ふたたび 夢の話
「早く早くー!」
パーカーに短パン姿の私が恋人の宗一君に向かって叫ぶ。空からは真夏の日差し。じんわりと熱い。これからふたりでプールに行くのだ。追いついてきた宗一君に、私は耳元でささやく。
「下に水着着てきちゃった」
「用意がいいな」
「えー、それだけー?」
「ん、他になんかあるか?」
宗一が首をかしげるので、私は軽く腹を立てた。
「もー、鈍感!」
道すがら明るい会話を交わしていく。わくわくしてきた。恋人にこの水着姿を見せるのが。どんな反応するかな? 宗一君は。
それと、周囲はどんな反応するかな? またそれを感じて宗一君はどんな反応を見せるだろう? そんな感じ。ああ、はやくプールに行きたい。この水着を着た私を見せびらかしたい! そして私は一人、顔を上気させる。
「ま、下に水着って言うなら俺も同じだけど」
「だよねー、夏の常識だよねー」
私は笑って応じる。
「ああ、面倒が無くて、こっちの方がいい」
言って宗一は笑う。その笑顔が心地よい。早くこの人をもっと笑顔にさせたい。そのために水着、そのためのプールである。
プールへたどり着き、私たちはチケットを買う。更衣室は当然別だ。私は宗一君と別れロッカーで服を脱ぐ。そして私が下に身につけていた水着は。
「……よし!」
白を基調にしたビキニ。
ビキニと言うのも冒険だが、白というのもかなり冒険である。
良く冒険した偉い! と思うくらい冒険した。宗一君のために。そして私のために。
私は大きな鏡の前でポーズを作り、気合いを入れてから更衣室を出る。……ってちょっと待って!
これ見せるの? 宗一君に?
この姿――を?
コイビトでもない、宗一君に――?
好きでも無い、宗一君に――?
「……」
やばい。
やばいです。絶対。
「!」
早く早く目覚めなきゃ! 私は思うが固まったように反応しない! おまけに私の足は勝手に更衣室を出ようとしている! なんとしても止めなきゃ! なんとしても覚めなきゃ! 私は私に呼びかける。けれども私の体は宗一君が待つ光の中へ――。
「ええい!」
私は私を殴りつける。拳で強く殴りつける。浮かれ気分の私を殴りつける。何度も何度も。そして。そして。そして――。
「……」
そしてりーなはようやく目覚めた。
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