番人

「なんだよ。あれ」


「なんなんだろうね」


 二人して言い合う。場所は迷路の一番奥。壁の向こうにあの騎士がいる。


「くそっ! ここまで来て!」


 壁を恨めしそうに見つめる宗一。りーなも同じ気持ちだった。


「壁を越えれば、出口なのに……」


「壁なんて登っていたらあの変なのたちに狙い撃ちにされるぞ」


「うん……」


「まっとうな出口を探さないとな。ここまできたらこの壁伝いに歩いて行けば、どこかの出口にたどり着くけど」


「じゃあ、まず、そうしてみようか」


 宗一の言葉に、りーなが提案する。


「でもアイツらがいるんじゃ意味ないぜ」


「それは考えても仕方ないじゃ無い、とにかく進めるところまで進みましょ」


「そうだな……。とりあえず出口まで行くか」


 宗一も同意し、二人は壁伝いに歩き出す。ゆっくりとした歩みだったけれど出口まではすぐだった。出口に続く道の手前で二人は止まり、その先をうかがう。


「見える?」


「ああ、ここから見えるのは一体だな。後ろ向いてる。やば、こっち向きそう」


 宗一の言葉で二人は迷路の奥に隠れる。


 しばらくしてひょっこり顔を出す二人、人馬一体の騎士はまた二人に背を向けている。


「どうする、こっそり、通る?」


「うーん。別の出口は無いかな」


「探してみようか」


 二人は一度今来た道を後戻りして別の入り口を探す。新しい出口もあっけなく見つかった。そこからまた出口の先を眺める。人馬一体の騎士も見えるがさっき見たものと同じ個体かはわからない。


「この迷路、どうやら、円状に出口がたくさんあるね」


 りーなが言った。


「そうだな」


「へんなの」


「まあ迷路と言うよりまだ出来てない街みたいだなとは思った。中央の広場へ続く道みたいで」


「じゃあネスの言うとおりこの辺りも出来てくれば、人が住むようになるのかな」


「それはわかんない」


「そうだよね……円状に出口がおかれてるなら、岩の後ろにも出口あるかな」


 りーなの提案に宗一はうなずいてみせる。


「行ってみるか」


「うん」


 宗一とりーなは岩の裏にある出口を探し移動を開始する。今ある出口を風のように横切り、奥の方へ奥の方へと進んでいく。騎士たちに気づかれない様に出口を渡って、さらに奥へ。

 そして二人は迷路を丸々半周移動して岩の裏手にたどり着いた。騎士の姿はこの出口の先からだと見えない。


「いけそう?」


「ああ」


そろそろと二人は迷路の出口まで歩いていく。出口からまた周囲をうかがう。そこは広場になっていて、人馬一体の騎士達がたくさん警護するように周りを歩いている。


「岩、やっぱり、触れた奴だ。現実世界の奴よりずいぶん大きいけど」


「夢世界だからかな」


「うーんそうかも、よくわからない。ん……? あれは入り口か?」


 宗一が言う。指さす先、岩に人が一人、入れるぐらいの隙間がある。


「入り口ってどれ?」


 りーなものぞき込む。そして入り口を確認した後、視線を上に向けると言った。


「見て、上の方も機械がいる!」


「あれは道を作っているのか?」


「うん、岩を削って柱が刺さったところまで続く道を作っているみたい」


「うーん、なんだろあれ」


 宗一は入り口らしき物を見てしばらく考えていたが、やがてりーなの方を向いて言った。


「しかし、ここ、どうやら敵の本拠らしいな」


 宗一が言った、そのときだった。


「ピー! ピー! ピー!」


「?」

「!」


 突然警報のような音が自分のそばで鳴り響いて二人はびっくりする。音の元はりーなが抱えていたネスだった。その音を聞いて人馬一体の騎士たちが一斉に二人を見る。黄色だった目が赤に変わった。


「ネス! こんなときに!」

「くそ!」


 宗一は飛び出すと騎士の前を挑発するように走り抜けていく。陽動に引っかかった騎士たちが宗一の方を向き、前足を上げ、光が槍の先に集まった。


「宗一君!」

「お前はひとまずそいつを捨てて逃げろ!」


 光線が走る。ジグザグに走る宗一は光線を体を回転させてよけたが、ここは障害物の無いだだっ広い広場だった。騎士が操る光線は簡単に向きを変えて宗一の右足をなぎ払う。


「熱ちちちちちちい!」


 宗一は悲鳴を上げて倒れた。けれど立ち上がり、足を踏み出そうとしたけれど、熱線を浴びたせいで、そのまま力なく倒れてしまう。


「くそーっ!」


 そしてそのまま光線が灼いた足をがくがく振るわせながら、人馬一体の騎士たちをにらみつけることしかできない。

 りーなは逃げようと後ろを向く。しかしいつの間にか迷路の出口は皆閉ざされていた。りーなは唖然として声を出した。


「そんな……」


 そして固まったまま動けないでいたりーなの首元に騎士の槍がそっと当てられる。


「二人とも降参、するのですな」


 そしてりーなが抱いていたネスから、絶望的な言葉が二人に発せられた。

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