第22話 海智留さん

「おはようございます、天さん」

「お、おはよう」


 校門前、海智留みちるは、なんとなく気合を感じさせる顔で天を待っていた。


「今日もお弁当を用意しました。一緒に食べましょうね、天さん」

「あ、うん。ありがとう、陸野さん」


 どうしたのだろうと疑問に思っていると、今度は海智留みちるの顔が暗くなった。


海智留みちるです」

「え?」

「私のことは、海智留みちると呼んでくださいと何度も申し上げているはずですが」

「あ、えっと」

「昨日送ってくださった文面、覚えてらっしゃいますか?」

「あー……」


 そういえば、昨日最後に、海智留みちるさん、と送った。先ほどの表情は、もしかしなくても、それが原因なのだろう。


「もう一度やりなおしてください」

「いや、でも急がないと……」

「やり直してください。ありがとう、のあたりから」


 ずずいっと詰め寄られたので、天は諦め半分で、


「……ありがとう、海智留みちるさん」

「はい、今はそれで許してあげます」


 赤くなっているであろう顔を考えながら、天は頬をかいた。

 海智留みちるの顔に元気が戻った気がする。


「行きましょうか」

「う、うん。そういえば、浜田さんは?」

「今日は朝練だそうです」

「そっか」


 今日は、昨日より目立たなくて済むようだ。

 昇降口で別れて、教室へ。扉に手をかける。中からは楽しそうな話声。それも天が入れば静まるのだろうが。

 そっと引き戸を開けると、やはり教室は一気に熱を失ったように静かになった。

 だが、昨日とは違い、天を見て笑ったり、陰口を言っている様子がない。


 空気の変化をなんとなくだが感じつつ、天は自席に着いた。不気味な静けさだ。

 空気が張り詰めているような気がする。やがて授業が始まると、それも解消されたが天には理由が分からなかった。

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