っている。

 真ん中に天、右手側には真波がおり、反対側には海智留みちるがいる。

 今日は、真波も弁当を用意してきたらしい。ただ、中身はどれも冷凍食品であるようだが。


「浜田さん、おかずがかぶっているんですけど」

「お前が同じの用意したんだろうが!」

「近所のスーパーで安売りされていたのを選んだだけです」

「こっちもだよ!」

 

 まさか、同じスーパーに行ってはいないだろうか。

 天はまた自分の弁当を食べながら、二人の言い合いの間にいた。


「まあ、いいでしょう。さあ、天さん、お好きな物をどうぞ。もしご所望なら、食べさせてあげます」

「なに言ってんだお前は! ま、まあ、センパイがやって欲しいっていうなら、やってもいいけど?」

「素直になった方が楽ですよ、浜田さん」

「お前が素直すぎるんだよ!」


 まあまあ、と二人をなだめる。また昼休みが無くなってしまう。


「浜田さんも海智留みちるさんも落ち着いて……」

「天さんがそう言うなら落ち着きます。天さんが言うなら!」

「は? なに急に……。って、お前、センパイのこと名前で……!」

「えぇ。当然です。天さんも私のことを、海智留みちる、って呼んでくれるようになりましたから」

「じゃ、じゃあ、センパイ、アタシのことも真波って呼んでくださいよ!」

「え、でも……」

「ま、な、み、です!」

「はい、わかりました、真波ちゃん……」


 呼ぶと、真波は満足そうにうなずき、その反面で海智留みちるの眉が少しだけ動いた。


「……まあ、いいでしょう。ちゃん、と、さん、の違いに深い意味はなさそうですし」

「へへっ、これからよろしくっす、天センパイ」


 話がまとまったような、さらにややこしくなったような。どう判断したらいいのだろうか。


「二人共、とりあえずお昼を食べよう? 二人が作ってくれたものも、ちゃんともらうから」

「えぇ、お好きなだけどうぞ」

「なんでも好きなの取ってください!」


 周囲の好奇の目にさらされながら、天は二人と弁当のおかずを交換するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る