第327話 千尋の洞窟(その1)

三つ目族の商人アキルイとの話は続く。


アキルイ「ヒロト様、この都市に来た目的は迷宮ですよね。」


「そうだよ。」


ウィーラ「この都市で目的となるものは、迷宮ぐらいしか無いじゃろ。」


アキルイ「その通りです。ヒロト様達は冒険者の登録をしていますか?」


「してないよ。」


アキルイ「この都市の迷宮『千尋せんじんの洞窟』は基本的には冒険者しか入れません。」


「ふむ。そうですか。」


アキルイ「冒険者登録をすれば直ぐにでも入れるのですが、冒険者登録をするのですか?」


「冒険者登録をする気はありません。」


アキルイ「やはり、そうですか。」


「ん、どういうこと?」


アキルイ「先程買い取らせていただいた魔物の素材は、確かな実力がないと入手出来ない物ばかりでした。


通常入手した素材は冒険者であれば、必ず冒険者ギルドで換金します。


冒険者ギルドで直接商人と取り引きする事を禁じているからです。

その取り決めを破ると大きなペナルティがあります。


それと、ヒロト様達は他国の人とは言え、冒険者らしいところがひとつもありません。従って、実力はありますが、冒険者ではないと判断しました。」


「なるほど。」


素材を売ったのは軽率だったな。


アキルイ「ヒロト様達の実力からすると何らかの方法で迷宮に入りますよね?」


「そのつもりだけど。」


アキルイ「お願いがあります。」

「何ですか?」


アキルイ「迷宮で入手した素材は私に売ってください。」


「ふ~ん。我々は問題ないが、アキルイさんは大丈夫ですか?」


アキルイ「そこまで、分かりますか。流石です。」


ユイ「どういう事?」


「要はアキルイさんが危険になると言うことだよ。」


ユイ「え、なんで?」


「だって冒険者ギルドは、ダンジョンの素材を独占して商売してるんだよ。その為、冒険者にも冒険者ギルド以外で売ることを禁じている。


それが、違うルートで出回れば、敵対することになる。


恐らくアキルイさんは冒険者ギルドに狙われるね。」


ユイ「そうか。そうだね。アキルイさんヤバイじゃん。」


アキルイ「その通りですが、心配は不要です。


ヒロト様達の事も秘匿しご迷惑がかから無いように出来ます。」


ユイ「え、本当ですか?」


「なるほど、領主か。」


アキルイ「そこまで分かりますか。」


ユイ「何々、全然分からないんだけど。」


「冒険者ギルドが手を出せない相手がアキルイさんの背後にいるって事だよ。


じゃなきゃアキルイさんの安全は担保出来ない。ダンジョンは冒険者ギルドの物ではない。


領主の物だ。ダンジョン関連で冒険者ギルドが文句の言えない人は唯一、領主だけ。


アキルイさんは領主の意向で動いている事が推察出来るだろう。」


ユイ「えー。そこまで今の会話で分かったの?皆も分かった?」


グレイア「ヒロト様だからねぇ。流石です。」


「グレイアもウィーラもこのくらいは分かってただろう。」


グレイア「ま、まあ、何となくは分かります。つまり、何か問題があって領主と冒険者ギルドは仲が良くないって事ですよね。」


「そうだろうね。」

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