砂地

 夢の穴に向かって二人が歩いていると、急に足が深く沈んで宗一が驚く。


「なんだ、ここ?」


 りーなも足を膝まで踏み込んでしまい、言った。


「砂だ! ここの地面、砂だよ!」


 そのとおりだった。黄土色の地面に流れるような細かい砂が満ちている。砂の地帯は普通の地面と見分けがつきにくく、宗一もりーなも填まってしまったのだ。宗一は足を引き抜きながら言う。


「どうやらそうみたいだな」


「どうする?」


「迂回しよう」


 りーなの問いに宗一は即断した。


「えー」


「? どうしたんだ、不服そうに」


 りーなの不服そうな反応に首をかしげる宗一。


「いままではさんざん回り道をしなかったくせに」


「そうかもな。でも急に深くなって首まで砂に埋まってもそのときは遅いんだぞ」


「……はぁい」


 そう言われてしまうと、りーなは黙るほかなかった。砂地から足を引き抜き宗一の後をついて行く。


 二人は砂地の外周部を歩く。幸い砂地は大きくないようだった。あまり迂回せず二人は先に進むことができた。が……。


「ここも砂地だ!」


 宗一がいまいましそうに言う。砂地は点々と存在し、宗一達の進みを遅くする。


「裸足で良かったね」


 今回は砂に足を取られる難を逃れたりーなが言う。


「確かに、なまじ運動靴なんて履いてたら、砂に足を踏み込むたびにひっくり返さなきゃな」


 宗一も応じながら足を砂から抜いた。そんなことを繰り返して。


「……ちょっと、疲れたな」


「もー、歩けない、かも」


 いつの間にか二人は砂地の中で疲れ果ててしまった。


「もとより一日で行こうというのが間違いだったんだ。そろそろ休もう」


 宗一の提案で平らなところを探し本格的に休むことにする。とはいっても横になるだけだ。幸い寒さとかは感じず眠るのには困らない。


「夢の中で眠るって、なんか変な気持ち」


 りーなは横になって宗一に言う。宗一は足の辺りを丹念にマッサージしている。


「ねえ、私、眠れるかなぁ」


「眠れなくてもいい。とりあえず体力を回復させよう」


 マッサージをする宗一はそっけなさを演じているかのようにそっけない。反対にりーなはどきどきしていた。男の人と、一緒に眠るなんてしたこと無い。キャンプでも、修学旅行でも、いつも男女は別。こうして枕こそないが枕を並べて寝るなんて初めてのことだった。


「お前枕が無いと眠れないとかないか?」


「たぶん大丈夫」


「北枕とか気にする方か?」


「方角わかるの?」


「いや、わかんない、けど」


 宗一が色々と話しかけてくる。もしかしたら宗一も宗一なりに緊張しているのかも知れないとりーなは推測した。ようやく横になって背中を向ける宗一にりーなは聞いた。


「もし、眠れたら、一緒の夢見てくれる?」


「断る。夢の中ぐらい自由でいたい」


「えーっ」


 即答に不満そうに声を上げるりーな。そんなりーなに向かって宗一はぽつりと付け加えた。


「まあ、こんな夢じゃなく楽しい夢ならいいかもな」


「そうだね……」


 そう言ってりーなは目を閉じる。本当に疲れていたのだろう、りーなも宗一も眠りにスッと入ることができた。

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