第76話 大切な人

暴走するスコーダーをマネットから引き離し、交戦する夜光達。

空を飛んで戦うことにより、スコーダーとの力の差を埋めることができたと思われた時!!

空を覆う雲が夜光達に牙をむいた。


夜光達の上空に出現した巨大な雲。

次第に黒く変色し、轟音が鳴り響く。

その瞬間、雲から雷が放たれた。


「くっ!!」

雷をどうにか避けることができた夜光。

地上にいるスコーダーの攻撃が届かない高度まで上昇したことにより、

上空に出現した雷雲との距離が近くなってしまった。

雷雲との距離が近ければ、それだけ雷に当たる確率が高くなる。

そのため、急降下せざるおえない夜光。

上昇していたほかのアスト達も、慌てて急降下する。


しかし、急降下すると、今度はスコーダーの攻撃が命中する確率が高くなってしまう。


「!!!」

案の定、スコーダーは攻撃が届く位置まで降下したアスト達にジャンプ攻撃や先ほどのミサイル攻撃で襲い掛かる。

もちろんアスト達は攻撃を避けるが、雷雲への警戒で、先ほどよりも心に余裕がない分、動きが少し悪くなっていた。


「くっ!!」

スノーラは慣れないイーグルキャノンでの攻撃を諦め、使い慣れているグレイシャをホルスターから引き抜き、スコーダーに発砲する。

だが、空中という狙撃には不安定な場所にいる上、焦りという心の重荷を抱えた状態では、銃に自信のあるスノーラでも当てるのは困難であった。


「きゃ!!」

「しっしまった!!」

その上、間違えてセリアのイーグルに当ててしまう始末。


その後も縦横無尽に空中を逃げ回るアスト達。

今のアストの装甲や機能は、先ほどの新生アストとスコーダーとの戦闘で、かなりのダメージを負っている。

それは、アストを装着し慣れている夜光達だからこそわかること。

この状態で攻撃を受けたりすれば、一発で戦闘不能に陥るであろう。

なので、真正面からの戦闘はできる限り避けつつ、スコーダーをこの場に留める必要がある。


しかし、上空からの落雷と地上からのスコーダーの攻撃によって、徐々に冷静さを失っていく。


「うっ!」

攻撃を避けていたセリアだったが、スコーダーの攻撃によって負傷した足をずっと放置していたため、徐々に痛み出した。

ケンタウロス族であるルドならともかく、セリアは体が弱い上、お姫様という戦闘とは無縁な立場のため、痛みを長時間我慢することができなかった。

そしてその一瞬の隙が命取りであった。


「きゃぁぁぁ!!」

頭上から降ってきた雷をまともに浴びてしまったセリア。

普通の人間や異種族が浴びれば確実に命を落とすほどの電流ではある。

新生アストの場合も装甲に穴が空いていたため、そこから感電死した。

セリアも足の装甲に穴が空いていたのだが、感電による痛みはあるにも関わらず、死んではいなかった。


「あ・・・」

全身に力が入らなくなったセリアは、イーグルにもたれ掛かるように倒れる。

セリアを乗せたイーグルは、そのまま地上へと落ちていき、近くにあった作業小屋に墜落した。

そこは、昔この辺りが鉱山でにぎわっていた時に、作業員が使っていた小屋である。

幸い、現在は使われていない。


「セリアちゃん!!」

セリナは一目散にセリアの元へ急行する。



「セリアちゃん!! 大丈夫!?」

小屋の残骸に埋もれていたセリアを抱きかかえ、必死に呼びかけるセリナ。

「お・・・お姉様・・・はい。 大丈夫です」

まだ痺れが少し残ってはいるが、セリアはなんとか無事であった。

アストを装着していたのもあるが、墜落した時の高度がかなり低かったことと、小屋がクッション代わりになったことが幸いした。

「よかったぁ・・・」

安堵の涙を流すセリナ。

・・・その時!!


「おぉぉぉ!!」

2人に猛スピードで突進してくるスコーダー。

「!!!」

セリナはとっさに、抱えていたセリアから離れて、そばに置いていた爆炎杖を掴もうとした。


「うっ!!」

爆炎杖を掴む前に、スコーダーに首を掴まれたセリナ。

「お姉様!!」

セリナを助けたいと思うセリアだが、まだ落雷による痺れが残っているため、動きが鈍くなっている。

「アスト・・・コロス・・・」

スコーダーは首元を掴んだままセリナを持ち上げると、掴んでいる手から大量の電流を放出した。

「あぁぁぁ!!」

言葉に表せない痛みがセリナを襲う。



「セリナ様!! セリア様!!」

セリナが襲われていることにいち早く気づいたスノーラが2人の元に駆けつける。

夜光とルドとライカも後に続く。



「うっ!!」

セリナは放電による痛みを耐えながら、スコーダーの腕を両手で力強く掴む。

「お姉様!! 何を!?」

「こっこうすれば、ビンズさん・・・動けない・・・よ・・・ね?」

あまりの痛みに、意識が薄れていくセリナ。

「そんな、無茶です!!」

セリナのアストである炎尾は、アストの中で最も防御力が高い。

能力が落ちているとはいえ、落雷を受けたセリアよりは、受けるダメージが少ない。

だが、セリアの言う通り、無茶なことに変わりはない。

「おぉぉぉ!!」

セリナの手を引き離そうと、スコーダーはさらに強い電流を放出する。

「あぁぁぁぁ!!」

さらに強い痛みに襲われながらも、セリナはその手を離そうとはしなかった。



「セリナ様!! セリア様!!」

2人の元に降り立った夜光達が見たのは、スコーダーの電流に耐えながら、その腕を必死に掴んでいるセリナの姿であった。

「セリナ!! お前何をやってんだよ!!」

ルドの問いに、セリナは途切れ途切れにこう返す。

「みん・・・な・・・早く・・・ビンズさん・・・を」

その言葉で、セリナが命を掛けて、ビンズを抑えていることに気づく夜光達。

「無茶です!! 早く手を放してください!!」

スノーラが手を離すように言っても、セリナは離そうとしない。

「早く・・・ビンズさん・・・かわいそう」

それは、純粋にビンズを止めたいというセリナの優しさから出た言葉であった。



「!!!」

スコーダーは、持っていたレイピアをセリナに向け、セリナを刺し殺そうと考えた。

「ダメッ!!」

その時、スコーダーのそばに倒れていたセリアが、スコーダーのレイピアを掴んだ。

痺れはまだ残ってはいるが、セリナにレイピアが向けられた瞬間、痺れなど忘れ、動くことができた。

それにより、スコーダーは身動きすることができなくなった。

それは、夜光達がずっと待っていた攻撃のチャンスであった。

『・・・』

だがスノーラ達は、2人の身を案じることばかり考えてそんなことなど頭になかった。


『エクスティブモード!!』

その時、エクスティブモードを起動させた夜光。

『!!!』

その起動音で我に返る3人。

思考が停止してしまっている3人に夜光が言う。

「お前らここに何をしに来たんだ?」

『・・・』

その一言により、3人もエクスティブモードを起動させる。


「いくぞっ!!」

夜光の号令と共に、4人はスコーダーに突撃する。

『おらぁぁぁ!!』

夜光とルドの同時攻撃がスコーダーの胴体に命中する。

アストの中で最も攻撃力が高い2人の同時攻撃は、スコーダーの体を吹き飛ばすぼどの威力を発揮した。

その衝撃によって、セリナから手を離したスコーダー。

『くらえっ!!』

そこへ追い打ちのように、スノーラの弾丸とライカの風が直撃した。

スコーダーは、小屋から数十メートル飛ばされた。



すぐさまセリアとセリナの無事を確かめる夜光達。

「はい。 私よりお姉様が・・・」

「わっ私も・・・大丈夫だよ?」

安堵はできないが、2人はどうにか無事であった。

電流を浴び続けたセリナは、やけどが少しひどかったが、命に別状はない。

「お二人共、今後は無茶なことはしないでください」

「はい」

「は~い」

注意したスノーラを含めた4人は、セリアとセリナの行動に、どこかにこやかになっていた。



「うっ・・・」

4人の連続攻撃によって、かなりのダメージを受けたスコーダー。

どうにか立ち上がろうとするが、上手く立ち上がることができない。

どうやら先ほどの放電を最後に、精神力が尽きたようだ。

その証拠に、上空の雷雲がいつの間にか消滅している。

生命力も精神力も停止したということは、いずれ動かなくなるということである。


「はあ!! はあ!!」

地面に倒れまま右手を夜光達に向け、電流を放とうするスコーダー。

だが、腕の周りに電流が少し走るだけで何も起きない。

「わぁぁぁ!!」

わめきながらそばに落ちていたレイピアを夜光達に投げつける。

もちろん、夜光達には届いてもいない。

「わぁぁぁ!!」

スコーダーはさらに、その辺の草を引きちぎり、夜光達に向かって投げつけた。

無駄なことだとわかっているのかはわからないが、スコーダーはその動作をやめない。

『・・・』

その姿から、ビンズがどれだけアストを憎んでいるのか、どれほど仲間たちの死が悲しかったのかが痛いほど伝わってくる。


「なあ、ビンズさんはどうするんだ?」

スコーダーを見るのがつらくなったルドが思わず目を背けてしまう。

「・・・私は好きなようにさせてあげたいと思う。 これ以上、ビンズさんを撃つことはできない」

スノーラは持っていたグレイシャをホルスターに収め、エモーションを解除した。

『・・・』

スノーラ以外のアスト達も、エモーションを解除し、スコーダーを最後まで見守ることにした。



エモーションを解除してもなお、暴れ続けるスコーダー。

しかし、徐々にその動作が遅くなり始めてきた。

このまま、憎しみと悲しみを抱いたまま止まると、誰もが思っていた。

・・・その時であった。


「・・・なんだ?」

突然現れたまばゆい光が、スコーダーを包み込んだ。

突然のことに驚いた夜光達は、とっさにマインドブレスレットに手を掛ける。

しかし、光から現れた複数の人影がそれを停止させた。


「ら・・・ラン君?」

思わずそう呟くセリナの前に現れたのは、昨日自殺したはずのランであった。

それだけではなく、ハロやコトル、リッシュ村の村長や村人たち全員が光から現れた。


「・・・ビンズさん、もうやめましょう。 僕の知っているビンズさんは、誰よりも優しく笑っている人です」

ランは悲し気な表情を浮かべながら、優しくビンズを抱きしめた。

「ビンズさん。 あなたが私達を大切にしているように・・・私達も、あなたが何よりも大切な人なんですよ? そんなあなたの苦しむ姿を、私達はこれ以上見たくありません」

「そうですよ、ビンズさん。 最後はあんな死に方しちゃったけど・・・俺、ビンズさんやみんなと会えたこと、すっげぇよかったって思っています!!」

まるでビンズを慰めるかのように、優しい笑顔を見せるハロとコトル。

「ビンズさん。 私を含めた村のみんなは、あなたがいなければ、とっくに死んでいました。

誰もが見捨て去った私達を、あなたは最後まで、見捨てずにいてくれました。・・・本当にありがとうございます」

『ありがとうございます!!』

リッシュ村の村長と村人たちは、これまでの恩を返すかのようにビンズに感謝の言葉を述べた。

「帰ってきてください、ビンズさん。 僕たちのところに・・・」

ランのその言葉と共に、ビンズが纏っていたスコーダーのアーマーがまるではがれるように解除された。


「ありがとう・・・みんな・・・」

涙ながらにみんなに感謝するビンズは、ランを強く抱きしめ返した。

すると、再び光がまぶしく輝き、ビンズ達を包み込んだ。



思わず目を閉じてしまった夜光達が目を開けると、そこには、横たわっているビンズの体だけが取り残されていた。


『・・・』

ビンズに駆け寄る夜光達が目にしたのは、優しい笑顔を浮かべて死んでいたビンズであった。

彼は、天国から迎えにきたラン達によって、憎しみと悲しみから解放され、天国へと旅立っただと夜光達は確信した。


「元気でね。 みんな・・・」

セリナがそれに向かってそう呟くと、どこからか『ありがとう・・・さようなら・・・』というビンズの声が聞こえたような気がした・・・

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