第2話

――この辺であってるよな

――店の名前が……。あっ、あれじゃない?

雑居ビルの下にポツンと小さな黒板がおいてあり、『営業中 古書の査定承ります』というシンプルなメッセージがあった。店名も同じだ。

郵便受けでさらに狭くなった入り口は熱気がこもっていた。

雑居ビルの古い階段に、薫の硬い靴の音が響く。ここにいるだけで汗が滲む。俺はラージサイズのレーヨンシャツだから風通しが確保されていた。しかし薫はトレーナーにジーンズという格好なのに汗ひとつかいていない。それどころか身を縮めてさえいる。

――なんか、いるかも

三階までのぼると、重たそうな鉛の扉に木材の文字で「いらっしゃいませ」と記された、一枚のプレートがあった。


扉の向こう側はまっ茶色だった。右も左も茶色。古びた書籍のにおい。FMラジオのなめらかなトーク。

趣味人でなければ見分けがつかない。真っ先に目がいったのは、かろうじて色彩のある文庫本コーナーだったが、背表紙が色褪せていた。新しいものもあるにはあるが、それらはまとめて特価 100円とのことだった。薫は文学のコーナーを見つけたらしい。あ、読んだことないバルザックやんと少し喜んでさえいる。


店主は高齢のおばさんだった。杖と中折れ帽という出で立ちのおじいさんと談笑しており、俺たちのことは気に止めない。売り物にどうも、興味がわかない。薫が喜んでいるならそれでいいが。

――あっバラードがめっちゃ安い

――は? CDとかどこにも無いやん

――いやいやバラードしらんの?

――知ってるけど。しんみりした歌い方やろ

――イギリスのSF作家やで

薫は俺をひとしきり笑ってから二冊の単行本をもってレジに向かった。それをきっかけにおじいさんは店から出ていった。都合がよかった。

――ケン、1400円ちょうだい

――いや。

――クソ兄貴

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