脱出
「るー?」
反射的にりーなは言う。宗一はそれを聞き、驚愕の声を上げる。
「マジか、なんであいつが? ……ん?」
宗一の動きが止まる。空に突如黒い影が舞ったのだ。そして現れたのは――。
「キュォオオオオオオオオオォォォォン!」
「ジゾログ!」
りーなは叫ぶ。
湖で見た怪獣だ。いつのまに知り合ったのだろう、昨日助けたモンスター達が頭の上に乗っている。
「攻撃! 攻撃!」
モンスター達が叫ぶとジゾログの背面から光の球が発射され、迷路や広場に次々と命中する。迷路の壁は砕け、広場に大きな穴が空く。
「ウワーッ! ジゾログ!」
ジゾログを見るとそのようにプログラムされているのだろう、腕が銃口の機械達も人馬一体の機械達も慌てふためき逃げ出していく。
「ちょっと、あの怪獣は何なの?」
逃げてなかった科学者が操る機械にりーなは聞いてみた。
「あれは夢世界を大きくする過程で偶然発掘した怪獣です。いままでたくさんの機械を派遣してきましたが倒せなかった。なので捨て置くことにしたのです。向こうも我々のことは眼中に無いようでしたし」
「でも、今攻撃してるよ?」
「そうですね、今は明らかに意図を持ってこちらを攻撃している。もしやモンスター達が目の代わりになったのか!」
科学者が操っている人馬一体の騎士は言う。そしてジゾログが頭上で影を作り――。
「キュォオオオオオオオオオォォォォン!」
そうだと言うように科学者達の頭上で怪獣は鳴いた。辺りが激しく振動する。
「あなたも、逃げなよ」
「そ、そうだな、失礼する!」
りーなが言うと科学者が操っている騎士も逃げていった。
そして怪獣――ジゾログは守るようにりーなと宗一の前に降り立った。
「乗って、急いで、乗って!」
モンスター達がりーなと宗一のことをせかす。
「宗一君、肩」
「すまない」
りーなは宗一に肩を貸す。足を引きずりながら宗一は怪獣ジゾログの背に乗った。りーなも続けて乗る。そして声をかけた。
「ありがとう、モンスターさん達!」
「いいって、いいって。この間のお礼」
「柱の根元につけてあげて!」
「了解、了解!」
また天から、るー? の声。それに従ってモンスター達の助けを借りた怪獣ジゾログは飛び上がった。
「キュォオオオオオオオオオォォォォン!」
ジゾログは一声鳴くとあっという間に岩を飛び越え、柱が岩に刺さっているところまで上昇する。柱の一番下には中に入る入り口があった。
「あそこにつけて、お願い!」
りーなは頭の方のモンスター達に言う。
「お願い! お願い!」
モンスター達はジゾログにお願いをする。それを聞き入れたジゾログはゆっくり下降し、塔の根元に背を近づけた。
「飛び移るよ」
そういった瞬間だった。ジゾログの体が大いに揺れ、くねった。
「何があったの!」
落ちないように必死にジゾログにしがみつくりーな。下を見る。硝煙が晴れて見えてきた。ネスが指揮する、機械達の攻撃だった。乱れた隊列を立て直し、方陣を作って一斉射撃をジゾログに浴びせたのだ。ネスは人馬一体型機械のうち一騎の頭の上に乗っかり、こちらを睨んでいる。
「突貫でプログラムを書き換えさせたんだ、な! 逃がさないんだ、な!」
「キュォオオオオオオオオオォォォォン!」
悲鳴のような声をジゾログは上げ、体を激しくくねらせる。さらに第二射。密集した射撃にかなわずジゾログは地面にゆっくりと軟着陸する。
「そんな!」
りーなが叫ぶ。そしてジゾログの体は水に変わっていく。広場に落ちたジゾログを中心に水がたまりはじめ、深い湖になる。
溶けるように感覚を無くしていくジゾログから離れ、宗一とりーなは水に飛び込んだ。
「泳げる?」
水面から顔を出してりーな。
「なんとか、手と片足だけで」
激しい波の中、応じる宗一。
「あの柱まで泳ごう!」
「わかった」
二人は力強く泳ぎ出す。反対にひどい目に遭ったのは機械達だった。
「しまった、はやく広場を開けろ! うわー」
ジゾログが変化した水は容赦なく逃げ場の無い機械達に襲いかかり、その全てを水底へと沈めたのだ。
それが、機械兵団達の終わりだった。
「ハァ……ハァ……」
りーなと宗一は塩水を泳ぎ切り、岩の中腹辺りにたどり着く。
「のぼって! のぼって!」
三度、天からの声。
「これを登るのか、しんどいぜ」
天を見上げて宗一がうなるように言う。柱が岩に刺さっている場所まではかなり遠い。
「宗一君、頑張ろう」
りーなが励ました。
「そうだな、運のいいことに異星人達が頂上までの道を作ってくれたしな」
そう言って宗一はふらつきながら立ち上がる。そう、岩にはまとわりつくように柱に続く道ができていた。そこを登る。宗一は足を引きずりながら、りーなは宗一の肩を支えながら。ゆっくりと、ゆっくりと。と二人に影が差した。
「……」
一体の工作機械が二人のことを見下ろしていた。機械は二人を確認すると声を出した。
「ここは通さないんだ、な!」
それで誰が操っているのか理解した宗一が叫ぶ。
「そのしゃべり方、ネス! クマ野郎か、どうしてここに!」
「ここにいた機械を乗っ取っているんだわ!」
「正解です、な!」
大きな機械、いやネスは二人の前に立ちはだかる。そして右腕を大きく振るった。右腕の先は削岩機になっていて、触れただけで体がバラバラになってしまうだろう。
「削岩マシンなんです、な! パワーは十分なんです、な!」
「なんでそんなものがここに!」
「もちろん、あのいまいましい柱を倒すためなんです、な!」
さらに大きく右腕を振るう。宗一は間一髪で機械の腕をよけた。
「宗一君!」
「りーな、あいつはおおざっぱな動きしかできないようだ」
「この機械を操るのは、なれてないですから、な! でもお前らを倒すには十分なんです、な!」
道は狭く、前後に移動するスペースしか無い。そんな中、ネスは腕をぶんぶん振ってこっちへ迫ってくる。宗一は塩水に濡れたTシャツを脱いだ。
「何してるの、こんな時に!」
「俺のことはいい、一瞬でもアイツの右腕の動きを止められれば!」
道を下がりながら宗一が言う。
「止められれば?」
りーなが下がりながら聞く。
「こいつを削岩機の中心に突っ込んで止めさせる」
「バラバラになるんじゃ無い?」
「なるさ、でも岩を砕くのと、布を裂くのでは勝手が違う。見てろよ」
「……それなら、私、足止め、やってみる」
「おい」
宗一をおいてネスに向かって駆け出すりーな。ネスは容赦なく、削岩機の右腕をりーなにぶつけようとし――。
「およ?」
その姿を見失いバランスを崩す。
「りーな!」
宗一が叫ぶ。りーなは道の下に飛び降りてそのへりにつかまったのだ。
「宗一君! 今!」
「わかった!」
宗一は壁を手で蹴って削岩機の中心に濡れたTシャツを突っ込ませた。ギャルギャルと不快な音がして削岩機が止まる。そしてそのまま宗一は止まった右腕を掴んで湖に向けてジャンプした。
「うぁ、わわわ、です、な!」
バランスを崩していた削岩マシンはひとたまりも無い。宗一と一緒にそのまま湖に落ちていった。
「宗一君? 宗一君!」
崖につかまったままのりーなは叫ぶ。叫ぶことしかできない。大きな水音が立ち、ネスの操る機械は沈んでいく。と、すぐ横で宗一の声がした。
「慌てるなよ。ここだよ」
「宗一君!」
りーなは振り向く。りーなと同じように崖につかまった宗一が照れたように笑っていた。
「落ちる瞬間、ここに飛び移ってつかまったんだよ。まあ、お前のぱくりだな」
宗一の言葉に安堵するりーな。
「もー、心配したんだからね」
「ごめんごめん。さあ、登ろう」
宗一は促し、二人は仲良く崖を這い上がり道へと戻る。りーなは再び宗一に肩を貸し、もう阻む者のいない道を時間をかけて登った。
▽▽▽
そして二人はとうとう柱の一番下にたどり着く。
「これから先も登るのは、しんどいなぁ」
宗一が弱音を吐く。けれどもりーなは柱の中央部に、ある物を発見した。
「見て! 宗一君! これエレベーターがある!」
「マジか。至れり尽くせりだな」
二人はエレベーターのボタンを押す。スルスルとエレベータの表示が下に向かっていくのがわかった。こちらに近づいてくる。する突然向こうから歓声が聞こえてきた。りーな達は振り返る。
モンスター達だ。砲撃や落下にも耐え、無事だったようだ。水に沈む迷路の壁の上に立ちこちらを見送っている。
「ばいばい、元気で!」
「そっちこそ、元気で」
りーなは手を振った。
「また夢で会いましょ!」
「うーん、それはどうだろ、また敵味方になっちゃうし!」
「ははは!」
「あはは!」
そんなやりとりをする。しかし名残を惜しんでいられない、チンと軽やかな音を立て、エレベーターがやって来たのだ。二人はそれに乗る。エレベーターのドアが閉まる。
そしてエレベーターは二人を乗せると、ものすごい勢いで上昇していった。
そして聞こえる。なつかしい声。
「おかえりなさい」
光があふれる。夢の世界を抜ける。
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