第84話 代償

レオス改めリキから、ミヤの眠る禁じられた愛の過去を聞かされた夜光達。

再びミヤの病室に現れたレイランの前に立ちふさがるスノーラは、レイランに”お前はミヤの娘”ではないかと問いかける。




「・・・」

問われたレイランは、無言のまま何も語ろうとしない。

ちなみに、今レイランの前にいるのは、スノーラとルドとセリナとマナの4人である。

残りのメンバーはリキの見張りとして、休憩スペースに残っている。


「・・・意味がわからないんだけど」

ようやく口を開いたレイラン。

とぼけるような言葉を述べるが、その引きつれた表情からその言葉が嘘であることを物語っている。

「ミヤと同じ名前を持つ者が2度も同じ病室を訪れているのだ。 ただの偶然と言う意見は通らないぞ?」


「・・・仮にそうだとしたら、それがどうかしたの? 君達には関係ないでしょ?」

「関係あるよ! 私、レイランさんとお友達になるって約束したもん!」

レイランの”関係ない”という言葉に、我慢できなくなったセリナが声を上げる。

「あれ、本気で言ってたの? だとしたら随分おめでたいんだね」

嫌味のような口ぶりに、ルドが少し怒った口調でこう言う。

「おい、人の好意をそんな風に言うのはやめろよ。 そんなんだから”友達”に見限らるんじゃないのか?」

「!!!」

ルドの言葉に、レイランは”友達と思っていた”2人のことを思い出してしまい、一瞬、歯を少し喰いしばった。


「ルドッ! やめろ!」

ルドの失言に、さすがのスノーラも言い過ぎだと思い、ルドを静止させた。

「ごっごめん」

ルドはすぐに謝罪したが、レイランは「別にいいよ」とそっけなく返す。


「あのっ、これお返しします」

そう言ってセリナの後ろから出てきたのは、マナであった。

その手には、病室でレイランが落とした白い花が握られている。


「・・・いらない」

レイランはマナと目を合わせないまま、花を受け取ろうとしない。

「でっでも、お見舞いのお花ですよね?」

マナがそう問うと、レイランはうっとうしそうにこう言う。

「別にお見舞いに来た訳じゃないよ。 ただ、他に行く所がなかっただけ」


「行く所がないとはどういう意味だ?」

スノーラがそう問うと、レイランはうつ向いたままこう語る。

「あの事件の後、ボク達は裁判で有罪判決を受け、懲役20年を言い渡された・・・でも後日、ボクにだけ執行猶予がついたんだ」

「執行猶予?」

ルドがそう聞き返すと、レイランは静かに頷く。

「ほかの3人は罪の意識がないと判断されて、執行猶予なしとなったけど、ボクは精神面の脆さや素直に罰を受ける気がある態度に、情状酌量の余地があるって判断されて、一昨日に出てきた」


「執行猶予とか情状酌量とかよくわかんないけど、レイランさんがお外に出られるなら、よかった」

「なんにも良いことなんてないよ!!」

ここまでレイランの経緯を聞いたセリナが、安堵の表情を浮かべていると、レイランが突然大声を上げる。


「所属していたチームはクビになり、マラソン協会からは今後開かれる大会の出場権をはく奪された。

町ではみんな、ボクを蔑むような目で見て、『人殺し!』、『死ね!』なんて暴言を吐き捨てる!

物を投げたり、足を引っかけたりしてケガをしたボクをみんなで笑い者にする!

これなら牢に放り込まれた方がずっとマシだった!!」

「まさか、その傷はその時のものか?」

それは、スノーラ達がずっと気になっていたレイランの体を覆っている包帯や絆創膏のことであった。

レイランは「まあね・・・」と左腕の包帯をさする。


「ひどいよ・・・いくら悪いことをしたからって、みんなでいじめるなんて・・・」

その悲惨な傷跡に、思わず口を覆うセリナ。

「セリナちゃん・・・」

親友を思い、そっと肩にを支えるマナ。


「だから昨日マネットを離れたんだ。 ここに来たのは、傷の治療のついでに様子を見に来ただけで、薬をもらったらすぐに出ていく」

レイランはそう言いながら、つらい過去を思い出してしまったことを少しでも紛らわせようと窓から外を眺めた。

「だったらなおさら、ミヤに会った方が良くないか? さっきはオレ達がいたから驚いたんだろうけど」

「そうだな。 もし我々が邪魔なら、今日はもう病室には近づかない」

ルドとスノーラがミヤに会うよう促すが、レイランは「別に会わなくても良いよ」と首を横に振る。


「考えたら、会った所で別にどうなる訳でもないし、向こうもボクには興味なさそうだし」

「そんなことないよ! お母さんなら、子供に会いたいって思うはずだよ!」

レイランの傷の件で、言葉を失っていたセリナが、声を上げる。


「セリナ様の言う通りだ。 家族がいることほど、幸福なことはないのだぞ?」

それは、目の前で家族を失ったスノーラだからこそ、言える言葉であった。


「そんな客観的な幸福を、ボクに押し付けないでよ。 もうボクに構わないでくれ!」

レイランはそう言うと、足早にその場から立ち去る。

マラソン選手であっただけに、普通の人間よりは速い。


「あっ! 待ってよ!」

慌ててレイランの後を追うセリナ。

「セリナちゃん! 病院で走ったらダメだよ!」

「「・・・」」

病院内のマナーを叫びながら続くマナとスノーラとルド。



一方の夜光は、リキと笑騎と共にトイレから休憩室へと戻ろうとしていた。

その道中、笑騎とリキは、夜光に関する話で盛り上がっていた。

「ほう・・・アストの中で男は兄ちゃんだけなのか」

「せや、いわゆるハーレムってやつや!」

リキと初めて会った時に恐怖していたとは思えないほど、親密にリキと話す笑騎。

「羨ましいね~。 いつも美人でナイスバディのお姉ちゃんたちに囲まれているとは」

冷やかすような目で夜光を見るリキ。

もちろん夜光は相手にせず、無視を決め込む。

「おまけにほとんどの子が、こいつに惚れてんねんで!?」

「なるほどな。 じゃあ兄ちゃんの本命は誰なんだ?」

笑騎と話していたリキが突然、夜光にストレートな質問を投げてきた。


「バ~カ。 男の本命は酒池肉林に決まってんだろ?」

メンバーがその場にいたら袋叩きにされそうな回答を、さも当たり前のように述べる夜光。

「かっははは!! 兄ちゃん! 男だな!」

豪快な声で大笑いするリキ。

「感心するような男ちゃうで? こいつはハーレム築いとるくせに、別の女と寝るようなクズ男なんや!」

「彼女持ちの浮気野郎に言われたくねぇよ!」

似た者同士にも関わらず、互いににらみ合う夜光と笑騎。

「おもしれえな。 お前ら」

影として殺人を犯していたリキにとって、エアルや影のメンバー以外の者と話す機会はあまりなかったため、

にらみ合う2人の間にいるリキは、どこか嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


わいわい話しながら歩いている3人が、曲がり角を曲がろうとした時だった。


「きゃっ!」

「いてっ!」


前を歩いていた人物とぶつかり、そのまま覆いかぶさるように倒れてしまう夜光。


「いてて・・・(んっ? なんか顔に柔らかい物が・・・)」

ゆっくりと起き上がった夜光が目にしたのは、涙目のレイランであった。

夜光はレイランの上に乗ってしまっていて、まるで夜光がレイランを押し倒しているような光景になっていた。

その上、先ほど倒れた時になぜかレイランの服がまくり上げられ、ブラジャーに包まれた巨大な乳が、完全に見えてしまっていた。


「い・・・いやぁぁぁ!! 変態!痴漢! やめてぇぇぇ!!」

押し倒され、下着まで見られたレイランは、当然叫び声を上げる。

「ばっバカ! 大声出すな!!」

夜光は反射的に、レイランの口を塞いでしまう。


「ら・・・ラッキースケベ。 まさかホンマもんを目にするとは・・・」

ゲームやアニメでしか見たことのないイベントに、笑騎は嫉妬よりも感動が勝っていた。

「ラッキー・・・なんだ?」

笑騎の意味不明な言葉に、困惑するリキ。



「・・・そこで何をしているのですか?」

殺気と共に聞こえてきたその声に、夜光は恐怖した。

そして、おそるおそる声の方を向くと・・・


「「「・・・」」」

「あわわわ」

そこにいたのは、案の定、怒りに燃えるスノーラとルドとセリナ。

そして、ラッキースケベを見てしまい、顔を赤くしながら、手で目を覆うマナ。


「夜光さん。 強姦は立派な犯罪ですよ?」

汚物を見るかのような見下した目でそう告げるスノーラ。

「まっ待て待て! 事故だ!! これはぶつかった時にこうなっただけで・・・」

「ほう。 ぶつかっただけで倒れた女の上にまたがい、口を塞いで服まで脱がせたってのか?

さすがに言い訳にもなってねぇぞ?」

ルドの言っていることは完全に正論であった。

しかし夜光は、「本当にそうなんだからしょうがねぇだろ!?」と叫ぶしかなかった。


「とにかく、強姦未遂の現行犯で、後ほど騎士団に突き出します・・・ルド」

「わかった。 兄貴、まずは向こうでレイランに謝罪しろ!」

ルドはレイランの上にまたがっている夜光の腕を持ち、そのまま強引に立たせて、休憩スペースに連れて行く。

「待て待て! 本当に俺はぶつかっただけで・・・」

その後、夜光の言い分を聞いてくれる者はいなかった。


「レイランさん 大丈夫?」

倒れているレイランを、マナと共に起こすセリナ。

「いたたた。 あの親父、なんなんだよ」

乱れた服を直し、マナとセリナの肩を借りて起き上がるレイラン。


「とりあえず、向こうの休憩スペースで休もう!」

「えっ? ちょっちょっと!」

セリナに連れていかれるような形で、レイランは休憩スペースに向かった。


「マナちゃん。 俺とラッキースケベせえへんか?」

セリナの後に続こうとしたマナを誘う笑騎。

「よくわかりませんけど、笑騎さんのお誘いはお断りします」

「つっつめたいな・・・」

マナに笑顔で断られて笑騎は、しょぼくれたまま休憩スペースに向かう。

マナも後に続く・・・


「・・・そろそろ出てこいよ」

その場に残ったリキが、そう言うと、突然リキの後ろにエアルが現れた。


「いちいち隠れてないで、普通に来れねぇのか? お前」

首を横に振りながら、エアルの慎重さに呆れるリキ。

「お前が彼らと仲良くしている所に水を差したくなかっただけだ」

「ったく、変な所で気を使うなよ・・・それはそうと、”あいつら”の動きはどうなっている?」

「おおむね予想通りだ。 動くとしたら今夜だろう」

「だろうな・・・エアル。 俺に1つ提案があるんだが」

「なんだ?」

「今回の件。 アストの連中にも、聞かせようと思う」

リキの提案に、普段冷静なエアルも少し動揺してしまった。

「なぜ彼らに?」

「別に深い理由はない。 ただ・・・あいつらがこのことを知ってどうするのか知りたくなった。

今日あいつらと一緒にいて、少し興味が湧いてきた。」

「このことを知れば、彼らはお前の邪魔をするのではないか?」

「それこそ願ったり叶ったりだ。 障害のある任務の方が燃えるんだぜ?俺」

「・・・わかった。 お前に任せよう。 だがこちらから巻き込む以上、彼らを危険にさらすな」


「わかってるよ・・・で、さっきから聞き耳立てるのはやめろよ”スパイア”」

リキは先ほど夜光とレイランがぶつかった曲がり角の影に隠れている人影に向かって言う。

角に隠れているため、リキとエアルのいる位置からでは、人影の一部しか見れない。


「・・・」


人影はリキの言葉を聞いた瞬間、姿と気配を消した。

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