衝突

 そして午後の授業も終わり放課後。一緒に帰ろうと誘う女子生徒を上手くかわしながら宗一はりーなと二人きりになるのを待っていた。りーなはるーとなんてことは無い話をしながらみんなが帰るのを待つ。


 教室にるーと宗一、りーなの三人になってるーはりーなに言った。


「じゃあ、わたしも帰るね、あとで成果聞かせてね」


「うん」


 そういって、るーも教室を出て行った。あとは宗一と二人きり。胸がどきどきする。宗一が席を立ち、こっちに近づいてくる。りーなも席を立ち、宗一に向き合った。


「あのさ」


「うん」


「夢で出てくる、よな。お前。毎日」


 切り出したのは意外なことに宗一の方だった。りーなは恥ずかしくなって視線を外しながら宗一の問いに答える。


「うん、私も君の……宗一君のこと毎晩夢に見るよ」


「お前、名前は?」


 宗一が聞く。


「片倉、りーな」


「そう」


 りーなは答えたが、あまり興味なさそうに宗一は言った。少し沈黙が流れる。


「あの、」


 何か言わなければと思ったりーなに宗一は言った。いや言い捨てた。


「迷惑なんだけど」


「え?」


 りーなの動きが止まる。


「あのさ、俺の夢に勝手に出てくるなよ、お前」


 うなるように話す宗一。その口調には明らかに嫌悪感が含まれていた。


「そんなこと言われても……」


「とにかくもう、二度と出てくるなよお前」


「いや、あの……」


「用件はそれだけ、それじゃあな」


 宗一はくるりと背を向けて教室を出て行った。


 一人残されたりーなはただただ、呆然としていた。なんでそこまで嫌われなくてはいけないのか。りーなにはそれがわからなくて途方に暮れる。


 こっちは嫌悪感なんて抱いてなかったのに。むしろ……。そこまで思おうとしてりーなはハッとする。なんであんな奴に好意なんて持たなくちゃいけないのかと。


 会ってみてわかる。宗一は嫌な奴だ。


 嫌な奴。


『私の話なんて聞こうとせずに一方的になんだ!』りーなはそう思い腹を立てた。


 おまけに、


『俺の夢に勝手に出てくるな?』


 ですって? そっちが勝手に出てくるんじゃないの? りーなの憤怒は収まるところを知らない。りーなは怒りのままに学校を出て、そのままの気持ちで帰宅する。


 そして。


 ……怒り疲れた。りーなはぐったりとして家に帰り、そのままベッドに顔をうずめた。


 いろいろなことが頭を渦巻いて何もする気が起きない。このまま眠ってしまいたい気分。けど眠ったらまたあの嫌な宗一のことを夢を見そうで……。りーなはしばらく突っ伏していた。


 そしてハッと思い出す。そうだ、るーに返信しなくっちゃ。りーなはスマホを取り出しるーに連絡を取る。


『どうだった?』

るー


画面を見ると、すでにるーに返事を迫られてた。


「……」


りーなはスマホを操る。

『やな奴だった』


しばらくして返信。


『やな奴ってどんな感じの?』

るー


りーなはスマホで素早く入力する。


『なんか俺の夢に勝手に出てくるなって』


『じゃ向こうも同じ夢を見てたことは間違いないんだね』

るー


『それはそうだけど、出てくるなって。私どうすればいいかわかんないよ』


『うーん』

るー


『寝なければいいのかなぁ』


『夜は寝なきゃダメ!』

るー


『じゃあどうしたら……』


『結局夢の話じゃない? そのうち何かの拍子で出てこなくなるって』

るー


『そう、だといいけど』


『ごめんそろそろ塾の時間』

るー


『じゃ、また今度。聞いてくれてありがと』


『気にすんなよ』

るー


 そんなスタンプが貼られ、二人のスマホでの会話は終わった。

 

 りーなはスマホを充電すると机に向かって宿題をしようとする。けれどやっぱり気になるのは宗一のことで。りーなは宿題が手に付かない。

 

 なんで同じ夢を見るんだろう。

 

 なんでいつもあの宗一が出てくるんだろう。


「あー! もう!」


 りーなは叫ぶ。けれども今の自分は宿題を片付けるしかないとわかってもいるのだ。


「りーな、ご飯よ」


 階下から母の喚ぶ声がする。りーなは時計を見た。


「もうこんな時間!」


 そう、いつもなら宿題をやる時間はとうに過ぎ、夕ご飯の時間になっていた。りーなは階段を降りリビングへ向かう。そして。


「「「いただきます」」」


 りーな、母、祖母の三人で言って晩ご飯を食べる。今日のご飯は炊き込みご飯に、生姜焼き。あと味噌汁とレタスのサラダ。りーなの母親が腕を振るった料理だ。祖母もなんだかんだで和食は嬉しそうだった。りーなもよそわれた炊き込みご飯を食べる。味がしみて美味しい。


「お母さん美味しい!」


 思わず言ってしまう。母はそれを聞いて喜んだ。


「今日転校生が来たよ」


 美味しい食事が潤滑油になったのか、りーなは今日の出来事を話し始める。


「どんな子? 女の子?」


「男、やなやつだった」


「そう、あんまり関わっちゃ駄目よ」


 不良みたいなのを想像したのだろう。りーなの母はまじめそうな顔をしていった。


 結局いつもより長い時間をかけ食事を終え、りーなはリビングで食休みをするといつもより長くお風呂に入る。そしてパジャマ姿で部屋に戻っていった。


 その間りーながずっと考えていたことは自分が宗一の夢に出てこない方法だった。


 けれどそんなもの見つかるはずもなく。りーなはため息ばかりついている。


 部屋に戻り、そしてまた大きくため息をつく。



 結局リビングでもお風呂でも解決策は見つからなかった。なんだかひどく眠い。もう怒られても仕方ない。寝よう。りーなはスマホの新着を確認してから明かりを消し、ベッドに入る。


「怒られたら、怒られただ」


 そう割り切るとりーなは目を閉じる。眠りはすぐに訪れた。


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