CHOCOLATE≠CIGARETTE

体育館内は盛大な拍手に包まれていた。特に、我が2年A組の列の者たちは激しく手を叩き、檀上に立つ野江隆史新生徒会長の誕生を祝った。


これで学校や親に隠さずに、堂々とバイトができる。次は何をしようか。どうせどこに行ったって、お金をいただく以上はきつい部分があるのだ。あえて接客業とかも良いかもしれない。生まれてこのかた家庭科の授業でしか料理なんてやったことないもんな。


朝礼を終えて教室に戻ったら、何やらざわついていた。


「知ってる?今日、転校生が来んねんて?」


「江口、っていうらしい」


マジかよ。


「おまえのあだ名、変えなあかんな」


そう言ってソータはすぐに、いくつかの俺の今後のあだ名の候補をノートに書き連ねた。持つべきものは友人である。


・モトやん(笑)

・たっくん(笑)

・元祖エロス(笑)


なぜすべての候補の後ろに(笑)が付いているのか。あと、たっくん、はやめろ。ソータはうちのオカンをよく知っているので、俺がこの呼び名を嫌がっているのを理解した上でイジっているのだ。モトキがいい、と俺は言ったのだが、それは本家に失礼だ、本家に謝れ、などと大ブーイングを喰らって却下された。フィッシャーズの皆様ごめんなさい。


「たっくん、がいいと思う!」


ニヤニヤしながら、ツインテールの女が近づいてきた。……島本だ。付き合うことになってから、教室内でもフツーによく話すようになった。そして、予想通りだが、ソータとヨドがつられてニヤニヤした。


「よーし!たっくん、で決定やな!」


「勝手に決めんなや!」


オカンと同じ呼び方はやめろ。


「なんで?ええやん?」島本は、真面目な表情になって、続けた。


「彼女やのに、本口くん、ってのも、よそよそしいやろ?かといって、たくみくん、ってのは、なんか恥ずいし」


いきなり下の名前を島本に呼ばれて、俺は急に照れくさくなった。でも、もう一度、読んでほしいとも思った。


「……あの、もっかい言って。もっかい呼んで」


「え……?たっくん!」


「ちゃう!オカンか!そうやなくて……、たくみくん、って……」


「……いやや!恥ずいもん!たっくん!」


「……ムカつく!……みほちゃん!」


「…………」


一部始終を横目で見て、ソータが言った。


「幼稚園児かおまえらは」


ヨドも続けた。


「アホやなこいつら」


……もうすぐ、春が来て、3年生になる。ちょっとだけ大人の世界を覗いたりもしたけれど、俺はまだまだ子供だったことに気づいた。


「なあなあ、たっくん♪」


「うっさい!たっくん、はやめろや!」


「たっくん♪たっくん♪」


…………………………。


もうしばらく、子供のままでもいいかもしれない。


ぼくは、島本さんが、好きです。

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