残された夢

「夢の穴だけど、だいぶ、大きくなってきたんじゃ無いか?」


 宗一が前を見て言う。墓標のような地帯を抜けてしばらくしてのことである。


「うん、けっこう歩いたし」


 りーなも応じる。確かに夢の穴は大きく、そして高くなっていた。そしてそれに向かって伸びる柱もはっきり見えるようになってきた。

 確実に、進んでいる。それがわかり、二人は安堵する。そんな時だった。


「ねえ、何か追われてる!」


 りーなが前方右側を指して言う。宗一もそっちの方に視線を向ける。何もない地帯に土煙が上がっていた。


 二人はよく見てみる。モンスター達だ。ここに来る前の夢に出てきてたのとたぶん同じ固体だとりーなは直感した。なにかちびっこい機械に追われている。モンスター達はあちこちふらふらと逃げ回っていたが、りーなと宗一を見つけると、一直線にこちらに向かってくる。


「何だ、こっちに来るぞ」


「来たとしてもあの夢の世界じゃないし戦えないよ」


 モンスター達はりーな達に襲いかかる――様なことはせず、一目散にりーなと宗一の後ろに隠れた。


「助けて! 助けて!」


 そうしてそう言いながらかたかた震えだした。そして迫るのは肩ぐらいまでしか無い、腕が銃口になった小柄な機械達。りーな達を見ると足を止め、警告を発してくる。


「ドキナサイ!」


「なんだ、このちびっこいのは?」


 宗一が怪訝そうに言う。


「ウシロノモノをワタシナサイ!」


「渡したらこのモンスター達をどうするの?」


 りーなが警戒しながら聞く。


「デリートする。コノユメセカイに、コンナモノは、イラナイ!」


「ひどい……」


「モンスターとはいえ物扱いかよ。なんか腹立ってきた」


「トニカク、ドキナサイ!」


「嫌だね」

「嫌だ!」


 りーなと宗一、横目でチラリと視線を合わせ、二人ともモンスターをかばうように両手を広げた。すると小柄な機械達の肩ががちかちかと光った。


「アラタなテイコウシャをハッケン……。ホンブにツウシンチュウ……」


「何かしら」


「嫌な予感がする」


「助けて、助けて!」


 三者三様に物を言っているうちに通信は終わったようだ。小柄な機械達は一斉に銃口をこちらを向ける。


「……リョウカイ。オマエラも、ケシテヤル!」


「宗一君、気をつけて!」


「お前もな!」


 小柄な機械は腕の銃口から、一斉に透明な液体を宗一とりーなに向けて吐いた。それは放物線を描き、二人の足の前に落ちる。ジュウジュウと音がして大地が溶けるように無くなっていく。


「まずい、なんかまずいぞ!」


 慌てたように宗一が言うと、機械達は小刻みに体を動かしまるでせせら笑うように動いた。


「コレはケイコクダゾ!」


「サア、ウシロのモノをワタシナサイ!」


「どうしよう?」


 困った顔でりーなが宗一に聞く。進退窮まった、そのときだった!


「キュォオオオオオオオオオォォォォン!」


 辺りを振動させて大きな鳴き声が轟いた。さっき湖で――いや、湖そのものの怪獣だ。怪獣はうねるように蛇行しながらりーな達の方へ近づいてくる。


「ウワーッ! ジゾログ!」


 そして、あからさまに態度を変えたのが、小柄な機械達だった。混乱したように右往左往し、互いにぶつかったり転んだりする。


「機械達、あの怪獣が怖いのかしら?」


「そうかも知れないな。おいお前たち、あの怪獣は消さないのか?」


「ジゾログを? ソンナコト、デキルカ!」


「ニゲロヤ、ニゲロ!」


 機械達は口々にそう言い、算を乱して逃げていく。怪獣、いや、ジゾログは、しばらく何かを探すように上空を旋回していたが、やがてあさっての方角へ飛び去ってしまった。


「あなたがたは、わたしたちを倒さないのですか?」


 脅威が去って、モンスター達がりーな達に聞く。りーなは慌てて答えた。


「倒さないよ! あと、さっきの夢の中ではごめんね」


「いいんです。あれはそういう夢、だった、から! では。ありがとう、ありがとう!」


 そう言ってモンスター達も感謝の言葉を言うと、怪獣ジゾログの後を追って走り出していってしまった。そんなモンスター達の後ろ姿を見てりーなが言う。


「私たち何にもしてないのにね」


「まあな」


「あのモンスターたち、この夢世界で生きていけるかなぁ」


「それはわかんない」


 小さくなっていく怪獣ジゾログとそれを追うモンスターたちを見ながら宗一が言う。


「私たち、いいこと、したんだよね?」


 りーなが振り返り宗一に問いかける。


「ああ、もちろんさ」


 宗一は答えた。


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