捕虜
「手間を取らせてくれました、な。あなたがた」
ネスが言った。二人は岩のある広場の一角でネスを前に座り込まされている。周りには囲むようにたくさんの人馬一体型の騎士たち。
「こっちにミスがあったせいで甘く見てたのが間違いでしたな、な!」
誰とも無く怒るネス。
「お前は何者だ?」
宗一の質問にネスは表情を変えずに言った。
「なに、しがない異星人です、な」
「異星人……どこから来た!」
「遙か遠い遠い星からです、な」
ネスは答える。
「遠い遠い星……そこから、どうやって来たの」
「それは、この岩が実は宇宙船なんだ、な! 驚いたか、な!」
「それでどうして俺たちに同じ夢を見せる!」
「……ここから先は私が説明しましょう」
人馬一体の騎士のうち一体が急にしゃべり出す。目の色も赤から青に変わった。
「誰?」
「誰ってネス所長と同じ異星人の科学者ですよ。一度お会いしましたよね。いまはこの機械のコントロールを奪っています、説明、よろしいですよね」
武器を持ったまま、両手を挙げる人馬一体の騎士。
「科学者さん!」
道中であった印象の薄い科学者のことを思い出してりーなは言った。
「はい、覚えていてくれていたんですね。そう、ミスの話でした。こっちのミスが無ければ我々は決して出会わなかったのですが、こうして出会ってしまいました。改めて、どうぞ、よろしく……」
「ねえ、さっきから、聞いていると、そっちのミスってなあに?」
「あなたがたは夢を見ているでしょう。二人で同じ夢を。あれは我々が人類の研究のためにサンプルを選んで行っていたのですが、こっちの『地球の夢』計画がふくれあがったせいであなた方が見ている夢にぶつかって壊してしまったんですよ。申し訳ありません」
へこへこと頭を下げる人馬一体の騎士。
「じゃあ、私たちは同じ夢を見るのはあなたたちのせいなのね」
「はい、その通りです。あなたがたが岩に触れた時、それぞれ生体情報――汗とか指紋とかを残してくれました。それを元に一緒の夢を見るように仕向けたのが我々『地球の夢』計画の第一歩なのでした」
「地球の夢?」
「はい。われわれはそう呼んでおります。簡単に言えば我々がいまいるこの夢がそうです。地球上おおよそ全ての生物を格納する巨大な夢世界です。あなたがた、お二人が日々見る夢のデータを元に我々が作ったんです、すごいでしょう?」
「なんのためにそんなものを?」
りーなは首をかしげる。
「それはみなさん人間に夢を見て貰うためです。永遠に、この夢世界で楽しく暮らして貰うためです」
「なんで人間を夢世界に押し込めなければならない?」
「それは……」
宗一の言葉に言いよどむ人馬一体の騎士。するとネスがまた再びしゃべりはじめた。
「あなたがた人間は環境を荒しすぎました、な」
「え?」
「このままでは地球が持たないので、私たちが夢世界を作って、人類達はそこで地球にやさしい暮らしをして貰うのです、な」
「えーっ!」
「これであなた方もハッピー、地球もハッピー、私たちもハッピーなのです、な!」
ネスは手を叩く。そかし宗一はだまされなかった。
「何がハッピーだ。それってお前らが俺たち地球人の代わりにこの星を乗っ取ろうって言うことじゃないか!」
鋭く宗一が言う。しかし、ネスに効いた様子も無い。それどころかこんなことを言って返してきた。
「それがどうかしましたかな。我々は地球人よりもっと上手にこの星を運営できます、な。実績もあります、な」
「それは……」
りーなが言葉に詰まると宗一が食ってかかる。
「俺たちだって種としての地球の一員なんだ! 俺たち抜きで地球の環境をなんとかしようなんて筋が通らない!」
けれどもネスは冷静だった。
「あなたがた人類も地球の一員、確かにそうです、な。ですが、それを地球人のほとんどは忘れています、な」
「くっ……」
やりこめられる宗一。りーなは励ましの声を出す。
「宗一君、負けないで!」
「そうだ、それでもいつかは、気づく!」
そう言うがネスは鼻で笑う。
「ふはは、楽観論です、な」
「……」
宗一は押し黙ってしまった。代わりにりーなが聞く。
「ねえ、人間は夢を見せるのはわかったけど、動物たちはどうするの?」
「もちろん、一緒に夢を見て貰います、な。仲良くが一番です、な」
「植物は?」
「……」
なぜかネスは答えなかった。りーなはさらに追求する。
「ねえ、植物はどうなるの?」
「おい、植物が夢見るかよ」
宗一が言うがりーなは引かなかった。
「ううん地球が夢見るなら、植物だって夢を見るはずだよ、どうなの、ネスさん! 答えて!」
「ははは、何を言っているんですか、な! 質問は終わりですか、な?」
「ちゃんと答えてない! はぐらかしてる! ねえ、答えて!」
「では私が代わりにお答えしましょう」
ネスの代わりに、人馬一体の騎士、いやそれを操っている科学者が名乗りを上げる。
「お願い!」
「おや、勝手にしゃべるとは、困りました、な」
ネスが口を挟む。
「申し訳ありません。けれど、私たち科学者は嘘はつけないたちなのですよ」
「ねえ、おねがい、教えて、植物はどうなるの」
「枯れます」
りーなの問いに人馬一体の騎士を操っている科学者は言った。
「なんで?」
「この惑星は植物の作った毒に汚染されていますから、な」
操られた人馬一体の騎士の代わりにネスが答えた。
「ネス! あなたには聞いてない!」
「酸素だ。酸素は猛毒なんだ。たしか本来は」
横から宗一が口を挟む。そう、元来酸素は反応が高すぎる、生物にとっての猛毒である。それは嫌気性の――酸素を嫌う――生物だけでは無く、濃度が高すぎれば人間や動植物たちに対しても毒となるのである。けれども、りーなは疑問を投げかけた。
「でも私たちは普通に呼吸してるよ?」
「それが普通じゃ無い異星人もいるってことだ、コイツラみたいにな!」
宗一は言った。
「ご理解、面倒が無くて助かります」
人馬一体の騎士はどこかすまなそうに言う。
「植物は安全な二酸化炭素を吸って酸素原子を吐き出す我らの敵なのです、な」
そう言ったネスに宗一は言葉を叩きつける。
「やっぱり、お前らは地球を乗っ取ろうとしているじゃ無いか! なにが地球環境を上手く運営だ! 植物を枯らしたら今の環境も元も子もない! お前の言っていることはめちゃくちゃだ!」
「はっ!」
ネスが笑った。いやマイクの奥のネスを演じている異星人が笑ったのだ。
「こっちは元々の地球全体の環境を言ったまでのことです、な。あなた方が勝手に自分たちの環境問題と取り違えただけです、な。そのまま引っかかっていれば、幸せだったのにです、な!」
「馬鹿にしやがって!」
宗一が叫ぶ。ネスは表情は変えなかったが、それを見てまた笑ったようだった。
「それに、もう、お前らにどうすることもできません、な!」
「俺たちをどうするつもりだ?」
宗一が聞く。
「消えて貰います、な。夢のように、はかなく消えて貰います、な」
そういって現れたのは以前夢のモンスター達を追っていた、肩ぐらいしか無い手が銃口の機械達。宗一とりーなの周りを囲む。
ネスが言った。
「この機械は知っております、な? 腕から出す液で夢を消去することができるのです、な! これで消されたら二度と、お前達が目覚めることは無いです、な!」
「現実世界に戻れなくなっちゃうと言うこと?」
「ははは、地球人は、理解が早いです、な! さあ、やれ!」
その言葉と共に機械達は銃口を宗一とりーなに向けた。
「くっ」
「……」
「そんなことは、させないわ」
りーなと宗一、二人がうなだれていると、突然天上からやさしい声がした。
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