エロ本収集家、タバコを吸う

207号室に戻ると、みんな酔っ払っていた。


塚本の親はファミリーマートのオーナーであり、たまにお店の廃棄商品をいただくことがあるのだと言っていた。高校生ながら、お酒やタバコが合法的に(※全く合法じゃないし真似してはいけません)入手できるのだそうだ。


ナカやんと山田は先に退室し、2人でどこかに出かけたらしい。


ソータとヨドは、「ちっ」というような感じで、向かい側で腐っていた。


「おいヨド、またメイドカフェ行くぞ」


「おう!」


「俺も」と言ったが、「リア充は誘わん!」と一蹴されてしまった。


ソータの手元にはタバコの箱があった。AMERICAN SPIRITと書かれていた。山崎さんが胸ポケットに入れていたタバコと同じ文字だが、色が違う。山崎さんが持っていたのは黄色い箱だったが、机に置いてあったものは水色だった。


「俺も、1本……」と、水色のAMERICAN SPIRITとやらの箱から拝借した。箱の横に添えられていたライターを受け取り、火を点けようとしたが、どうにも上手く点かなかった。


「いや、咥えながら火ぃ点けるんやって」呆れた顔でソータがアドバイスした。「ええか?俺が吸うから、よう見とけよ?」


ソータは慣れた手付きでタバコを咥え、ライターを器用に操り、一瞬で点火した。「美味いな」と、思いっきり副流煙を吐いた。煙たかった。流し台にいるオトンが醸し出すのと同じ匂いがした。オカンがあんなに嫌がる気持ちも少しわかった。でも同時に、この白い細い棒を吸い込んで煙を吐くというのはどんな感覚なのか試してみたくもなった。


今度はちゃんと口にしっかり咥えて、無事に点火できた。だが。


「ゲホゲホゲホゲホゲホッッッ………!!!!!!!」


めちゃくちゃくに噎せた。気持ち悪くなった。


ゲラゲラと笑ってソータは「それ強いやつやからな。12ミリやし」と、再び美味しそうにタバコを燻らせた。


ヨドは「俺はもういらない……さっき1本吸ったから一応タバコの経験はした。それだけで充分」と感想を述べた。そして、「やっぱタバコは良くないわ」と俺に内緒話をするように言った。「俺も、もうええわ」と返した。


塚本はThe Oral Cigarettesの曲を熱唱していた。『気づけよBaby』…………。はい。なんかすみません。


きっと、裏で手を回してくれていたのだろう。トイレでばったり会ったのも偶然ではなく、たぶんLINEで伝達していたのだろう。ソータもヨドもナカやんもバレンタインのドッキリのために知っていて知らない顔をしてくれていたのだ。今日のカラオケ代は俺がぜんぶ払おう。それくらいの感謝の気持ちは見せないといけない。

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