第83話 禁じられた愛

アストの新メンバーの1人【ミヤ スペルビア】のいる病室に訪れた夜光達。

病室にミヤらしき少女を見つけたが、夜光達には無反応。

夜光の度が過ぎた行動により、いつも通り怒りを露わにするメンバー達。

彼女達から逃げようと病室を飛び出そうとした夜光とぶつかってしまったのは、レイランであった。


「お前、なんで・・・」

「!!!」

夜光が最後まで言う前に、レイランはすぐさまその場から走り去る。

「おっおいっ!」

夜光の静止も聞かず、そのまま走るレイラン。

マラソン選手なだけあって、走るスピードが断然速い。

そのため、夜光や病室にいたスノーラ達も追いかけることはできなかった。


「あっ! れい・・・」

「・・・」

走り去る際に、メガホンを戻し終えて戻ってきたセリナとすれ違うも、セリナが声を掛ける前に、素通りしていった・・・


「さっきのレイランさんだよね?」

病室に戻ってきたセリナが、夜光達にレイランが来たことを確認する。

「見たいだな。 何しに来たのは知らねぇが」

そう言いながら、無断でベッドに横になる夜光。

もちろん、それを見逃すほど優しいメンバーではない、

『どさくさに紛れて寝るな!!』

「いてっ!」

ライカとルドによって、ベッドから引き釣り降ろされた夜光であった。



「あの~、さっきこんなもの拾ったのですが」

そう言ってきたマナの手には、一輪の白い花が握られていた。

「マナちゃん。 それどうしたの?」

「さっき病室の前で拾ったんだ。 この病室に来た時には、落ちていなかったから、もしかしたらさっきの人が落としていったのかも・・・」

マナの持つ白い花を見た瞬間、スノーラはふとベッドのそばにある花瓶に注目する。

「この病室にある花瓶にも同じような花が添えられているようだな」

その花瓶には、ほとんど枯れかけている白い花が添えられていた。

「じゃあ、あいつ。 お見舞いに来たって言うのか?」

スノーラの意図を察したルドがそう言うと、「まだわからんがな」とあくまで仮説だと述べるスノーラであった。


そこへ、病室のドアをノックする音と共に、巨大な人影が病室に入ってきた。


「・・・よう。 また会ったな」

大きめの声で夜光達にあいさつしたのは、食事を終えてやってきたレオスだ。

まるで、親しい友人のように片手を上げながら迫ってくるレオスの態度に、夜光達は困惑した。


「貴様っ! 何をしに来た!?」

スノーラの威嚇とも言える声と共に、ほかのメンバーも身構える。


「そう構えるなよ。 お前らの新しい仲間の顔を少し拝みに来ただけだ」

そう言うと、レオスは窓際でぼんやり座って空を眺めているミヤを見てこう言う

「ほう。 ”あのミヤ スペルビア”が入るのか。 こりゃあ、相手にとって不足なしって奴だな」


「あんた、なんで名前を知ってるんや?」

レオスの発言が気になった笑騎がそう尋ねる。

しかしレオスが怖いのか、笑騎は先ほどからずっと、夜光の後ろに隠れている。

「離れろ!ブタ!! 暑苦しい!!」

夜光本人はかなり嫌そうに、笑騎をひっぺがそうとしている。


「まあちょっとしたコネってところか?」

レオスが何気なく理由についてはぐらかすと、再び病室のドアをノックする音が病室内に響いた。


「失礼します・・・おやっ? 随分賑やかですね」

そう言って入ってきたのは、白衣を着た黒髪と白髪が混じった、50代くらいの中年男性。

そして、中年男性に続いてナースが1名入ってきた。


「あの~、どちら様ですか?」

レオスが怖いのか、セリナの後ろに隠れながら、男性に尋ねるマナ。


「これは申し遅れました。 この病院で院長をしております”ビスケット コヨチトーレ”と申します。」

軽く頭を下げながら名乗るビスケット院長。

「失礼ですが、あなた方はミヤさんのお知り合いですか?

ビスケット院長にそう尋ねられ、思わず「えぇ、まあ」と答えてしまったスノーラ。

「それはよかった。 ミヤさんの病室にはあまりお見舞いに来られる方がいらっしゃらないので。

ですが、申し訳ありません。 診察の時間なので、ミヤさんをお連れしてもよろしいでしょうか?」

申し訳なくそう告げるビスケット院長に、「あっ! どうぞどうぞ」と同じく申し訳なさそうに返すルド。。


「ありがとうございます」

にこやかな顔でお礼を言うビスケット院長の言葉と共に、ナースがミヤの元へと歩み寄る。


「ミヤさん。 診察の時間です」

ナースが優しくミヤに語り掛けると、ミヤは初めて顔を動かし、ナースの顔を見た。

「はい・・・わかりました」

それだけ言うと、ミヤは椅子から立ち上がり、ナースと共に病室を後にした。


『・・・』

あれほど騒いだり、胸を揉まれたりしても微動だにしなかったミヤが、ナースの一言で反応したことに、夜光体は驚きを隠せなった。


「ではみなさん。 またいつでも来てください」

ビスケット院長はそう言い残すと、ナースとミヤの後を追うように去って行った。



「すごいな・・・あれだけやって無反応だったミヤをあんな簡単に・・・」

ルドは思わず拍手してしまいそうになるほどの感銘を受けた。


「あの・・:いい今更なのですが・・・ミヤさんは、どうしてにゅっ入院しているのでしょうか?」

突然思った疑問を口にするセリア。

それに対し、周りも「そういえば・・・」と言わんばかりにポカンとした顔になった。


「なんだお前ら。 そんなことも知らなかったのか?」

そう声を上げたのは、意外にもレオスであった。


「なんやレオス。 なんか知っとるんか?」

そう尋ねるのは、夜光の後ろに隠れることを諦め、ベッドの下に隠れていた笑騎であった。


「まあな・・・ってか、お前らに言いそびれていたんだが、あんまり俺をレオスと呼ぶのは控えた方が良いぜ?

知ってる奴が聞いたら、パニくるだろ?」

レオスの意見は最もだ。

殺人鬼であるレオスがこの病院にいるとバレれば、病院内はもちろん、付近の人間も大パニックになる。


「じゃあ、なんて呼べば良いんだよ」

夜光がそう尋ねると、レオスは少し考えた後でこう言う。

「そうだな・・・とりあえず、”リキ”と呼んでくれ。 一応俺の本名だ」



レオス改めリキの話を聞くため、夜光達は1度病室を出て、静かに話せる休憩フロアに移動した。



適当な椅子に座ったリキを囲むように座る夜光達。

いざとなれば、すぐに戦闘態勢に入り、一斉に攻撃しやすいようにと、スノーラが提案したことだ。

もちろん、笑騎とマナとキルカは、少し離れたところに座ってもらった。


「じゃあ、話を再開するか」

囲まれていることを全く気にしていない様子のリキが、口を開き出した。

「これは、ある筋から聞いた情報なんだが、今から10年以上前、ミヤ スペルビアはキクの森を追放されたらしい」

「追放?」

森で育ったルドは、その言葉の意味をすぐに理解した。

夜光が「急になんだよ?」と尋ねると、ルドは頭を掻きながらこう言う。

「オレみたいに森に棲んでいる種族にとって、森からの追放はかなりの罰だ。

ケンタウロス族でも、最後に森から追放されたのは、50年以上前だからな。

よほどのことがない限り、森から追放されることなんてないと思うぜ?」

ルドの説明に対し、「まあ、そうなんだがな」と肩をくすめるリキ。


「ミヤって女。 いったい何をやらかしたんだ?」

興味半分で夜光がリキに尋ねる。

「なんでも、当時付き合っていた男との間に子供ができて、それを知った親や仲間達に勘当されたとか」

「ようするにデキ婚じゃねぇか。 なんか思ったよりも普ありきたりだな」

リキの返答を聞いた夜光はつまらなそうにタバコを咥える。


「それだけならまだよかったんだが、その男ってのが問題なんだよな~」

机に頬杖をついて、ため息をつくリキ。


「あっ! もしかしてその男の人が人間だから、エルフとは結ばれないってことじゃない?

この間読んだ【異種族と人間の禁断の愛】って小説にそう書いてあったし!」

純粋な子供のように目をキラキラさせながら突然割り込んできたセリナ。

「セリナ様。 読書は感心しますが、小説の知識を現実に持ち込むのは、あまりよろしくはありませんよ?」

頭を抱えながらため息をつくスノーラ。

「そもそも、【異種族と人間が結ばれてはいけない】なんてルール、とっくに廃れてるわよ。

今どきそんな古臭いルールを律義に守る異種族がいれば、お目にかかりたいわ」

「うぅぅぅ・・・夢を壊さないでよぉぉぉ」

マナの胸を借りて落ち込むセリナを無視し、リキが続ける。


「ミヤが当時付き合っていた男は、他人に対する配慮や家族への愛情にあふれた男で、周りからの評判もかなり高かったようだ。 もちろんミヤとの仲も誰が見ても良好だった」

「じゃあ、何がいけなかったんだ?その男」

リキにあれだけ敵意を向けていたルドであったが、話の先が気になってきたのか、リキに質問し始めた。

「”ミヤとの関係性”が問題だったんだ」

「関係性? どういう意味だ?」

「そいつの名前を聞いたら、たぶんお前らも察することができるんじゃねぇか?」

「名前? なんて言うんだ」

「”チップ スペルビア”。 それが付き合っていた男の名前だ」

その名前を聞いた瞬間、勘の良い夜光やキルカは察した。


「スペルビア?・・・まっまさかその男・・・」

スノーラは信じることができないあまり、思わず口をつむる。

「察しの通り。 チップは”ミヤの弟”だ」

『!!!』

あまりの衝撃的な事実に、全員言葉を失った。


「しばらくは親や仲間に隠れて付き合っていたようだが、ミヤが妊娠したら、さすがに周りも気づいたみたいだな」

「それってやっぱり、その弟との子よね?」

ライカの質問に、無言で頷くリキ。

「話を聞いただけで詳細はわからないが、バレた当時は、親や仲間からかなり批判されたらしいぜ?

最強のエルフと言われたミヤが弟とできてた上に子供まで身ごもった、エルフにとって、これ以上の痴態はないってな」

『・・・』

おもしろ話を披露しているように、話すリキだが、聞いているメンバー達にとっては、笑えない話であった。

血のつながった姉と弟が愛し合い、その上妊娠した。

常識を超えたこの話に、メンバー達は理解が追い付かなかった。

現実世界の人間である夜光や笑騎でさえ、そんな話は映画やドラマの中の世界での話なので、若干の戸惑いはあった。


「・・・で? 結局その後どうなったんだ?」

夜光が話を進めるように言う。

「エルフ族で色々あった結果、チップはエルフ族の名に泥を塗ったということで殺され、ミヤは事情を知っていたゴウマ国王が子供と一緒に保護したそうだ。

だがそれ以降、ミヤは精神的ダメージで、ほぼ廃人状態になり、この病院でやっかいになっている」

そう言い終えると、リキは休憩フロアにある冷水機から水を出し、横に置いてあるコップに注ぐ。

「俺が知っているのはここまでだ」


「・・・なんか、想像を絶する話だな」

長い沈黙をどうにか破ったのはルドであった。

「確かにな。 愛する人を失ったことと森を追放されたショックを受けたことはわかるが・・・」

スノーラが突然、言葉を詰まらせた。

「(そういえば、あいつも・・・)」

スノーラの脳裏”ある人物”の顔がよぎった。



それから少し経った後のミヤの病室前・・・

「・・・まだいないか」

病室のドアの隙間から中を覗いていたのは、レイランであった。

中に誰もいないことを確認し、その場を立ち去ろうとした時だった。


「えっ?」

レイランの前に夜光達が立ちはだかった。


「やはり、心配で戻ってきたようだな」

そう切り出すスノーラに対し、「なんのこと?」ととぼけるレイラン。

「では、単刀直入に聞こう。 ”レイラン スペルビア”、お前はミヤ スペルビアの娘か?」


「!!!」

その瞬間、レイランの顔がこわばってしまった。

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