エロ本収集家、テスト期間中

島本のLINEによると、テスト当日の間は散歩も中止ということで、今週はお休みとのこと。というか、今後も続くのかよ。加山雄三かよ。若大将のゆうゆう散歩かよ。


うちのクラスは全員で40人もいる。現代社会の授業で、俺が産まれるよりも前から少子化とかいうのが問題視されていたらしいというのを習ったが、本当だろうか。爺ちゃんが子供の頃は団塊の世代とかいうやつだったらしく、1学年に9クラスとかまであったようだから、そりゃあそれに比べれば少ないのかもしれないが。


日本の人口がどう変化しようが俺の人生に特に支障はないのだが、クラスに40人もいれば、当然のごとく、毎日のように全員と会話するわけにはいかないし、彼女でもない女子と学内で喋る機会はそう多くはない。


ましてや、俺やソータやヨドというのは、モテないグループというか、陰キャでオタクぎみなグループに属している。


モテるグループの陽キャは彼女がいたり、校則では禁止されているが実はバイクを持っていたり、これは校則ではどうなのか知らないがバンドを組んで地元のライブハウスに出入りしているらしい。正直、ついていけない。羨ましいと思う部分もちょっとあるが、同じ行動は取れない。


しかし、そんな陽キャに近しい位置にいる人間でも、そこそこ軽口を叩く仲の奴はいる。トイレに行ったらばったり会った野江隆史(のえ たかし)は、そういう距離感の奴だ。俺は、何の気なしに話しかけた。


「テストどやった?」


「あかんわ。追試かもしれんな」


「おまえがあかんかったら俺なんか絶対赤点やん。まあ、大丈夫やろけど」


赤点は逃れられただろうが、大した平均点でもなさそうだ。平均65点を超えられたらいい方だろう。親に怒られるほどでもないが褒められるほどでもないくらいの数値だ。


「いや自分、頭ええんやん。絶対、俺より点数高いって」


野江は、俺より早く事を済ませ、素早く手を洗った。こいつは、ぜんぜん勉強していないと口では言いながら実際は猛勉強しているタイプの人間だ。追試かもしれないというのも、9割がた社交辞令だろう。そして、最後に相手を立てることも忘れない。こういう世渡りの上手さがあるから、陽キャとも、俺みたいな冴えない奴とも自然に付き合えるのだろう。見習いたい、そう思った。


俺は、正直に言ってしまいそうだ。だから、ここ2回は我慢していたが、次こそ、島本に誘われたら、ダルい、とか、めんどい、とか、もういいかげんにしろ、とか、言うような気がした。むしろ言った方が良いような気もした。いつまで続くのかわからないし。でも、……どうしたら良いのかわからなかった。このままズルズルと過ごすのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る