しまもと散歩(3回め)
またもや、島本から召喚命令を受けた。今日は、高校の最寄り駅から5駅はなれたところの周辺をしばらく散策した後に、イズミヤに入った。イズミヤというのは近畿地方にたくさん点在するスーパーマーケットチェーンであり、西友のローカル版みたいなものである。関西は西友よりイズミヤの方が圧倒的に多い。
イズミヤの2階でスリッパとかカーペットとかを見た。そんなものを見てどうするのかよくわからないが、島本はあの柄が可愛いとかあんなカーペットが家にある部屋はお洒落だとか言っていた。が、俺が辛うじて興味を引かれたものはTHE NORTH FACEと書かれたリュックだけで、その理由もただ単純にこれを背負っている人をよく見かけるから、というだけだった。
なぜか、屋上にある駐車場に行こうと言われたので行ってみた。もちろん高校生の島本が車を持っているわけがないし、駐車場にわざわざ行くということは車が好きなのかと訊いたがプリウスしか知らないらしい。結局、喉が乾いたのでグリーンダカラ1本のみを買ってイズミヤを後にした。
俺はダルいとも言わなかったしめんどくさそうな素振りも見せなかった。だがその代わりに、とうとう気になっていたことを訊いた。
「なあ。別に、遊びに行きたいだけなら、仲いい女子誘ったらええんちゃうん?クラスに仲ええ奴何人かおるやろ?」
「…………」
島本は、無言のままだった。女子の無言というのはなんだか困る。こういう時、デキる男はセンスに溢れたジョークの1つや2つ繰り出して場を盛り上げたりするものなのだろうか。
「………………………………フィッシャーズで誰が好き?」
それがセンスに溢れたジョークなのかはわからないが、クラスの女子がよく話しているのはフィッシャーズのマサイが好きとかモトキが可愛いとかなんだかそういうことだ。ちなみに俺はフィッシャーズのメンバーの顔と名前が一致しない。
「……家が近い女子があんまおらんねん。ウチ、だいぶ遠いとこから通ってるし。ギリ隣の市との境やし。あと、……」
そっぽを向いて、島本はこう続けた。
「男子の方が、都合がええねん」
「……?」
「ウチ、親が厳しいから、ほんまは門限6時とかやねん。でもそんなん早すぎるやん。この前イオンに遅くまでおったのも、夜のイオンが見たかったから。閉まる直前のイオンとか、初めて見た。警備員の人が来て、シャッター閉めて。スーパーだけはずっと開いてんのとか、知らんかった」
「……そんなん、おもろいかあ?ていうか門限あるんやったら言うてや」
「…………わかってへんなあっ!もうっ!」
それから、島本は再び黙りこくってしまった。女子の無言は本当に困る。それ以降、その日にお互いに発した言葉は、別れ際の「じゃ」だけだった。
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