夢の残骸
何もない黄土色の大地と青い空。来ているのはいつものパジャマ。そして隣で眠る宗一。
(戻ってきたんだ……)
りーなは思い、そして自分が涙を流していることに気がつく。これはきっと夢のせい。悲しい夢のせいでりーなは泣いていた。夢のことを思い出すとりーなは心が悲しい気持ちで充たされた。
「……」
しばらく夢の気持ちをとどめるかのように、りーなは胸の前でぎゅっと手を握る。と隣の宗一が身じろぎする。夢から覚めたようだ。体を起こし、残念そうに呟く。
「ちぇ、この夢は覚めないか」
「……」
そんな宗一を黙って見つめるりーな。りーなの異変に気づいたのだろう、宗一が心配そうに聞いてくる。
「どうした? お前、泣いてんのか」
「べ、別に。何でもいいでしょ」
りーなはあさっての方向を見る。
するとりーなは気づく。夢世界の一部の空間がぐにゃぐにゃとなっていて、りーなのそばで浮かんでいることを。
「何、これ?」
りーなは目尻をぬぐうと、立ち上がりそれに近づく。軽く、吸い込まれるような感覚がりーなを包み込む。
気がつくと、夕暮れ時だった。
人のいない生徒会室。そこに制服姿のりーな――私は一人いた。
「さっきの夢の世界?」
「きっとな」
後ろを振り返る、宗一――宗一君が制服を着てすぐ後ろに立っていた。
「宗一君!」
私は思わず叫ぶ。びっくりした。なんか胸がどきどきする。
「お前がなんか亀裂に引き込まれて見えなくなった慌てて後を追ったんだ。大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
私が答えると宗一君は周りを見回して言った。
「夢が覚めてもこうして残っている物なんだな。普通じゃあり得ないけど、夢世界なら、そういうこともあるのかな」
「そうだね」
「で、いまさらこの夢に何か用事でもあるのか? 忘れ物でもしたか? ほら出口に行くぞ」
宗一君は出口を指さす。その先に裂けたような夢の世界の出口が小さく見える。
「……」
「どうかしたか?」
宗一君が聞く。そうだ私は聞きたいことがあったのだ。夢で聞けなかったこと。どうしても聞きたかったこと。
「ねえ、宗一君……の好きな人って誰、なの……?」
「何だ、唐突に?」
「ねえ、教えて」
夢の名残か、私は執着してしまったようにそれしか考えられなくなってしまった。
「はぁ? あっきの夢の続きをしようって言うのか? 夢の世界だぞ、言ったことに脈絡や意味なんてあるわけ無いだろ!」
宗一君は激しい口調で言うが私はどうしても、どうしても知りたくなってしまう。
「ねえ、答えてよ」
「……」
宗一君は押し黙る。
「答えて」
だから、さらに私は強く言う。
「俺は……、お前のことが……」
「うん……」
期待に胸を膨らませる私。
「駄目だ、やっぱり言えない」
けれど、宗一君は後ろを向いてしまう。
「そう……」
そうしてしばらく私たちは黙っていた。とろけるような夕日が私たちを照らす。やがて、宗一君はぽつりと言った。
「なぁ、もう、帰ろうぜ」
「……そうだね、戻ろうか」
私と宗一君は連れだって生徒会室の夢世界から出て、変な夢へと戻る。生徒会室の夢世界はしばらくふわふわとそのあたりを漂っていたがやがて周囲に溶けるように、見えなくなってしまった。
「……消えちゃった」
「……ああ」
二人はそれをどこか名残惜しそうに見つめた、その後は二人とも言葉少なに、しばらくそれぞれ別々にストレッチをしたり、伸びをしたりして時を過ごす。あの生徒会室で起こったことが後を引いていることは疑いようが無かった。
「あのさ」
「ん」
宗一に言われてりーなは軽く顔を上げる。
「さっきの夢でのことだけど」
「ごめん、そのことは、忘れてくれると助かる」
りーなはすまなそうに言った。
「まあ、お前が言うなら忘れてもいいけど。あと、俺はお前のこと……別に嫌いじゃ無いぜ」
その言葉にりーなは首を横に振って返す。
「ありがと。気休めはいいよ」
「気休めじゃ無いって!」
身を乗り出す宗一に対してもりーなは冷静だった。
「はいはい、そろそろ出発しよ」
「……ああ」
どこか不満げな宗一を置いていくようにりーなは立ち上がった。
「……」
「……」
言葉少なに歩く。砂地を抜け、何もない大地を歩いて行く。どちらも相手になんて言葉をかければいいのか困っている、そんな状況。
「あの」
「あのさ」
たまに話そうとするとこうしてタイミングが被ってしまう。
「どうぞ」
「宗一君が先でいいよ」
「……」
しかしりーなが譲ったのに宗一はしゃべろうとしなかった。
「しゃべらないの?」
「お前こそ」
「私は、いいよ」
「そうか、じゃ、俺も」
会話は途切れ途切れになりながら、二人は歩いて行く。
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