第75話 空を裂く閃光
怒りに狂ったスコーダーの手によって、新生アストは全滅した。
しかし、スコーダーの怒りは、彼らのバックにいる騎士団に向けられた。
スコーダーを止めるため、夜光達は再びアストとなった。
イーグルに搭載されているレーダーでスコーダーを追いかける夜光達。
『・・・レーダーによると、ビンズさんはマネットに向かったようですね』
レーダーでビンズの位置を確認したスノーラが全員に通達する。
『まずは一番近くにいる騎士団から始末するって訳ね・・・ところで、アストに復帰したのは良いけど、どうやってあんなの止める訳?』
『・・・』
ライカの全員に向けて放ったこの質問によって、彼らの”ビンズを止めたい!!”と言う思いが、いきなりぐらつく。
『誰も何も考えてないんかいっ!!』
思わずノリツッコミをしてしまうライカに対し、ルドが面倒そうにこう言い放つ。
『うるせぇな!! そんなの気合と根性でなんとかするんだよ!!』
ライカはその言葉に対し、『脳筋は黙ってなさい」とだけ言って相手にしなかった。
『しかし、何らかの作戦を考えようにも、我々が装着しているアストは、先ほどの戦闘でかなりのダメージを負っているんだ。
この状態も長時間は続かないだろう』
スノーラのアストは、スコーダーの攻撃によってあちこちガタが来ていた。
それはもちろん、ほかのアストも同じである。
特に闇鬼は、愛用している闇双剣がない上、先ほどスコーダーに右手を切り落とされたため、夜光の右手は丸裸であった。
その不格好な手に、夜光も思わず「カッコ悪りぃ・・・」とぼやく。
『じゃあさ、ビンズさんが疲れて眠くなるまで、みんなでビンズさんと鬼ごっこするって言うのはどう?』
『お前は黙って前を見てろ』
真面目そうな顔で、無邪気なことを言うセリナを冷たく受け流す夜光。
『セリナ、それは良い案かもしれん』
そう言ってマスク内のモニターに現れたのは、常備している通信機から連絡してきたゴウマであった。
『おっお父様! どどどういうことでしょうか?』
ゴウマが突然通信してきたことよりも、セリナのバカげた意見に賛同したことに驚くセリア。
『鬼ごっこはともかく。 今のビンズは、怒りのままに暴れ回っている。
だが死んだとはいえ、ビンズの精神力に底がない訳ではない。
考えもなく強い力を放出し続ければ、いずれ限界が来るだろう
そうなれば、勝機が出てくる可能性もある』
ゴウマの意見に対し、スノーラがこんな質問をする。
『しかし、ビンズさんの限界がいつ来るかわかりません。
その間に、マネットが壊滅する可能性だってあります』
『その通りだ。 だから君達はまず、できる限りビンズを町から引き離すんだ』
『引き離すってどうやって?』
『今のビンズが最も憎いのはアストだ、
君達がその姿でビンズの前に現れれば、あいつは必ず君達を殺そうと向かってくるはずだ』
ビンズにとっては、アストは全てを奪った憎い敵。
その憎しみで暴れている以上、アストが現れれば、間違いなくビンズは殺しに来る。
『それで? 引き離した後はどうする訳?」
ライカが引き離した後のことを尋ねると、ゴウマは申し訳なさそうにこう言う。
『引き離した後は、守りを固めて、できる限り応戦してほしい。
だが、アストは先ほどの戦闘でダメージを負っている。
直接的な戦闘は避け、イーグルでの応戦を中心にしてくれ』
イーグルには、精神力で発射するイーグルガンとイ-グルキャノンが装備されている。
使用方法はマスクに内蔵されているモニターが教えてくれるが、使用したことがない武器を使うことは、夜光達にはかなりのリスクであった。
『不慣れな武器で不安だと思うが、今の状態で接近戦は危険だ。
どうかわかってくれ』
『『『『『『・・・了解』』』』』』
不安はあるものの、これが一番最善な方法だというのは全員理解していた。
『最後に言うが、アストが受けたダメージで、現在転送システムが使用不可になっている。
もし、少しでも危険だと判断したら、速やかに撤退してくれ!』
転送システムがないということは、安全は保障されないということ。
つまり、戦うのも逃げるのも、自分達の力でやるしかないと言うことである。
『『『『『『・・・』』』』』』
夜光達は静かに頷き、イーグルを加速させた・・・
それからまもなくして、マネットに到着した夜光達。
マネットの町はすでにスコーダーの手によって、壊滅的な打撃を受けていた。
建物は崩れ、あちこちから火と煙が上がり、町の人達は突然の襲撃でパニックとなり、悲鳴を上げながら逃げ惑う。
それはまるで地獄絵図のような光景であった。
パニックになりながらも、騎士団の誘導に従って非難する町の人達。
だが、辺りをよく見ると、夜光達にとって最も見たくない物【人間の死体】がいくつも転がっていた。
体中から出血して微動だにしない者や崩壊した建物に押しつぶさた者、炎に焼かれた者など、大勢の人間がその命を失っていた。
『『『『『『・・・』』』』』』。
大勢の人が死んだことはショッキングなことではあるが、他人を思う気持ちが誰よりも強いビンズが、暴走しているとはいえ、大勢の人間を殺してしまったことが、アスト達にとっては何よりつらかった。
しかし、ビンズと止めたいという気持ちは、より強くなっていった。
そして、落雷や銃声が聞こえる騎士団本部に向かって、夜光達は前進した。
騎士団本部に着くと、辺りは先ほど見た光景よりもひどかった。
少し前まで夜光達がいた騎士団本部の建物はすでに炎と煙に包まれながら、崩壊したいた。
辺りには何百人と言う騎士団員の死体が、あちこちに転がっている。
体中刺し傷だらけになっていたり、首や胴体を斬り落とされていたりとマネットで見た死体とは死に方が決定的に違っていた。
「うおぉぉぉ!!」
崩れている建物の中から聞こえるスコーダーの雄たけび。
夜光達は急降下し、建物に突入する。
突入してからすぐのことだった。
夜光達は、床にある扉に向かって強力な落雷を落とすスコーダーの姿を確認し、その場で一時停止した。
「なにやってんだ?あいつ」
夜光がそう呟くと、床を見たスノーたがこう言う。
「床にある扉を破壊しようとしているようですね」
スノーラがそう言うと、通信モニターのゴウマがこう言う。
『それはおそらく、緊急避難用の地下シェルターだ。
生き残った騎士団達が、その中に非難したのだろう』
しかし突然、スコーダーは扉への攻撃をやめた。
「・・・」
スコーダーはゆっくりと振り返り、後ろにいたアスト達を視界に映す。
「アストぉぉぉ!!」
その雄たけびを共に、辺りに強い電気が走った。
『あいつ、オレ達に標的を変えたようだぜ?』
『じゃあとりあえず逃げるか』
そう言うと、夜光はその場で一目散に急上昇した。
『ちょっと!! 1人で逃げないでよ!!』
ライカがそう言うと、残りのアストも夜光に続いた。
騎士団本部から適当にイーグルを飛ばしていた夜光達が行き着いたのは、マネットから数キロ離れた荒野であった。
フルパワーで加速していた夜光達であったが、怒りのパワーで強くなっているスコーダーにとうとう追い抜かれた。
『この変で良いんじゃねぇか?』
いい加減、飛ぶのに疲れた夜光はメンバー達に通達する。
『そうですね。 では防御を中心にして、ビンズさんが疲労するまで、なるべく攻撃は行わないようにお願いします』
『『『『『了解』』』』』』
スノーラの注意をしっかり記憶し、夜光達は戦闘を開始した。
夜光達はまず散開し、スコーダーの周りを飛び交った。
「アストぉぉぉぉ!!」
憎い仇であるアストを前にして、スコーダーの怒りもさらに上がる。
レイピアを構え、スコーダーは猛スピードでライカに向かってジャンプした。
「くっ!!」
どうにかスコーダーの攻撃をかわすライカ。
しかし、スコーダーはすぐに態勢を立て直し、レイピアの先から矢のような電気をミサイルのように発射する。
発射速度と連射速度が異常に速いため、避けることは困難を極めた。
「うっ!!」
「クソッ!!」
どうにか避ける夜光達であったが、セリアとルドは避けきることができず、足と機体に数本刺さってしまった。
刺された足の痛みを忘れるために、イーグルのハンドルを力強く握り締める2人。
『セリアちゃん!! ルドちゃん!! 大丈夫!?』
容体を確認するセリナに対し、ルドはたくましくこう言う。
『どうってことはねぇよ。 オレよりセリアは大丈夫か?』
『わっ私もなんとか・・・』
2人を心配したいのは全員(夜光は微妙)同じだが、今はスコーダーの攻撃を避けることで精一杯。
「くっ!!」
スコーダーの攻撃を避けながら、イーグルガンで反撃に出るスノーラ。
しかし、スコーダーは超スピードで砲弾を難なくかわした。
それにも関わらず、スノーラを筆頭に、ほかのアスト達もスコーダーの攻撃を避けながらも、イーグルガンで応戦する。
しかし、これは倒そうと思って撃っているのではなく、先ほどのミサイル攻撃
のようなもの
を少しでも自分達から外させるためのものである。
人数では勝っているため、スコーダーも徐々にミサイル(のようなもの)が撃てなくなり始めた。
「アスト・・・コロス・・・」
スコーダーはアスト達の攻撃を避けながら、上空にいる夜光目掛けてジャンプした。
「ヤベッ!!」
慌てて急上昇する夜光。
驚異的な脚力を持つスコーダーでも、上昇する夜光には届かなかない。
最後のあがきのように、レイピアからミサイル(のようなもの)を撃つが、自分の限界以上の高度にジャンプしたため、夜光には当たらなかった。
その事実によって、夜光は不気味な笑みを浮かべてほかのアスト達にこんな通信を飛ばす。
『全員に通達!
俺はこの高度で戦うことにする。 ここならあいつの攻撃も届かないだろうし、こっちは撃ち放題だ。
右手が少し冷たいのが不満だがな。 以上!!』
そして、スコーダーが届かない高度を維持しつつ、スコーダーに向かってイーグルガンを放つ夜光。
砲弾が当たっているかどうかなど、もちろんお構いなし。
『『『『『・・・』』』』』
自分が安全地帯にいるとわかった途端、強気に出る夜光の姿に、全員言葉を失った。
『よくもまあ、あんな卑怯な手段ばかり思いつくものだ』
呆れるスノーラに、ルドがこう言う。
『そう言うなよ。 兄貴のやり方は確かに卑怯だけど、この状況で一番安全だと思うぜ?』
『そうね。 あたし達、正々堂々なんて言えるほどの余裕なんてないし』
夜光とよくいがみ合うライカですら、賛同し始めた。
『スノーラちゃん! お医者様がいつも”安全が一番”!!って言ってたよ!?』
『お姉様。 そそそれは”安全”ではなく、けっ”健康”だったと思うのですが・・・』
姉のボケをフォローするセリア。
それになごまされたのか、スノーラも『そうですね』と諦めたかのように、夜光の手段に乗ることにした。
夜光と同じように、スコーダーの届かない高度まで上昇するアスト達。
それを見ていたスコーダーはシャドーブレスレットを操作する。
シャドーブレスレットから『サンダーアップ』という音声が鳴り、スコーダーの体に電流が走る。
そして、スコーダーは空に向かって両手を上げる。
手が強く発光すると同時に、上空を漂う雲が集まり始めた。
「・・・んっ? なんだ?」
上空の雲の異変に気付いた夜光が、上を見上げる。
雲は辺りにある雲を取り込んでいき、徐々に黒く変色していく。
「まさか・・・」
夜光の脳裏にある光景が蘇った。
そして雲の中から、光と共に轟音が鳴り響く。
それが、夜光の脳裏の光景とマッチした。
「まさか! 雷雲!!」
それは新生アストとの戦闘で見せたあの雷雲であった。
『お前ら!! 引き返せ!!』
アスト達への忠告と共に、夜光は全速力で急降下した・・・
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