バックシートフェアウェル

山田波秋

第1話

「今から会いに行ってもいいかな?」

土曜日の夜、新宿。少しお酒が入っているせいかいつもより大胆になっている僕がいる。

友人たちとたらふく飲んだ後、ほろ酔い気分で街を歩きながら君に電話をする。


「いいけど、どこにいるの?もう電車無いでしょ?」

君はあっけらかんと話す。いつもそうだ。君はどこかとらえどころが無い。


「タクシーで行くからさ」


新宿三丁目あたりでタクシーを拾う。この時間に新宿にいればタクシーを拾うのは大変な作業では無い。実際に何百人と言う人間がタクシーによって運ばれている。酔っ払い、仕事で帰れなくなった人。様々な人が深夜のタクシーを利用する。僕もその一人だ。


東京と言う街はタクシーで移動できる。深夜の割増料金を支払っても1万円あれば大抵の場所へは移動できる。広いようで狭い街。そんな街に何十万人、何百万人の人がひしめき合っている。


タクシーでの移動中、後部座席の窓から街を見る。普段、電車ばかりで車移動をしないので今、どの辺を走っているのかはよく分からない。少し静かな住宅街を通ったかと思えば、また派手な看板が多い通りに出る。タクシーの運転手は寡黙に運転を続けている。


この街は寝ないのであろうか?少しくらい眠ればいいのに、でも僕も今、起きてるしな。


ふと運転席に目をやると料金メーターがどんどん上がって行くのがわかる。少し待つと3つの棒が出て、1つずつ減っていきゼロになると料金が上がる。この繰り返しで料金はどんどん上がって行く。


しばらくすると見慣れた風景が近づいてくる。1時間弱乗っていたであろうか?


「駅の近くに着きましたよ、ここからどう行きますか?」僕は、運転手に指示を出しながらタクシーは細い道をスラスラと抜けて行く。最寄りの駅までつけばこっちのものだ。駅で降りて歩いてもよかったんだけれどせっかくタクシーに乗っているのだからなるべく横着しよう。そのほうが早くつくし。


結局、近くのコンビニで降ろしてもらう。10000円でお釣りがきた。やっぱり10000円かからない。

タクシーを降りて、明け方の仄暗い、でも、どこか透明な空をみる。

少し尖った空気。ノイズがない。呼吸すると気持ち良い。


こんな時間だけれど、ビールを買っていこう、ポテチもいいな。あ、夜だから太るって言うかな?でもあっても困らないし。


そんな事を考えながら買い物を済ませ、君の住む部屋へと急ぐ。

きっと、夜はまだ終わらない。


inspired – Backsheet Farewell / 集団行動

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バックシートフェアウェル 山田波秋 @namiaki

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