貴方の背を追う

花音

序章


 わたしの記憶は土砂降りの雨の中、裸足で俯きながら歩いているところから始まる。

 だいぶ歩いたのか足は傷だらけ、着物も手足も泥にまみれ、もう今すぐ倒れ伏したいほど疲れているのに前にふらふらと進んでいく。

 とすん、と前に現れた人にぶつかる。よろよろと目線を上げると、長い黒髪に涼しげな顔立ちの男がいた。美醜に疎いわたしでも美しいと分かる、浮世離れした美しさだった。ふぅん、と面白そうに何か思案しわたしに問いかける。

 「君、僕の弟子にならない?」

 はい、いいえ、何故?……そんなことを答える前に私の意識は闇に落ち、目の前の男に受け止められ抱えられた。

 --それがわたしの最初の記憶。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴方の背を追う 花音 @kanon_music

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ