第3話

あれから2週間が過ぎた。最初の週末に合同練習するつもりだったのだが、山下に急な休日出勤が発生してしまい、「自己練習頼ム」との事であった。山下の勤めているコンピューター会社は残業や休日出勤が多い。可哀想だと思うが、その分給料を貰っているのだろう。と、言う話を前にDNで話したときに「俺も会社が厳しいみたいでさ、サービス残業だよ。」とこぼしていたのを思い出す。本当に可哀想だ。ってー事で誰も集まらず自己練習。しているうちに、飽きてきた。音楽をやるのには、「誰かと一緒にセッションしたい」って欲と「誰かに聴いて欲しい」って欲が原動力だ。今は一人でヘンテコな歌詞の曲をコード弾きしていても正直ツマラン。


次の週末。つまり今日なのだが、これまた集まりは無かった。理由は簡単。山下がスタジオを取り忘れたのだ。山下曰く「忙しくて、前日にやっと電話したのだが、予約で一杯だった。」との事。山下は忙しいので責める事はできない。俺はいいとして、超がつくほどの初心者の田村や橋谷はどんな気持ちなのだろう?まぁ、夜にDNをするので、その時に続けるかの決意表明を聞くとしよう。まぁ100%解散だ。練習を一回もしないで解散。悲しいかな。


で、今、現在、俺はやかましい音の中に溺れている。音楽?いや、違う。悪い癖。そう、俺は今パチスロ屋でパチスロと格闘しているのだ。10000円、15000円と金が無くなっていく。前に、「金額の限度を自分で決めれるギャンブル」と言ったが、これは時間を考慮しない場合。待ち合わせの時間までパチスロで時間を潰すとしたら、それは青天井に近い金額を要求する暴利マシーンと化す。まぁ、当たれば、「続いてくれ!」なのだが、当たらなければ「(なるべく少ない金額で)当たって下さい。」なのだ。さらに悪い事に俺は今、DNの呑み場がある駅まで来ているのだ。18時のDN開始まで、あと3時間。他にする事はないし、他に時間を潰せる場所が無いのだ。


残りコインが2枚になった。「あぁ、また追加投資か。」と思ったところで、前に1枚だけ持っていたコインを思い出した。ジーパンに入れていたんだった。俺はジーパンは洗わない主義なので、ポケットをまさぐるとすぐに1枚出てきた。「これで、多分終わりだ。あとは本屋で立ち読みでもしよう。」3枚のコインを入れて、レバーを叩く。するとどうだ。熱い演出が開始された。もうコインは無かったので追加投資1000円は必要だったが、追加コイン計9枚でボーナスをひくことが出来た。「これはラッキーコインだったのか。あとはどれだけ出るかだな。」


待ち合わせまであと20分。僕は特殊景品交換所に居た。結果は…なんと6万円勝ちである。まぁ、投資に21000円使っているので差し引き39000円の勝ちだが。勝ちは勝ちだ。これで今日のDNの金額をちょっと多めにだしてやるか。あと、勝ったコインを1枚だけまたジーパンに入れておいた。「これはラッキーコインかな?アンラッキーコインかな?まぁいいか。勝ったんだし。」


ギャンブルはトータルではまず確実に負けている。だけども、ちょっと勝つと気分が良くなってしまい多めに飲み代を出したり、高価な買い物をしたりしてしまう。これがギャンブラーなんだな。


18時。DNが開始である。都合よく全員集まった。山下がバツが悪そうに、「本当に…すまん。」いいんだ山下よ、少なくとも俺にスタジオの話をしてくれれば俺が予約したのに、だが。「で、練習は進んでいるか?」


生4杯を頼んで、しばらくして、キンキンに冷えたビールで乾杯し、おつまみを注文する。


橋谷は口を開ける「ベースってかったるいな。あれからチューナー?買ってさ、お前に貰った本を読みながら弾いてたんだけど、なんか華が無いんだよな。ボンボンボンボンって。コード?ドレミファソラシドを弾くだけだろ?」おぉ、橋谷よ練習は続けていたのか!

橋谷は続ける「一人でやっててもつまらないよ。」やっぱりそうか。

田村も続ける「俺なんて、タオルたたいてるだけだぜ?音を鳴らした事も無いんだよ?こんな事なら、ゲーセンのドラムのゲームをやっておくべきだったかな?でも、一人でやるのもつまらないし。」 まぁ、結論はこうだ。


-早くセッションがやりたい-


山下は「来週、来週こそはセッションしよう。俺、ちゃんとスタジオ予約するからさ。今から来週の休日出勤は止めと宣言しておく!」


DNはそのまま、カラオケに移行し、山下がアカペラで自分の作った歌を聴かせた。「なるほど、こういう曲なのね?」それぞれ、なんとなく理解した模様。俺にもなんとかわかる。ただ、早くセッションしたいんだ。


…3次会はキャバクラだった。「パチスロで勝った俺がみんなより1万円分多く出す」ってー事でいきつけのキャバクラへ。その頃にはみんな音楽の事なんて忘れていたんだ。


そう、あの事件があるまでは。

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